機械器具卸売業のM&Aでおさえるべきポイント
機械器具卸売業は、製造事業者(メーカー)とユーザーをつなぐ存在として、「自動車」「食品製造」「化学工業」など、日本のものづくり産業を根幹から支えてきました。
一方で、近年はメーカー直販の拡大や取引先産業の変化、経営者の高齢化などにより、従来のビジネスモデルだけでは将来の見通しを描きにくい局面を迎えています。
こうした環境変化に対応する手段として、事業承継や成長戦略の一環としてM&Aを活用する動きが、機械器具卸売業界でも広がりつつあります。
本コラムでは、業界特有の課題を踏まえながら、機械器具卸売業のM&Aでおさえておくべきポイントを分かりやすく解説します。
目次
機械器具卸売業界の概要と動向

経済産業省「商業動態調査」によると、2021年の機械器具卸売業の商業販売額は106.4兆円と、依然として日本経済において大きな存在感を持つ産業です。リーマンショック以降の落ち込みからは回復傾向にあり、製造業全体の持ち直しと連動する形で推移しています。
一方で、近年はメーカー直販や業界特化型ECプラットフォームの拡大により、従来型の卸売モデルは転換期を迎えています。そのため、単なる「モノを流す存在」から、技術情報の提供、最適な製品選定、現場課題の解決提案といった付加価値を提供できる商社への進化が求められています。
機械器具卸売業は、取扱製品により「産業機械器具」「電気機械器具」「自動車関連」「その他機械器具」などに分類され、測定具、切削工具、制御機器、作業工具など、多岐にわたる専門商材を扱う点が特徴です。この専門性の高さが強みである一方、経営面では特有の課題も抱えています。
機械器具卸売業界が直面する主な課題
機械器具卸売業界の課題として、「後継者の不在」「卸売業の高付加価値化」「取引先の業界の影響を大きく受ける」「バックオフィス機能が弱い」「仕入価格の高騰化への対応」が挙げられます。

後継者不足の深刻化
帝国データバンクの調査によると、2021年時点で全国全業種の後継者不在率は65.1%に達しています。機械器具卸売業も例外ではなく、経営者の高齢化とともに、親族内承継が難しいケースが増えています。
卸売業としての付加価値低下
インターネットの普及により、卸を介さずメーカーが直販するケースや、機械器具に特化した販売プラットフォーム等の出現により、機械器具卸売業の付加価値が相対的に低くなったため、顧客ニーズの把握や対応、顧客に役立つ情報提供等、選ばれる商社として、新しい付加価値を提供する業態への変化が求められています。
取引先産業への依存度の高さ
機械器具卸売の事業者はその専門性が特徴の一つであるため、取引先が産業分野に特化する傾向があります。例えば自動車メーカーが大きな取引先であれば自動車産業の動向に左右され、取引先が食品メーカーであれば食品産業に、化学メーカーであれば化学産業に左右される可能性が大きい業態です。
バックオフィス機能の脆弱さ
機械器具卸売業は、商品の専門知識を有した販売のプロです。そのため、経営者は売ることについては得意であり、強化している一方、経理・財務、営業管理、販売管理といった管理業務は後回しになる傾向が多く、バックオフィス機能が弱いことが課題として挙げられます。
仕入価格高騰への対応
原材料・エネルギー価格の上昇により、仕入条件の改善やスケールメリットの確保が経営課題として浮上しています。
機械工具卸売業がM&Aで解決できる課題
機械工具卸売業において、M&Aで解決できる経営課題は「後継者不在の課題解決」「バックオフィスの一元管理」「共同仕入で仕入値を下げる」「グループ全体で支え合う体制を構築」が挙げられます。

後継者不在の課題解決
M&Aを通じて、株式を第三者に引き継ぐことで、現経営者は譲渡対価を得つつ引退し、新しい親会社に経営を引き継ぐことが可能となります。経営を引き継ぐことで、従業員の継続雇用や取引先との取引の維持が可能となります。
引き継いだ後は、親会社の経営者が子会社の社長を兼務する場合や、親会社から公認の経営者が派遣されることが一般的です。売手企業の経営者が継続して勤務を望む場合は、引継ぎ等を目的に、一定期間の間、会長職として在任するケースがあります。
バックオフィスの一元管理
機械器具卸売業の会社の大きな課題の一つである管理業務について、M&Aを通じて、買手となる親会社が一元的に担うことで強化することができます。親会社が持つシステムや仕組みを導入し、管理業務を親会社に任せることで、商社の販売業務に集中することができます。
特に親会社がバックオフィスのデジタル化を進めている場合や、一部アウトソーシングにより経理を行う等、先進的な取組をしている場合、その仕組みや人材を利用することが可能であり、自社のバックオフィス機能をM&Aを通じて強化することができます。
共同仕入で仕入値を下げる
商品を仕入れる際に、仕入額の規模に応じて、その料率が変わり、取扱額が大きくなればなるほど、安く商品を仕入れることができます。
M&Aでグループを形成することで、親会社と一体となって商品を仕入れ、取引額の規模を大きくすることができれば、その分、仕入値が下がり、同じ販売額でも利益を確保することが可能になります。
グループ全体で支え合う体制を構築
機械器具卸売業は取引先の影響を大きく受ける事業です。M&Aでグループを形成することで、そのリスクを低減することができます。
具体的には、A社は主な取引先が自動車業界、B社は主な取引先が食品産業、C社は主な取引先が化学産業だった場合、それぞれが単体のままだと各産業の影響に強く左右されますが、A,B,C社がグループを形成することができれば、どれか一つの産業に厳しい局面や大きな変化があった場合でも、他の業界の企業が支えることが可能であり、グループとして取引先のポートフォリオを形成することができます。
機械工具卸売業界のM&A事例
吉岡機工株式会社(広島県広島市)
機械工具専門商社の吉岡機工株式会社(広島県広島市)は、東京都で同じく機械工具の販売を行う株式会社利工堂を子会社化しました。
参考記事:広島で80年続く機械工具の専門商社。東京の同業を引き継ぎ
株式会社Cominix(大阪府大阪市)
切削工具・耐摩工具・光製品等を販売の主力とする株式会社Cominix(大阪府大阪市)は、切削工具商社を運営してきた株式会社澤永商店(福岡県福岡市)を子会社化しました。
参考記事:株式の取得(子会社化)に関するお知らせ
おわりに
機械器具卸売業は、日本のものづくり産業を支える重要な役割を担い、2021年の商業販売額は106.4兆円と大きな市場規模を誇ります。
一方で、他の多くの業界と同様に経営者の高齢化や後継者不在が深刻化しており、事業の将来像を描けないまま、やむを得ず廃業を選択するケースも少なくありません。廃業は、経営者個人の問題にとどまらず、地域経済における取引の断絶や雇用の喪失といった影響を及ぼします。
M&Aは、こうした後継者不在の課題を解決する手段であると同時に、機械器具卸売業が抱えやすいバックオフィス機能の脆弱さの補完や、共同仕入による仕入価格の改善、利益率の向上といった経営課題の解決にも有効です。単なる「会社を譲る手段」ではなく、経営体質を見直す機会としてM&Aを捉える経営者も増えています。
また、特定の産業動向に影響を受けやすい業態であるからこそ、M&Aを通じてグループを形成し、取引先や販売先のポートフォリオを分散することで、安定した経営基盤を構築することも可能になります。実際に、業界内では再編の動きが進み、企業規模や地域を超えたM&Aが増加しています。
こうした環境の中で、「何もしない」という選択が、結果的に事業継続の可能性を狭めてしまうケースもあります。いつ・どのような形で事業を引き継ぎ、成長させていくのかは、経営者一人ひとりに委ねられた重要な意思決定です。
機械器具卸売業の後継者不在や、今後の経営戦略、M&Aの活用についてお悩みの場合は、ぜひ一度ご相談ください。業界特性や地域事情を踏まえ、豊富な事例をもとに、専門のコンサルタントが実務的な視点からアドバイスいたします。
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クレジオ・パートナーズ株式会社広島を拠点に、中国・四国地方を中心とした地域企業のM&A・事業承継を専門に支援しています。資本政策や企業再編のアドバイザリーにも強みを持ち、地域金融機関や専門家と連携しながら、中小企業の持続的な成長と後継者募集をサポート。補助金や制度活用の知見を活かし、経営者に寄り添った実務的な支援を提供しています。
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