広島県福山市に拠点を置き、備後地域をホームタウンとして、Jリーグ参画に挑戦する福山シティフットボールクラブ。地域課題解決型のベンチャーフットボールクラブが生まれた背景や、福山という地域に懸ける想い、スポーツを通じて共創の輪を広げる地域とスポーツの可能性について、福山シティフットボールクラブ 代表 岡本佳大氏にインタビューしました。
地域課題解決型のベンチャーフットボールクラブの誕生
地域の経営者が、スポーツを通じて福山のまちづくりを目指す
福山シティフットボールクラブの歴史は、2015年に(一社)福山青年会議所に参画している地域の中小企業の経営者が、まちづくりの一環として、どのように地域を盛り上げるかを真剣に議論し、「スポーツを通じたまちづくり」をしようと決めたことから始まりました。福山から世界を目指したいと考えたので、世界的なスポーツとしてまずはサッカーを選び、任意団体「福山にプロサッカークラブを作ろう会」を発足させたのが我々のスタートとなります。
「地域に根差す」ことが重要だという考えだったので、いきなりJリーグを目指すのではなく、最初の2年間は、地域と繋がるイベント活動を行いました。ゴミ拾いをスポーツで楽しみながらやっていくスポGOMIの活動等、中長期的に見て、スポーツで福山の健康寿命を向上させるための団体活動を行いました。
2016年に一般社団法人として法人化し、2017年に満を持してサッカーチーム福山シティフットボールクラブの前身である「福山SCC」が発足しました。当時は本当に草サッカーレベルからスタートし、少しずつステップをあげていきました。長期的なクラブのビジョンとしては、2030年にJ1で優勝争いを行うことを目標としており、その目標を達成するために、2025年にJリーグ参入(J3)を目指して挑戦しています。
立ち上げた2015年からミッションは全く変わっていません。スポーツを通じて、「活力ある福山市の未来創生に寄与していく。サッカーはあくまでその手段という位置づけになりますので、Jリーグを目指すこと自体がゴールではなく、サッカーやスポーツを通じて、福山という地域を盛り上げていくことを目指しています。
サッカーに経営者として関わることに魂が震える、スポーツ人生の新しい挑戦
私は広島県広島市で生まれ育ち、広島観音高校からインターハイに出場し、日本一になりました。当時はまだJ3は存在していませんのでので、「Jリーグに行けなければサッカーの世界を諦めて就職する」という時代でした。もちろん、私もJリーガーになりたいと思って一生懸命頑張りましたが、その夢は叶わず、凸版印刷に就職しました。
それまでサッカー一色の人生でしたが、就職することで、これまで見えてこなかったことが見え始めました。ちょうど“働き方改革”が叫ばれ、時代が変化する中で、このまま企業勤めをするより、もっと好きなことをした方が、自分の人生にとってプラスになるのではと考えるようになりました。一念発起して会社を辞め、広島に帰り、いくつか企業経営に携わりました。その中の一つに子供達へのサッカークラブやサッカースクールがありました。1年だけ指導者をやってみましたが、サッカー界の環境をよくするためには、指導者としての実績を積み上げるより、サッカークラブの経営者の道を目指す方がよいのではとシフトしていきました。
経営したビジネスの中にはサッカー以外もありました。ただ、お金を稼ぐことが目的になってしまうと、私のモチベーションとして、そこに魂は震えませんでした。自分のやりたいことと、事業性を持つことの両輪を考えた時に、サッカークラブを発展させることが次のステージであると定め、2019年に福山に移り、福山シティフットボールクラブに関わりました。
福山シティフットボールクラブに関わろうと思ったモチベーションの一つは、広島のサッカー環境の改善です。以前は、広島はサッカーどころだったので、有名な選手も輩出されていました。しかし、最近は全国的にも広島の高校が勝てなくなっているのは、観ていてさみしいなと感じています。私のサッカークラブに通っていた子供たちも、才能がある子は県外に出て行ってしまいます。サッカーに励む子供たちの受け皿を、福山にユースチーム・トップチームを自分が作ることで、環境を整えたいという想いもあります。
また、経営者としての自分を振り返ると、サイバーエージェントの藤田社長、ユニクロの柳井社長、ソフトバンクの孫氏のような他の著名なベンチャー経営者と比較して、自分自身はそこまでのステージに立つのは難しいのかもと感じていました。一方、Jリーグは58クラブあり、その中の社長の1人だったら、自分もなれるかもしれないと考えました。加えて、現在のほとんどのJリーグの経営者は親会社からの出向なので、Jリーグにおけるプロの経営者が必要ではという課題感もありました。「Jリーグのプロ経営者」、これは自分の人生を掛けた挑戦にはふさわしいと思いました。
福山にサッカーという選択肢を、地域課題解決型フットボールクラブ
2019年に福山市にきた時、はじめは縁もゆかりもありませんでした。そこで色んな方に「福山ってどんな街ですか?」と質問しました。皆さんからは、福山は「こと足りるけど、もの足りない地域」という回答でした。「生活するには不自由はなく、交通インフラも整っていてアクセスもよい。だけど、何かもの足りない。」そんな言い方をされる方たちが非常に多かったです。この「もの足りなさ」を埋めるためには何をすればいいか。自分達がプロサッカークラブを創り、福山市民の週末の選択肢に「サッカーを観にいく」を加えられる存在になれば、解決できるのではないか、と考えています。
加えて、我々は自分達のことを「地域課題解決型のフットボールクラブ」と呼んでいます。福山市は広島県内では第二の規模を誇る中核都市です。そのため、街としての様々な課題を有しています。具体的には、「少子高齢化による人口減少」「企業数は多いが後継者いない」「地元の若者が就職・進学の際に、地域企業を知らないので、地域外へ流出する」等の課題があります。スポーツという側面でも、福山市は、運動・スポーツの実施率が平均より10%ほど低いという結果があります。この結果を言い換えるなら、「健康でない方が多いかもしれない街」とも言えると思います。
そういった地域課題をスポーツの力で解決していきたいというのが我々の想いです。我々は草サッカーからJリーグでの優勝争いをするチームを目指すベンチャーフットボールクラブでありながら、地域課題解決型のフットボールクラブであることを目指しています。我々にとって、サッカーやスポーツはあくまで手法であって、ミッションは、スポーツの力で地域課題を解決することであり、解決した先にある「活力ある福山市の未来創生」に寄与したいと考えています。
地域密着であることが最大の強み、ミッションへの共感が成長へ繋がる
我々の強みも特徴も、地域密着であることが全てです。フットボールクラブを展開するために福山を選んだ理由は、福山という地域に市場性があったからです。福山市は人口47万人を擁し、備後エリアまで入れるとその規模は90万人となります。これは、サッカー界でいくと、イングランドの名門クラブであるリバプール・フットボールクラブを支える地域と同じくらいの人口規模です。日本のJリーグの中では、ガンバ大阪、鹿島アントラーズ、ジュビロ磐田等の有名な名門クラブよりもホームタウンの人口が多いということになります。
加えて、広島市から100km以上離れ、独自の文化圏を構築しているのが福山という地域です。岡山でもない、広島でもない、独自の圏域を築いてきた福山という地域の可能性。本数は少ないですが、新幹線の「のぞみ」も停まるアクセスのよさ、福山城・鞆の浦といった歴史的な観光資源、中小企業から上場企業まで優良企業が多いといった様々な要素が盛り込まれている街が福山という地域です。それなのに、サッカーのみならずプロスポーツクラブが1チームもないのはおかしいですよね。だから我々は、「福山シティ(市)のフットボールクラブ」として、地元にコミットし、福山という街の独自のアイデンティティを大切にしながら、この街に必要とされるクラブを目指していることが大きな特徴です。我々が地域に強くコミットしていることもあり、ありがたいことに、我々のミッション・ビジョンに共感頂き、まだ地域リーグというステージにも関わらず、既に200社を超える企業さまと、自治体からご支援を頂いています。
我々は何か特別なことをするのではなく、当たり前のことを当たり前にやっているだけです。ただ、地域密着という強みを活かし、結果に結びつけることができているのは、マネジメントができ、実行に移せるスタッフが在籍してくれているお陰です。実際に、たくさんの企業からバックアップを頂けているのは、当チームの法人営業責任者である藤田が地道に働きかけを継続してくれたからです。クラブとしては、ミッション・ビジョンを掲げ、いかに共感してもらえるかが重要であると思いますが、この想いを行動に移して結果にするのは人であり、人が我々チームにとっても一番大事な要素だと思います。
スポーツを通じて広がる地域の「共創」の輪
「共創」が加速、地域×スポーツの可能性
今後大事になるのは、「共創」という考え方です。お互いが持つリソースをコラボすることで、新しい価値の創出に繋げていくか。例えば、応援頂いている自治体には、単に支援を受けるだけではなく、我々からもサッカーだけでなく他のスポーツもできるようなコミュニティの創出や、マルシェの開催等、行政にとっても必要な取組を提案しています。同じく、応援して頂いている企業の皆さまにも、我々がハブとなり、ビジネスマッチングの機会を提供しています。パートナーへの報告会に併せて、交流会を行うことで、これまで出会わなかった企業が繋がり、新しいビジネスが生まれる場を提供しています。マッチングにより、利益が生み出されれば、我々にも再投資を頂けると考えています。一方的にどちらかが支援するのではなく、循環するモデルをつくることが重要です。地域の循環モデルの仕組みをどう創るか、これがサッカークラブの本質的な構造ではないかと私は考えています。我々がやっているのはスポーツを通じたまちづくり、ひとづくり、コミュニティづくりだと実感しています。
特にスポーツが共創を生みやすいという特徴があります。例えばサッカーチームはJリーグの理念上、政治・宗教への関与はご法度なので、どこかに偏ることはありません。スポーツは公共性と事業性の両面を併せ持つので、行政とも民間とも連携できるという強みがあります。ただ、行政・企業側では、まだまだスポーツクラブをどう活用すべきか分からないところもあると思いますので、我々がモデルになることができれば、共創の輪が広がり、Jリーグそのものの経済波及効果もあがっていくのではないかと考えています。
スポンサーに頼らない収入の軸を創ることが課題、苦境でもクラブは着実に成長
我々も新型コロナウィルスで大きなダメージを受けました。サッカークラブの主な収入源は、「スポンサー収入」「グッズ収入」「チケット収入」の3つです。元々チケット収入はゼロであり、グッズ収入もこれからという状況で、コロナ禍でスポンサー収入がなくなってしまい、我々としての収入源を全て断たれるという状況に陥りました。この反省を活かすと、スポンサーに頼らない収入の軸をどう創るかが、フットボールクラブの経営面での大きな課題です。そのため、サッカーはあくまで一つの軸であり、そこをきっかけに他の事業に展開していく必要があります。
事業の軸をつくることが課題であることは間違いありませんが、コロナ禍でもクラブは確かに成長していました。試合の平均観客動員数を見ると、2019年は6人/試合だったのですが、2020年は300人/試合、2021年は500人/試合、2022年には約1,000人/試合となり、地域リーグですが、非常に多くの方々に観に来て頂けるようになりました。2022年のホーム開幕戦では、福山を中心に2,731名の皆さまにご参加頂き、J3のクラブの平均よりも多い数字でした。これは、福山のポテンシャルだと考えており、それだけこの街にJリーグチームがある未来に期待している方々がいるという証だと思っています。
スポーツ×ファイナンスによる様々な可能性
スポーツとファイナンスは非常に相性がよいと思っています。我々もまだ事業に投資できる程成長はしていませんが、デジタル領域には投資をしています。選手のスカウトやトレーニングにおいて、デジタルデバイスを導入し、分析しながら効率化を図っています。
今後、ファイナンス分野にどう関わるかは非常に重要だと感じています。現在の我々の企業価値はどのくらいかは常に気にしていますし、パートナーの企業さまとも議論しており、しっかりと決算情報も開示し、透明性の高い経営を目指しています。これらは、企業としての価値や魅力をどう伝えていくかは大事だと考えた結果の取組です。大きな理想としては、トヨタや楽天のような企業が一つの街になるようなモデルも、福山という地域と相性がよいと思っています。備後エリアの方々は、この街で稼いで、この街にお金を落とすという前提があるので、街の循環モデルをどうデザインするかを、サッカークラブを通じて構築できると考えており、独自トークンを発行する取組等にもチャレンジしています。資本を通じた連携は、先ほどお伝えした「共創」をいかに実現するかという点でも、手段の一つになりうると思っています。
サッカー界と福山という地域への貢献を目指す、「共創」するパートナーを募集
我々のビジョンは2軸あります。一つは、私がサッカーで産まれ育ち、サッカーが好きだからこの業界にいるという事実があるので、福山シティフットボールクラブを通じて、日本サッカー界の発展に寄与したいと考えています。私たちのクラブで育った選手達が、日の丸を背負い、ワールドカップの舞台で活躍し、日本が世界で優勝する。ここに貢献することを目指します。
もう一つの軸は、繰り返しになりますが、我々のクラブを通じて、活力ある福山市の未来創生に、地域課題を解決することで寄与できるサッカークラブを目指していきます。魅力あるまちづくりに、どこまでいちサッカークラブがチャレンジできるか、地方創生のモデルケースになりたいなと思います。プロサッカークラブが本当にこの地域に誕生すれば、観光を通じた経済効果も望めます。
サッカーと街づくりという2つの軸に加えて、個人的には、福山という地域からもっと創業者・起業家が出てきて欲しいと願っています。我々のようなベンチャーフットボールクラブの姿を目にすることで、福山の若者に就職・進学だけではなく、「起業」という選択肢も加わると、福山の経済はもっと活性化すると期待しています。
最近は、SDGsやESG経営等、持続可能な社会の実現を企業が中心になって発信していく時代になってきていると感じています。ただ、現実的には、そこに本格的に着手できている企業は少ないのではとも思います。そういった企業経営者の方がいらっしゃれば、我々のような地域にコミットしたクラブと共創することで、地域社会に還元できるモデルをご提案できます。我々は、ご支援頂く際は、いわゆるスポンサーではなく「パートナー」と呼んでいます。我々を応援して頂くことの効果が、単なる広告宣伝だけではなく、お互いがアクティベーションすることを心掛けていますので、協業を通じて、お互いの付加価値を上げつつ、地域経済の課題を解決できるようチャレンジしていきたいと思っていますので、我々のミッション・ビジョンに共感して頂けたら、一緒に取り組んで頂けると嬉しいです。
概要
団体名 | 福山シティフットボールクラブ |
代表者名 | 代表 岡本 佳大 |
創設年 | 2017年 |
事業内容 | フットボールクラブ運営 等 |
所在地 | 広島県福山市城見町2丁目1番22号 |
HP | https://fukuyama-city.com/ |
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クレジオ・パートナーズ株式会社のご紹介代表者 :代表取締役 李 志翔
所在地 :広島市中区紙屋町1丁目1番17号 広島ミッドタウンビル3階
設立 :2018年4月
事業内容:
・M&Aに関するアドバイザリーサービス
・事業承継に関するアドバイザリーサービス
・資本政策、企業再編に関するアドバイザリーサービス 等
URL :https://cregio.jp/
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