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コラム COLUMN

M&A事業承継

医療法人(病院・クリニック)におけるM&Aのポイント

医療法人(病院・クリニック)は、コロナ禍に見舞われる日本を支える重要な産業である一方、医師等の高齢化により事業承継の課題が深刻化しています。事業承継を解決する手段としてM&Aが注目されていますが、医療法人は一般的な株式会社のM&Aとは論点が異なります。本コラムでは、医療法人(病院・クリニック)おけるM&Aのポイントをまとめました。

記事のポイント

  • 医療法人(病院・クリニック)で高齢化が進展。後継者不在率も高く、事業承継が深刻な課題に。
  • 赤字化する医療法人が増加。医療法人を廃業する場合は、廃業コストが高く、M&Aにより経営課題と後継者不在の両方を解決することが求められる。
  • 事業主体により様々なスキームが存在。早めに専門家に相談する必要がある。


医療法人(病院・クリニック)における課題

医師の半数が50代以上、進む医師の高齢化

厚生労働省の統計によると医師・歯科医師・薬剤師の数は年々増加する一方、その高齢化は進んでいます。医師を例にすると、2008年時点で50代以上の医師が占める割合は42.6%だったのに対し、2020年には50.0%と増加しています。同じ傾向が、歯科医師・薬剤師についても確認できます。ただし、薬剤師については、50代以上の割合が39.2%に留まっており、医師・歯科医師と比較すると若い年齢層の割合が多くなっています。

【出典】厚生労働省「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」より当社加工

約7割の医療機関で後継者が不在

病院・診療所(クリニック)の後継者不在率は、2017年時点で全業種平均よりも高く、病院で68.4%となっています。診療所(クリニック)の場合、特に無床診療所において高く、89.3%となる一方、有床診療所においても79.3%と比較的高い割合となっています。高い後継者不在率を示す一方、病院・診療所・歯科診療所数の推移は、10年前と比較して横ばい傾向となっており、医師等のニーズは依然として大きく存在します。

【出典】(左図)日本医師会総合政策研究機構「医業承継の現状と課題」より当社加工/(右図)厚生労働省「医療施設(静態・動態)調査(確定数)」より当社加工


医療事業の類型

医療事業の類型は、国が主体となる国立病院、大学が主体となる大学病院、都道府県・市区町村等が主体となる公立病院等が存在していますが、一般病院については、医療法に基づき、主に以下のように分類されます。

病院

病院とは病床数が20床以上である医療施設を指します。病院の中では、規模や機能に応じて、以下のような施設が存在します。

総合病院

患者100人以上の収容施設を持ち、診療サービスに「内科、外科、産婦人科、眼科及び耳鼻咽喉科」を含み、かつ「集中治療室、講義室、病理解剖室、研究室、化学、細菌及び病理の検査施設、その他諸々」の施設を持つ病院を指します。

特定機能病院

高度の医療の提供、高度の医療技術の開発及び高度の医療に関する研修を実施する能力等を備えた病院を指します。

大病院

病床数が200以上の病院を指します。

地域医療支援病院

地域医療の確保を図る病院として相応しい構造設備等を有するものを、都道府県知事が個別に承認しており、第一線の地域医療を担う、かかりつけ医、かかりつけ歯科医等を支援する能力を備えている病院を指します。

臨床研究中核病院

日本発の革新的医薬品・医療機器の開発などに必要な質の高い臨床研究を推進するため、国際水準の臨床研究や医師主導治験の中心的役割を担う病院を指します。

診療所・クリニック・医院

病床数が19床以下であり、医師または歯科医師が医業または歯科医業を行う医療施設を指します。

助産所

助産師が公衆又は特定多数人のためその業務(病院又は診療所において行うものを除く)を行う医療施設を指します。

病床規模別にみる病院の施設数

病床規模別に病院の施設数を見ると、一番割合が多いのは、有床の一般診療所(クリニック)の10-19床規模(31.1%)であり、病院(20床以上)の中では、50~99床の規模が一番多く(14.2%)、次いで100~149床、150~199床の規模が約10%となっています。


【出典】厚生労働省「令和2(2020)年医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況」より当社加工

後継者不在、経営状況の課題が大きな課題となる

医療・介護業界は、これまで示したデータのとおり、医師を含めて高齢化が進んでいます。そのため事業承継を行う必要がありますが、実際に親族に病院を引き継ごうと思った場合、後継者候補が医師でない等のケースが多く、後継者不在率が他業種と比較して高くなりがちであることが、業界の課題となっています。

加えて、日本における人口減少により、外来患者数が減少する地域も多く、診療報酬・介護報酬の点数の改定等の影響もあり、収益面の悪化が経営課題となっている医療機関も増加しています。病院を長く経営すると、施設・設備の老朽化で改修や新規の設備購入等の投資が必要となってしまい、その投資が更に財務を圧迫してしまうため、投資コストを回収できる経営状況への改善が、大きな課題となっています。

独立行政法人福祉医療機構が公表している「医療法人の経営状況」では、医療法人の事業利益は減少する一方、2020年度はコロナ患者への対応等に基づく補助金収益により減収分が賄われたことから、経常利益は増加しています。医療法人における赤字割合は、2019年の22.4%から、2020年には25.9%上昇しており、コロナ以前に比べて、厳しい経営状況に陥る法人も少なくない状況であると説明されており、病院の厳しい経営状況が覗えます。

【出典】出展:(独)福祉医療機構「2020年度(令和2年度)医療法人の経営状況



医療法人(病院・クリニック)のM&A

事業の主体により異なる承継スキーム

医療法人は株式会社と異なるため、株式の売買によるM&Aはできません。医療事業の主体は、医師個人が都道府県知事に届出をして開設したものと、法人等の医師以外の者(医療法人)が都道府県知事の許可を受けて開設したものがあります。その中でも、医療法人は、財団と社団に分かれ、社団については「持分有」と「持分無」に分かれます。また、「持分有」の社団の中でも、定款において、「社員の退社に伴う出資持分の払戻しや医療法人の解散に伴う残余財産分配の範囲につき、払込出資額を限度とする旨」を定めている場合、「出資額限度法人」となります。それぞれの事業主体により、承継スキームが異なる点に注意が必要です。

持分有と持分無の社団

2007年の医療法改正により、医療法人における配当禁止を徹底するため、出資の概念のある持分有りの社団法人の新規設立を認めず、新しく設立する場合は、持分無の社団法人のみとすることとなりました。法改正前の社団法人については「経過措置型医療法人」と現在も存続しており、下記のとおり、未だ多くの割合を占めています。

【出典】厚生労働省「種類別医療法人数の年次推移

医療法人の選択肢は「廃業」「親族内承継」「第三者承継」

医療法人の「廃業」はコスト負担が大きい

医療法人(病院・クリニック)の将来の選択肢は「廃業」「親族内承継」「第三者承継(M&A)」の3つです。「廃業」については、医療法人は他の事業よりコストが高い点を気をつける必要があります。廃業に伴う、医薬品・医療機器等について適正に処分を行う必要があり、施設の解体費用等を考えると、廃業するだけでも大きなコストが必要となり、十分な廃業費用を備えておく必要があります。コスト負担の視点だけでなく、医療法人の廃業は、その地域の医療サービスを提供する機能が失われることとなり、地域にとって大きな損失となります。地域に住まう住民、雇用している従業員や取引先との関係を考えた時、廃業ではなく別の選択肢が求められます。

廃業以外の選択肢としては親族後継者への承継が考えられますが、そもそも親族が医師であったり、医療経営に精通していることが求められるため、後継者の有無や性質により大きく左右されます。親族後継者の引継ぎが難しい場合、M&Aによる第三者の引継ぎが考えられます。

経営課題解決にも効果を発揮するM&A

医療法人におけるM&Aの一番の効果は後継者不在の課題解決です。医療サービスを提供する主体が失われることは、地域・経済・雇用の面でインパクトが大きい損失となります。医師個人にとっても廃業と比較した時に、経営状況にもよりますが負担が軽減される可能性があります。

また、M&Aは、後継者不在の課題解決以外にも、医療法人の経営課題を解決する可能性を秘めています。例えば、M&Aによりグループ化されることによりグループで保有する病床数が増加します。現在、病床数は厚生労働省が示す「基準病床数制度」により、一定の制限が行われています。グループにより病床数を確保できれば、これまで急性医療が中心だった病院が、回復期医療も行える等の新しい医療サービスを提供することができます。加えて、エリアの拡大や医師の獲得による診療科目の増大等、医業収入の増加のための経営施策を展開することができます。加えて、コスト面においても医師を最適配分することによる経営資源の有効活用や、医療機器・燃料・設備保守等を共同化することによりコストを抑えることができる等の効果を期待することができます。




医療法人(病院・クリニック)の事業承継スキーム

一般社団法人医業承継士協会が発刊している「クリニックの第三者承継実務 ~売り手・買い手の承継手順と法務・税務」を参考に、事業主体ごとの事業承継スキームを示します。

個人クリニックが売手の事業承継スキーム

個人クリニックが売手となる場合、買手が個人である場合と、医療法人である場合に分かれます。個人クリニックは、いわゆる個人事業主となるので、売手が個人クリニックとなる場合は「事業譲渡」というスキームを採用することとなります。

個人クリニック⇒個人

個人クリニック⇒医療法人



医療法人が売手の事業承継スキーム

医療法人が売手になる場合、買手が個人である場合と医療法人である場合に分かれます。加えて、それぞれ法人ごと買い取るのか、事業のみを買い取るのかで分かれます。以下では持分あり社団の場合の事業承継スキームを解説します。

医療法人⇒個人(法人ごと)


医療法人⇒個人(事業のみ)

医療法人⇒医療法人(法人ごと)



医療法人⇒医療法人(事業のみ)



おわりに

医療法人(病院・クリニック)は、後継者不在率が高く、事業承継が課題となっています。加えて、日本の人口減少により外来患者数が減少する等の経営課題を抱えており、赤字経営の医療法人も増えています。医療法人は、廃業する場合、医薬品・医療機器等の処分や施設の解体費等の廃業コストが比較的大きい点も特徴であることに加え、医療法人が失われると、その地域での医療サービス提供者がいなくなってしまい、経済・雇用面でも大きな損失を被ります。そのため、医療法人を継続する手法の一つとして、M&Aが注目されており、M&Aの場合、病床数の増加を活かす等、経営面での課題解決を図ることも可能となります。

医療法人(病院・クリニック)は、当社においても近年ご相談の件数が目に見えて増加しつつあります。一般的な株式会社と異なり、主体により様々なスキームを検討する必要があるため、医療法人の後継者不在や経営課題に悩まれる場合、早めに専門家に相談することが必要となります。

お問い合わせ・ご相談はこちらのページよりご連絡ください。





クレジオ・パートナーズ株式会社のご紹介代表者 :代表取締役 李 志翔
所在地 :広島市中区紙屋町1丁目1番17号 広島ミッドタウンビル6階
設立  :2018年4月
事業内容:
 ・M&Aに関するアドバイザリーサービス
 ・事業承継に関するアドバイザリーサービス
 ・資本政策、企業再編に関するアドバイザリーサービス 等
URL  :https://cregio.jp/

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