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支援制度

令和6年度経産省概算要求まとめ|中小企業・地域企業向け支援策のポイント

令和6年度経済産業省の概算要求が2023年8月31日に公表されました。

本記事では、その中でも地域企業や中小企業の経営者が押さえておくべき「スタートアップ支援」「M&A・事業承継支援」「経営支援施策」を中心に解説します。予算の流れや注意点も整理していますので、今後の経営戦略や補助金活用のヒントにしてください。

概算要求とは?

概算要求は、地域企業・経営者の皆さまにとっては、政策のトレンドを把握するために有効な資料の一つです。国家予算は年度ごとに発表され、対外的に公表されるタイミングは、①概算要求(概ね8月末頃)、②予算案(概ね12月末頃)、③予算(概ね4月頃)の3つに分けられます。その中でも、概算要求は各省庁が取りまとめ、次年度に要求したい予算を公表するものです。

概算要求を公表した後に、財務省との折衝を行い、「予算案」として公表される流れとなります。そのため、予算案として公表されるタイミングでは、今回の概算要求時点と比較すると、減額・変更又は消滅してしまう可能性もあります。そのため、確定ベースの情報ではなく、次年度の政策のトレンドを抑えるためには有効なツールとして活用した方がよいと考えれる情報という位置づけです。

地域・中小企業向けの主要施策

令和6年度概算要求・税制改正要望について」に掲載された事業のうち、「地域」「中小企業」に関連すると思われる事業をピックアップします。(各施策のコメントは、あくまで筆者の感想となります。)

スタートアップ支援関連

ユニコーン創出支援事業

昨年度に引き続き、J-Startup事業の運営を中心とした予算が計上されています。昨年度はイベント中心の内容でしたが、今回は「エコシステムに関するデータ整備」「地域における女性起業家の支援」「リーガルサポート」といった要素が追加されています。引き続き、スタートアップの海外展開支援についても含まれています。

ディープテック・スタートアップの起業・経営人材確保等支援事業

昨年度は「研究開発型スタートアップの起業・経営人材確保等支援事業」という名称で実施されていました。今年度は「ディープテック」とタイトルを変え、タイトルだけでなく、これまでは「大学や研究機関」が中心でしたが、今回から事業会社のカーブアウトについても対象となるようです。具体的な施策としては、人材発掘・起業家育成、経営人材確保や、事業化支援が掲げられています。

地域の社会課題解決企業支援のためのエコシステム構築実証事業

新規要求となっていますが、昨年度の「地域・企業共生型ビジネス導入・創業促進事業」の後継のような位置づけではないかと推察されます。本事業では、特に社会課題決を担う「ゼブラ企業」の創出とインパクト投資を呼び込むことを目的としており、インパクトの評価やステークホルダー形成のモデル構築のための実証事業を行うとのことです。

産学融合拠点創出事業

大学をオープンイノベーション創出の場とするため、産学官のネットワークをベース、自治体・経済団体等とのネットワーク構築を行い、ニーズ・シーズ等のマッチングイベントの開催等を支援するとともに、過去の地域オープンイノベーション拠点の評価を行うとのことです。

生成AIに係る情報処理基盤産業振興事業

急成長する生成AI分野においても予算要求がされています。具体的な施策の内容が不明瞭ですが、国際競争力がある生成AIに係る基盤モデル開発のための支援を行うとのことです。

その他の研究開発型スタートアップ支援事業

生成AIだけでなく、スタートアップ創出も一つの出口となる研究開発領域の予算も要求されています。その一部をご紹介します。

M&A・事業承継支援関連

昨年度はM&A支援と、経営者交代における新規事業を支援する事業として「事業承継・引継ぎ支援事業」が概算要求において計上され、本予算には残らず、補正予算で実施されるという結果でした。

今年度においては、M&Aに関する補助金は、概算要求では計上されていないため、同様の事業が実施されるかどうかは、補正予算の動向によることとなりました。

中小企業活性化・事業承継総合支援事業

再生支援を目的とした「中小企業活性化協議会(旧:中小企業再生支援協議会)」、事業承継支援を目的とした「事業承継・引継ぎ支援センター」という、2つの公的支援機関を運営するための事業承継・引継ぎ支援センターです。事業承継・引継ぎ支援センターは、各地域でそれぞれ成果を出し、役割を果たしていますので、引き続き継続して欲しい事業です。

後継者支援ネットワーク事業

昨年度に引き続き、「アトツギベンチャー」等、後継者に注目を当てた支援事業となります。今年度は、ピッチイベントだけではなく、イベント後の経営指導についても言及されています。過去の創業支援政策もそうですが、徐々に支援者向けに流れが変わっていくのではないかと予想されます。2年目となる同事業の変化に注目です。

その他の経営支援関連

中小企業信用補完制度関連補助事業

信用保証協会に関する補助制度です。資料中に「経営者保証改革を進めるにあたり、保証料上乗せにより経営者保証の提供を選択できる新制度の構築に際し、信用保証料の補助を行うと共に」という、保証料を上乗せすることにより経営者保証を選択できるような制度創設について触れている点が気になるところです。具体的にどのような制度が創出されるか注目です。

地域の中堅・中核企業の経営力向上支援事業

地域における「中堅・中核企業の経営力強化」「人材確保」「デジタル人材育成・確保」といった3つの要素が盛り込まれた補助事業です。地域企業に直接支援するよりは、支援体制の構築や普及啓発等の意味合いが大きい施策に見えます。

中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業

中小企業の経営何でも相談拠点である「よろず支援拠点」の事業です。拠点運営と支援者のマッチングが含まれています。

小規模事業対策推進等事業

こちらは昨年度と同様に「経営支援発達支援計画」の認定を受けた商工会議所・商工会が、計画に基づき、販路開拓や、事業計画の策定に関する費用を支援する事業です。商工会議所・商工会と連携している企業は注目です。

成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)

昨年度と同様、ものづくり企業の成長を後押しするための事業が要求されています。サポイン(サポーティング・インダストリーの略)と呼ばれていた事業の発展形で、先端技術を活用する事業の研究開発や試作品開発等を支援するための事業です。研究開発要素の多い中小企業が、大学や公設試等の研究機関と連携して行う事業に、よく利用されています。

まとめ

令和6年度経済産業省概算要求では、中小企業や地域企業に関連する支援策として「スタートアップ支援」「経営力強化」「事業承継支援」などが取り上げられました。

昨年度に見られた「事業再構築補助金」といったコロナ禍由来の施策は姿を消し、その一方で生成AIやディープテックなど新しい分野に重点が置かれている点が特徴です。

M&Aや事業承継に関連する補助事業は概算要求段階では確認できず、商店街支援策の記載も見られませんでした。こうした施策が本予算で計上されるか、あるいは補正予算で実施されるかは今後の動向次第といえるでしょう。

地域企業に身近な「小規模事業者持続化補助金」「ものづくり補助金」「IT導入補助金」などは、例年補正予算で追加されることが多いため、最新情報を継続的に確認することが重要です。

経営者や中小企業の方々は、今回の概算要求を「来年度の政策トレンドを先読みするツール」として活用し、自社に活かせる支援制度をいち早く把握しておくと良いでしょう。

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