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M&A事業承継

洋菓子店のM&A・事業承継|後継者不足や経営課題を解決する方法

洋菓子店のM&A・事業承継|後継者不足や経営課題を解決する方法

コロナ禍を経て、洋菓子店は顧客の購買行動や市場環境の変化に直面しています。

これまで店舗での小売販売を中心としてきた経営モデルは限界を迎えつつあり、土産物店や百貨店への卸売、さらにECやSNSを活用したオンライン販売など、多様なチャネル戦略が欠かせません。

本記事では、洋菓子店が抱える課題を整理しつつ、事業承継やM&Aを活用して経営資源を強化し、生き残りと成長を実現するためのポイントを解説します。

記事のポイント

  • コロナ禍により、顧客行動が変化。店舗での小売が中心だった洋菓子店は販売チャネルの多様化に迫られる。
  • 洋菓子店の経営資源は「商品・ブランド」「販売チャネル・マーケティング」「設備投資」「労務管理」「衛生管理」がポイント。
  • M&Aを通じて、マーケティング機能、製造・流通機能、労務管理・衛生管理体制の強化が可能。

洋菓子店が直面する市場変化と課題

コロナ禍で変化した顧客行動

矢野経済研究所が公表した「コロナ禍における和洋菓子・デザート類市場に関する調査を実施(2021年)」によると、「和洋菓子・デザート類」の2020年の市場規模(予測)は、2,109億円であり年々微減しています。

洋菓子業界は販売チャネルを小売店舗等の店舗に依存することが多かったため、新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受ける業界です。特にコロナ禍による顧客行動の変化は、手土産需要の減少や、巣籠需要の増加といった形で現れ、洋菓子業界では、市場環境の変化に対応できる会社と、できない会社とで大きく二極化する傾向にあります。市場の変化に対応するため、新しい販売・営業方法を取り入れることが喫緊の課題となっています。

(出典)矢野経済研究所「コロナ禍における和洋菓子・デザート類市場に関する調査を実施(2021年)


販売チャネル多様化の必要性

洋菓子業界の販売チャネルは、自社の店舗での「小売販売」、コンビニ・スーパー・量販店・百貨店等の日常的な買い物を行う店舗への「卸販売」、駅・道の駅やギフト等のお土産の物販店等への「卸販売」等があります。加えて、近年ではD2C(Direct to Consumer)と呼ばれる、洋菓子製造者が、EC等のインターネット上の販売チャネルを通じて、直接販売する手法も注目されています。

洋菓子店の事業形態は、店舗のバックヤードに洋菓子の製造設備を設置し、店舗に来客した顧客に販売する方法が一般的でした。業態は「小売業」に分類されますが、実態は「製造業」と捉えた方が理解しやすい業態となります。一方、コロナ禍による市場の変化により、洋菓子店は販売チャネルの多様化がより求められる業態になりました。

これまでのように製造して店舗で売るというような「待ち」のスタイルではなく、自ら卸売先を開拓し、SNSやWebを通じて情報発信を行う「攻め」のスタイルに対応する必要が生じています。その場合、製造と店舗来客を起点に考える洋菓子店が持つノウハウそのものが異なるため、十分に対応できていないことが洋菓子業界における課題となっています。


洋菓子店に多い後継者不在と事業承継の現実

洋菓子店の場合、小規模店舗からスタートし、家族経営で展開するケースが多くみられます。例えば、旦那さんが商品企画・製造マネジメント・販売企画・マーケティング等を担い、奥さんが経理・財務・店舗対応を担うスタイルが典型的です。

その場合、両者が土日も関係なく働き詰めという状況となりがちです。経営者の高齢化が進む日本においては、業歴が長い洋菓子店程、経営層が体力の限界を迎え、事業承継の必要に迫れられるケースが多いです。

洋菓子店の有力な後継者は、親族若しくは従業員です。親族の後継者候補は、「既に遠方に居住し、別会社に就職している」又は、「洋菓子店に入社しているが、経営者としての経験・素質に不安がある」という場合があります。

事業規模が大きい場合、従業員を後継者候補として育成を進めているケースもあります。親族の後継者、従業員の後継者共に事業を承継する可能性が低い場合、第三者への承継を選択することとなります。

M&Aを検討する前に理解すべき洋菓子店の経営資源

これらの経営課題を解決する手段として、洋菓子店のM&Aが有効な手段となります。洋菓子店のM&Aを考える上で、洋菓子店の経営資源を以下のような視点で把握します。

商品・ブランド

洋菓子店の経営資源の一つは、商品となる洋菓子そのものです。洋菓子を生み出すためには、レシピが必要です。対象となる洋菓子店の「レシピ保有数」「レシピの開発者」「新商品開発の頻度」等が、経営資源を見極めるポイントとなります。レシピを生み出すのは洋菓子店に勤務するパティシエです。

レシピだけでなく、製造の技術を担うのもパティシエであり、商品の質を左右するのがパティシエであるため、パティシエについても把握しておく必要があります。洋菓子店経営の場合、商品の開発・製造のノウハウがパティシエ個人に依拠するケースも多くなりますので、商品の品質の再現性についても確認しておく必要があります。

販売チャネル・マーケティング活動

洋菓子店の販売チャネルは、自社店舗での小売販売、日常的な買い物を行う店舗や百貨店、土産物店(鉄道駅、空港、道の駅等)への卸売販売、インターネットによる直接販売に大別されます。これまでの洋菓子店は、自社店舗での小売販売を中心でした。そのため、店舗を起点にお客様を呼び込む販売方法を前提に考える傾向があります。

市場の変化に対応できる洋菓子店は、自社店舗の小売販売だけでなく、その他の販売チャネルを開拓しています。自社のブランドを支持する顧客層に応じ、百貨店や道の駅等、卸売の販売チャネルも開拓します。

卸売りには、賞味期限の短い生菓子ではなく、焼き菓子の方が流通させやすいといった特徴があるため、チャネルに応じた商品開発が必要です。また、卸売の場合、販売マージンが存在するため、利益率にも注意が必要です。

近年は、新しい営業手法として、ECサイトやSNSを通じた販売も注目されています。InstagramやFacebook、Twitter等で、自社商品のPRを行い、直接顧客とやり取りして販売する等のマーケティング活動を伴う販売戦略です。一般的な洋菓子店は、こういったマーケティングに関する知識・ノウハウが十分でない場合があります。

近年は、顧客にとって洋菓子という存在は「おいしい」ことは当たり前になってしまったため、商品の味だけでは差別化が難しくなりました。マーケティング活動により、商品を差別化し、ブランドを構築し、インターネットを利用し、なるべく利益率の高い方法で商品を販売することを検討する必要があります。

こういった新しい販売手法にどれだけ取り組んでいるかも、洋菓子店の経営資源を判断するポイントです。

設備投資

洋菓子店では、商品は主に店舗のバックヤードで製造されます。洋菓子製造に必要な設備は、冷蔵庫・冷凍庫といった商品・材料の保管に関するものや、ミキサー・オーブン・作業台・コンロ代・製氷機等の製造に関するものが中心となります。

経営資源を把握する上で重要なのは、その施設での製造能力です。多様なチャネルを開拓しても、それに見合う生産能力が必要であり、保有している設備が十分でない場合、新設や増床を検討する必要があります。

労務管理

洋菓子店は家族経営が中心です。組織化が十分に行われていない場合、労務管理の取組も確認が必要です。

社会保険料の支払いや、給与・残業代等の未払い費用や、タイムカード等の電子的なツールの導入、有給管理の仕組み等、洋菓子店によりその状況は様々であり、十分な労務管理体制が構築されていない可能性があります。

その要因の一つにパティシエの働き方が起因します。パティシエにとって新商品開発は「自己研鑽」と認識する商習慣があり、自己研鑽の時間は残業として認めないケースもあります。パティシエの働き方改革にどのように取り組んでいるかも重要な論点です。

衛生管理

衛生管理で重要な論点となるのはHACCP(ハサップ)への対応です。2022年6月1日から、原則として全ての食品事業者にHACCPに沿った衛生管理に取り組むことが必要となりました。洋菓子の製造販売を行う事業者も、規模の大小に関係なく、対応が必要となります。

具体的には、食品衛生管理者を指定した上で、施設の清掃・消毒・清潔状態等の衛生管理や、使用する水の水質検査、ねずみ・昆虫対策、廃棄物・排泄の取扱い等について、衛生管理計画や手順書を作成し、実施状況を記録する等の対応が求められることとなります(参考:厚生労働省「HACCP(ハサップ)」。HACCPの対応は洋菓子店にとって必須ですが、店舗によって、取組の程度は異なります。

M&Aで解決できる洋菓子店の経営課題とメリット

M&Aを通じて、洋菓子店が抱える経営課題の解決や、それぞれの事業の強みの強化、弱点の補完が可能です。具体的には以下のようなケースが想定されます。

マーケティング機能の強化

卸売業や既にECを展開している他の小売事業者は、強いブランド力を持つ洋菓子店をグループに迎え入れることに関心があります。卸売業であれば、自社ブランドの獲得が目的であり、他の小売事業者の場合は、自分達の顧客に、洋菓子店の商品を販売することでのシナジーを見込んでいます。

その場合、卸売業を買手企業としてM&Aする場合、買手企業側で営業人材を保有している可能性が高く、グループ傘下に入ることで営業機能を強化することが可能です。

また、既にECを展開している小売事業者とのM&Aの場合は、買手企業がインターネットを通じた販売やマーケティング手法にノウハウを持っており、そのノウハウを活かして、洋菓子店舗のマーケティング機能を強化することが可能です。

製造・流通能力の強化

多様な販売チャネルの獲得を目指す場合、チャネルに対応できる生産量を確保することが課題となります。そのため、洋菓子店が保有する設備・人材による生産能力が問われます。

レシピやノウハウ、ブランドは洋菓子店で保有しつつ、M&Aにおける買手企業のネットワークを通じて、製造を別の事業者へ委託し、OEMで製造することができれば、生産能力を拡大することが可能となります。

また、買手企業が卸売業の場合、多様な流通網を保有しているため、物流コストの低下を見込むことができます。

労務管理・衛生管理体制の強化

規模が大きい会社が買手となる場合、既に労務管理や衛生管理の体制を確立させていたり、一歩進んだ労務管理の方法を取り入れているケースが想定されます。

そのため、洋菓子店が一から労務管理・衛生管理の体制を構築・強化するのではなく、M&Aを通じて、既に出来上がった仕組みを取り入れることで、スムーズにそれぞれの体制の強化を図ることが可能です。

「後継者不足」や「地域に根ざしたブランド承継」は、洋菓子店にとって重要なテーマです。実際の成功事例はこちらをご覧ください。

広島銘菓が実現した地域を超えた事業承継のM&A事例

洋菓子業界における最新のM&A事例

株式会社神戸物産

兵庫県加古川郡に本社を置く株式会社神戸物産は、2020年4月に同グループ会社の株式会社オースターフーズ(兵庫県姫路市)を通じて、洋菓子製造販売会社である株式会社サラニ(岡山県瀬戸内市)の全事業を引き受け、株式会社オースターフーズの瀬戸内工場として稼働させることとなりました。

参考:新規食品工場取得のお知らせ

竹下製菓株式会社

佐賀県小城市に本社を置き、「ブラックモンブラン」等のアイスクリーム製造を展開する竹下製菓株式会社は、岡山市の製パン製造会社である株式会社清水屋食品を子会社化しました。

まとめ:洋菓子店が生き残るためのM&A活用戦略

洋菓子業界は、コロナ禍により顧客行動が変化したため、販売チャネルを多様化したり、新しいマーケティングに取り組む必要に迫られています。

洋菓子店はこれまで、店舗での小売が中心だったため、販売チャネルの開拓やマーケティングについてノウハウを有していないことが課題であり、その変化に対応できる会社とできない会社が二極化する傾向があります。

M&Aはこういった経営課題を解決するための一つの手段であり、自社の経営資源の強化や、弱点の克服にも寄与する可能性があります。後継者不足が注目されがちですが、課題を乗り越えることは、自社の継続・成長を実現する機会でもあり、洋菓子店が生き残り、成長していくための経営戦略が必要となります。

そういった経営戦略の立案される際は、当社にご相談頂ければ、様々な事例から専門のコンサルタントがアドバイス致しますので、お気軽にご連絡ください。

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クレジオ・パートナーズ株式会社広島を拠点に、中国・四国地方を中心とした地域企業のM&A・事業承継を専門に支援しています。資本政策や企業再編のアドバイザリーにも強みを持ち、地域金融機関や専門家と連携しながら、中小企業の持続的な成長をサポートしてきました。補助金や制度活用の知見を活かし、経営者に寄り添った実務的な支援を提供しています。
URL  :https://cregio.jp/

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