
建設業は地域の雇用を支える重要な産業ですが、後継者不足や人材の高齢化といった課題が深刻化しています。こうした課題を解決する手段として注目されているのが「建設業のM&A」です。
本記事では、建設業M&Aの市場動向や業界特有の注意点、事業承継を目的とした大手・中小企業の成功事例をわかりやすく紹介し、建設業界でM&Aを活用する際のポイントや今後の展望について解説します。
目次
建設業M&Aの市場動向
建設業の市場規模と投資額
国土交通省「令和2年度建設投資見通し」によると、2020年度の建設投資額は63.1兆円となっています。過去30年の建設投資額の推移を見ると、1996年の82.8兆円をピークに、2010年までは減少傾向だったものの、翌2011年から増加傾向に転じました。
増加傾向に転じた理由として、2011年に発生した東日本大震災における復興需要や、その後の大雨・台風等に対する災害復興需要に加え、2020年開催予定だったオリンピック(実際は2021年に開催)に向けた新規需要が後押しとなりました。

【出典】国土交通省「令和2年度建設投資見通し」より当社加工
また、建設業は日本GDPのうち5.7%を占めており、産業全体の就業者のうち、7.4%の雇用を支えています。建設業界の市場は、日本全国のインフラを維持する大きな市場となっています。


【出典】一般社団法人日本建設業連合会「建設業ハンドブック2020」
建設業の産業構造と特徴
建設業は「業種別許可制度」となっており、事業を営む上で国土交通省の許認可が必要なことが特徴です。建設業の許可には、「業種別の許可」と「一般建設業の許可」「特定建設業の許可」があります。
「業種別の許可」について、建設業許可工事の種類は29種類あり、一式工事2種類と専門工事27種類が存在します。工事の種類の詳細を見ると、一式工事には「土木一式工事」「建築一式工事」があります。専門工事には、①大工工事業、②左官工事業、③とび・土工工事業、④石工事業、⑤屋根工事業、⑥電気工事業、⑦管工事業、⑧タイル・レンガ工事業、⑨鋼構造物工事業、⑩鉄筋工事業、⑪舗装工事業、⑫しゅんせつ工事業、⑬板金工事業、⑭ガラス工事業、⑮塗装工事業、⑯防水工事業、⑰内装仕上工事業、⑱機械器具設置工事業、⑲熱絶縁工事業、⑳電気通信工事業、㉑造園工事業、㉒さく井工事業、㉓建具工事業、㉔水道施設工事業、㉕消防施設工事業、㉖清掃施設工事業、㉗解体工事業といった27種類の専門工事があります。
「一般建設業の許可」「特定建設業の許可」については、規模によって区別されており、元請けする1件の工事について、下請けに出す金額の総額が4,000万円以上の場合は「特定建設業」に該当します。また、営業所のエリアによって、都道府県知事認可となるか、国土交通大臣認可となるかが分かれます。
(建設業の許可工事29業種と許可区分)

また、建設業は基本は元請けが下請けに発注する構造になっており、多重下請け構造となっていることも特徴です。
(建設業における下請け構造図)

建設業界の課題
後継者不在と高齢化
建設業において大きな課題は、後継者不在です。帝国データバンクの調査によると、2020年は建設業全体で70.5%の企業が後継者不在となっています。
また、建設業では「就業者数の減少」「就業者の高齢化」も深刻な問題となっています。建設業の就業者は年々減少・横這い傾向にあります。就業者の年齢は、55歳以上が約35%、29歳以下が約12%となっており、他産業と比較して、高齢化が顕著に現れています。


【出典】一般社団法人日本建設業連合会「建設業ハンドブック2020」
人材不足と生産性の低さ

【出典】公益財団法人日本生産性本部「生産性データベース」より当社加工
加えて、建設業は、労働集約型産業であり、就業者・時間あたりの付加価値労働生産性が全産業と比較して低い産業となっていることにも注意が必要です。
建設業M&Aの目的
建設業における買手企業のM&Aを活用する主な目的は以下のとおりです。
- 経験がある現場監督や職人の獲得
- 自社が弱い商圏の獲得
- 土木/建築、公共/民間等を組み合わせた事業補完関係の構築
- 技術力、事業ノウハウの獲得
- 取引先の獲得(建設業は人の繋がりが重要)
- 経営規模や業歴の獲得、工事実績の引継ぎ
- ワンストップの施工体制の構築
- 外注している施工の内製化、資材の一括購入によるコスト削減
建設業の課題である業界全体の高齢化や人材不足を補うための目的である場合が多いです。加えて、M&Aの売手企業が持つエリアや取引先といった商圏の拡大、相手方の持つ技術力・事業ノウハウの獲得も主な目的です。
M&Aを活用して下請け構造をワンストップで対応し、シナジー効果を目指すケースもあります。その他、異業種への参入にM&Aを活用するケースもあります。
建設業M&Aの事例紹介
日本乾溜工業とニチボーの事例
2020年7月、土木工事業を展開する日本乾溜工業(福岡県福岡市)は、九州全域の法面事業及び地盤改良事業を展開し、高い技術力と実績を有するニチボー(福岡県福岡市)をM&Aにより子会社化しました。
日本乾溜工業にとって、建設業をエリア・技術力・営業力を強化するためのM&Aとなります。
参照:http://www.kanryu.co.jp/ir/pdf/relese/20200731kogaisha.pdf
マエダハウジングとメディアジョンの事例
2020年9月、地域密着のリフォーム事業を展開するマエダハウジング(広島県広島市)は、メディア事業・人材サポート事業を展開しているメディアジョン(広島県広島市)を子会社化しました。
“「ありがとう」と「良かった」が集まる感動コミュニティー企業”を目指すマエダハウジングが新たにメディア事業を展開するきっかけとなりました。
関連記事:「想いのバトン」を繋ぐM&A、広島No1.リフォームグループ|株式会社マエダハウジング
四電工と関西設備の事例
2019年8月、四国電力グループの電気工事、建築設備・電力関連工事等を担う株式会社四電工(香川県高松市)は、高知県内の空調設備工事、給排水・衛生設備工事等を手掛ける株式会社関西設備(高知県高知市)を子会社化しました。
参照:https://www.yondenko.co.jp/_wp/wp-content/uploads/2021/11/20190823.pdf
当社が支援した建設業M&A事例
当社が支援した建設業M&Aの事例を紹介します。
内装建材メーカー×建設業のM&A事例|ネット×リアル融合戦略

広島市の工房志楽は、ECを活用して全国的な販路を拡大してきた内装建材メーカーです。しかし、施工体制を自社で持たないことが課題でした。そこで、同じく広島市で施工実績を持つティーエス・ハマモトをM&Aにより子会社化。
このM&Aにより、ネット販売の強みと現場施工のノウハウを掛け合わせることで「製造・販売・施工を一気通貫で提供できる体制」を実現しました。結果として、顧客満足度の向上だけでなく、建材調達コストの削減や工事受注機会の増加など、持続的な成長につながっています。
関連記事:建材メーカーのM&A成功事例|ネット販売ノウハウ×現場施工で売上拡大
みどりホールディングスのM&A事例|山口調理機を子会社化し成長戦略を加速

本記事は、みどりホールディングス(広島県広島市)が後継者不在の山口調理機(山口県防府市)をM&Aで子会社化し、事業シナジーと成長戦略を加速させた事例を紹介しつつ、仲介会社に求められる役割や今後のM&Aの方向性を語ったインタビューです。
関連記事:地方企業のM&A成功事例|みどりホールディングスが山口調理機を承継した理由と効果
建設業の事業承継M&A事例|川口建工と福永建設工業の挑戦と成長戦略

本記事は、後継者不足に悩む川口建工(広島県福山市)がM&Aを通じて事業承継を実現し、事業拡大を目指す福永建設工業(広島県広島市)がその挑戦を受け継いだ、建設業における事業承継M&Aの実例を紹介しています。
関連記事:後継者不足を乗り越える建設業M&A|川口建工と福永建設工業の事業承継ストーリー
建設業M&A事例|東亜グラウト工業の高い技術力と地域創生の成長戦略

本記事では、建設業におけるM&Aの活用事例として、東亜グラウト工業(東京都新宿区)が高い技術力と独自戦略で地域創生や事業成長を実現している取り組みを紹介しています。
関連記事:建設業におけるM&A活用事例|技術力を強みにシナジーを生む東亜グラウト工業の挑戦
まとめ|建設業におけるM&A活用の今後
建設業は、巨大な裾野を有しており、全国の雇用を支える産業であり、地域においても重要な産業になっています。業界では、中小企業を中心に「後継者不足」「就業者の減少・高齢化」「生産性の向上」が課題となっており、これらの課題を解決するためのM&Aや、新規事業展開に向けたM&Aの活用が展開されています。
一口に建設業と言ってもその在り方は様々です。当社の実績においても、建設業の割合は多いですが、土木・建築といった建設業の中でも、それぞれの業種によってどのようなニーズがあるかをしっかり把握して提案することが求められています。
加えて、後継者不在により、M&Aによる事業承継を望む企業では、それぞれキラリと光る強みがあることが多いです。そういった業界・業種・企業ごとのニーズや想いを把握し、それぞれの企業が持つ強みを組み合わせた提案をできることが当社の強みとなっています。
当社では中国・四国地方を中心にM&Aのご支援をさせて頂いております。建設業は地域経済を支える重要な産業であり、当社の実績・ご相談が多い業種となっております。
M&Aを通じて地域経済、地域のお客さまへお役立ちが出来るよう、微力ながら日々努めておりますので、建設業に関するM&Aに関するご相談や、ご不明点等ございましたら、お気軽にご連絡下さい。
クレジオ・パートナーズ株式会社広島を拠点に、中国・四国地方を中心とした地域企業のM&A・事業承継を専門に支援しています。資本政策や企業再編のアドバイザリーにも強みを持ち、地域金融機関や専門家と連携しながら、中小企業の持続的な成長をサポートしてきました。補助金や制度活用の知見を活かし、経営者に寄り添った実務的な支援を提供しています。
URL :https://cregio.jp/
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