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コラム COLUMN

社会とシームレスに繋がる学校、地域との共創で人生の土を創る|英数学館

広島県福山市において1980年に世界平和の思いをもとに創設され、国際的な教育プログラム(国際バカロレア)を展開し、地域の教育を支えてきた英数学館。学校と社会がシームレスに繋がるため、生徒が社会の学びを得る仕組み・制度を独自に創設し、地域企業やフットボールクラブとの共創を広げる同校の地域・教育に懸ける想いを、英数学館 中・高等学校 校長 土屋 俊之氏にインタビューしました。

学校と社会をシームレスに、「混ざる」が人生を豊かに

民間から教育へ、学校と社会をシームレスに繋げる

教育に関わる以前は、東京で大手印刷会社の営業職として働いていました。営業の仕事も面白かったのですが、やがてエンドユーザーとの距離を感じることが増え、良くも悪しくも自身の工夫や努力に対する反応を感じられるサービス業に携わりたいという気持ちが強まり、B to Bではなく、B to Cに関わりたいと考えるようになりました。究極のB to Cは何かを考えたとき、教員だと思い、教職の道を志しました。当時は、まだ教員免許を持っていなかったのですが、大学時代は教育学部だったので、教員免許に必要な単位はいくらか取得していました。ただ、プロとしてはまだまだでしたので、妻も、小さい子どももいる中で、1年間大学に戻り、家庭教師や塾講師を掛け持ちしながら、教員免許を取得しました。

最初に勤めた教育機関では、経営不振を理由に創業家一族の理事長が突如辞任し、一部上場企業のオーナー社長に全ての経営権を譲るという事態に遭遇しました。当時私は30歳で、担任として、中学野球部の顧問として、子どもたちと触れ合う喜びを感じ始めた時期でしたが、新しい理事長から学校改革を推進するため「教員という仕事において、自分の人生で何を体現したいか」をレポートで出す課題が、全教員に課されました。そのレポートに書いた私がやりたいことを評価され、新任同然の立場だった私は突如、教頭以上・校長以下の責任を有するポジションである「学校長補佐」に任命されました。以来私は、長く学校管理職の立場で、「学校が世の中に必要とされる存在になるためには、何をするべきか」を突き詰めて考え続ける役割を一貫して担ってきました。

私は、現場で動くことが好きでした。学校長補佐という立場では、子どもだけでなく、教育に関わる多数のステークホルダーと関わる機会にも恵まれました。当時から、「社会と学校がシームレスに繋がることが必要」だと感じていました。今でいう「well-being(ウェルビーイング)」と表現されるような、生徒たちが納得感のある人生を確立するために、学校教育はどうあるべきかというのが私の最大の関心事項でした。



幼少期から「混ざる」、人生100年のための土づくり

「そもそも学校は社会にとって必要か」。現代は教員という存在が社会に対し、何が貢献できるかが問われていると強く感じます。このような投げかけは極論だと断ずることもできますが、私はそうではなく、提議された議論の本質を受け止めるという謙虚な気持ちが、学校側にも必要だと思っています。

学校はある意味、生徒にとっても、教師にとっても閉じられた空間です。たとえ中学・高校と言えども、保護者より学校に対して求める役割の一つに「保育機能」は厳然と存在します。よって、校門に鍵をかけ限りなく安全性を高めることが求められる訳ですが、一方、学校が完全に外界と隔絶することで、あらゆる意味で社会の「リアル」を五感で感じる機会が損なわれ、半ば鎖国のような状況に陥り、生徒も教員もいつの間にかリスクを取って社会と関わる必要がないという風潮が学内に蔓延ることになります。

英数学館は、小・中・高の教育プログラムがあり、人生100年の「土づくり」の役割を果たしています。一人一人の子どもたちが、自分の個性を活かし、人生の面白さに気づく。30代、40代と歳を重ねるごとに、人生がもっと楽しく感じる。そういう大人になって欲しいと願っています。初等中等教育という人生の土づくりの段階で「つまらないなら、自分で面白くすればよい」という心理面のポジティブな癖付けを、トレーニングできればと考えており、それをマス教育である学校という場で仕組み化するには、どうすればいいかを日々試行錯誤しています。

また、子どものWell-Beingを高め、よい人生を過ごすためには、「混ざる」ことが重要なのではと感じています。多様な価値観を持つ老若男女と、様々な空間において「混ざる」。これは現実世界でなくても、本の中で出会うという形でも大丈夫です。ただ、先ほどお伝えしたとおり、学校は保育機能の観点から閉じた空間になりがちです。加えて、現代の学校は偏差値が同程度の子どもが同じ学校に集まりがちになるので、結果として同質性が高くなります。現実社会では、毎日が異なる存在との出会いの連続です。ちびまる子ちゃんもいれば、ジャイアンもいます。異なる存在と出会った時に対応できるレジリエンス(しなやかさ)を幼少期から学ぶことが、幸せな人生を過ごすためには必要だと感じており、同質性が高くなりがちな学校では「混ざる」を大切にすべきという仮説を立てています。

「混ざる」ためには学校が持つリソースだけで十分なのか。私が校長になってから、学内の教職員に何度も伝え続けていることは、我々は子どもたちに幸せな100年人生の保証をすることはおろか、良い土を用意することさえもできないかもしれない、という健全かつ謙虚な怖れの気持ちを持つことの大切さです。故に、私は先ず積極的に身近にある地域社会に関わることを皆に強く勧めています。



子どもが社会で学ぶ機会を仕組みと制度で後押し、「桃」と「探究公欠」

「桃」で社会と繋がる場を提供、独自のシステムを展開

「混ざる」が重要で、そのためのリソースを学校は十分持っていないという前提に立つと、学校の外のリアルな方々と交わるなど、学内に社会の風を送り込む必要があります。一般的に学校は外部講師を招へいする形式の講演会をその手段としますが、学校は「それで十分」と考えるのではなく、逆に学校自らがリアルな社会にお邪魔し主体的に学ばせて頂くべきだと考えます。学校側の時間割などの事情を最優先にしたこれまでの当たり前の学び方を見直す必要があります。

英数学館には「桃」という制度があります。学外で生徒が参加できるイベントやプログラムがあると、それを「桃」として学内のシステムに投稿され、希望者が手を挙げ、参加することができます。「桃」の具体的な例として、福山市内のデニム生地メーカーにおける英語力を生かした海外販売ツールの作成や新商品開発を目的としたインターンシップへの参加や、G7広島サミットジュニア会議への参加による社会課題解決のための政府への提言などの機会が挙げられます。授業に代わる学びの証明として岸田総理や閣僚の政治家の方々との写真を我々に提示してくれた生徒もおり、決して授業では体験できない学びを得る機会を、地域と連携して、生徒へ提供しています。ここ3ヶ月だけでも学内の「桃サイト」には200件以上の「桃」が流れており、桃による異なる存在との出会いを通じて、生徒はリーダーシップや主体性を養っています。

学外から学校に提供される情報だけでも生徒に参加して欲しいイベントやプログラムは意外と多くあります。ただ、多くの学校の場合、そういった案内は生徒や保護者の目に届かぬまま流れていってしまうのが現状だと思います。その理由には、多くの教員が多忙を極めているという現実もありますが、教員が学校以外の社会と交わる機会が少ないため、そのイベントや、そのイベント自体に繋がっている関連団体や各種ネットワークの価値を十分に理解できていないことも、要因の一つです。生徒がこんな夢を語り始めた、だったらその道の専門家に繋いでみようか、といったやり取りが学内の其処此処で行われるようになることが今後教員に求められる素養です。

「探究公欠」で学ぶ機会を出席扱い、生徒の好奇心を制度で後押し

「潜水士になりたい」と言い出した生徒がいました。きっかけは海猿という映画を見たという些細なことです。その子はあまり「欲」を表に出すことがなく、何かになりたいと発言すること自体が珍しかったので、その子の担任は、「実際に潜水士に話を聞いたのか?」と投げかけました。潜水士から話を聞くため、その生徒は、自分で電話をかけて、アポイントを取り、現役の潜水士の方に直接話を聞くことができました。話を聞くと、「潜水士は年収が低い」「大変」といった非常にリアルなことを言ってくれたそうです。それでも、その子は「副業がOKらしいので、副業できるように準備して、潜水士やりますよ」と。あくまで些細なきっかけから始まった偶然ではありますが、人生は色々な人と繋がることが大事だと改めて気付かされました。担当した教員はとてもよいタイミングで適切な後押しをしたと思います。

通常であれば、このような職業体験のヒアリングを授業がある平日に行うと欠席扱いとなります。英数学館では「探究公欠」という制度を創設し、社会で学びを得る機会を教育活動と認め、校長による「公欠」として認め、欠席ではなく出席扱いにできる制度を設けています。

教員は専門教科の指導や、大学受験攻略については専門家ですが、現実の社会に関する知識は不足しています。私が、デニム生地製造の篠原テキスタイルの篠原社長や、地域課題解決型フットボールクラブである福山シティFCの岡本代表と懇意にさせていただく理由は、正に彼らを通じて、世界を知るためです。我々が社会とシームレスに繋がるためには、それぞれの業界の第一線で活躍し、常にグローバルな視座で物事を捉えている経営者に意見を頂くことが必要になります。学校が社会の様々な方から学ばせて頂いている現状を生徒に説明する時は、アニメ(マンガ)のドラゴンボールの「元気玉」という主人公の技で説明したりします。元気玉をつくるために、主人公が「オラに力を分けてくれ」と言って自然界を含めた地球上のあらゆるエネルギーを集めるように、何かやりたいことがあるのであれば、自分以外の社会から力を借りないといけない、と説明すると「あー、そういうことね!」と理解してくれます。



サッカー部が復活!福山シティFCと英数学館が連携

英数学館は2011年3月に活動休止していた高校サッカー部を、地域のプロサッカークラブである福山シティFCと業務提携し、「シン・ブカツ プロジェクト」として再始動します。福山シティFCと連携する理由の一つは、岡本代表の持つビジョンに共感したからです。人口45万人以上を有する福山市において、バラ祭りのような街の一体感を得られるイベントはありますが、もう一つ何か欲しい。「スポーツで福山をアップデートする」という彼らのアプローチにはとても心躍るものを感じました。福山シティFCは、現在260社以上の地域企業がパートナーとして応援しており、彼らは、ある意味、福山市における行政・企業のハブのような存在になりつつあります。本校が彼らが目指すビジョンに関われることは光栄だと感じています。

岡本代表とはじめて出会った時、サッカー部の話はほとんどしていませんでした。単純に面白い方がいるということで紹介を受け、以降、定期的に意見交換していました。ある時、府中焼きを食べながら、「英数学館のサッカー部を復活させたい」と相談を受けました。私共は、グラウンドもないし、指導者もいないのではじめは不可能だと思いましたが、岡本さんから「現在のフットボール選手の英才教育はユースクラブを通じて行われる。アスリートはサッカーができなくなっても人生が続く。ユースクラブだと、サッカーしかしてこなかった人間になってしまう。ユースクラブの仕組みだけでなく、学校の部活から選手として才能を開花させる仕組みも地域には必要だ」と熱く説明を受け、また、今回の「シン・ブカツ」が学校と地域に関わる社会課題の解決に直結する可能性のあるプロジェクトだと分かり、私自身もこの話にのめり込んでいきました。

部活動については、学校側でも課題を抱えていたのも事実です。サステナブルな部活動を実現するためには、教員の働き方改革とセットで考える必要があります。議論を重ねるうちに、福山シティFCとの共創を通じて、お互いにメリットを生み出せるポイントを見出すことができました。地域のサッカーを盛り上げる、子どもたちの可能性を引き出す、子どもが好きなったことを伸ばす。これを福山シティFCの力を借りることで、指導・育成をプロレベルで行える。部活に所属する生徒がクラブチームに対抗できるレベルで活躍するのはワクワクする話ですよね。福山シティFCはすでに行政と連携して、人口芝のサッカーグラウンドの建設を完了させており、最終的に、本校サッカー部員の指導・育成を全面的にお任せしますという流れになりました。

福山市内でサッカーに自信がある生徒は、市外・県外に出ていくという、地域内若年層の才能の流出という課題もありました。そういった子どもたちの受け皿となり得るハイレベルな部活動の環境を用意し、保護者にとっても、市外・県外に通わせるよりはコストパフォーマンスがよいと感じて頂く環境を整備することで、若い世代の流出を止める効果も狙っています。

福山シティFCが地域の期待を背負い、我々も仲間に入る。教育としても、社会・企業と繋がりが広げられる。当校は、生徒一人ひとりの現在進行形の「好き」と「得意」に関する事項は全てデータ化し、全教員間で共有していますので、の地域企業との、より一層の繋がりが、子どもたちの学びの機会を広げてくれると期待しています。


地域イノベーションの起点となる英数学館、教員が生徒と社会の接点となる

英数学館高校は福山地域では、「お金持ちが通う学校」というイメージがあり、進学先の候補に入りづらいと思われています。確かに以前は、授業料が他の学校と比べて倍程度の時期もありました。現在は「アドバンストコース」と「IBコース」の2つに別れており、アドバンストコースの授業料は他校と同程度です。授業の質が劣る訳でなく、お伝えした「桃」や「探究公欠」といった制度は同様に実施しています。IBコースは、国際バカロレアのDP(ディプロマ)資格を取得できるプログラムであり国内外の難関大学へDP資格の保有を証明するだけで合格・進学できるメリットがあります。また、授業は英語で行われるものが多いですが、特に小学校のPYP(プライマリー・イヤーズ・プログラム)においては、単純に英語で授業するだけでなく、日本人としてのアイデンティティを失わぬよう、日本語と英語をハイブリッドで教えるプログラムを展開しており、このような教育システムは全国的にも例が少なく、人生のトータルのコストパフォーマンスは極めて高いと自負しています。加えて、都内の国際バカロレアの学校と比較すると半分程度の授業料なので、本校はかなりお得だと思います。

英数学館は、子どもたちに広い世界を見せてあげたいと思っています。生徒たちは、世界を見るために、卒業後、一度福山を離れることも良い選択肢の一つだと考えます。そして広い世界を知った上で、改めて福山に住むことを選択するという可能性も十分にあると思っています。私も東京で生活しておりましたが、明らかにQOL(Quality of life(クオリティ オブ ライフ))において、福山の方が高いと感じています。福山しか知らない、ではなく、相対比較できる世界を見た上で、福山でワクワクする人生を送れると感じた大人の方が、事業承継やイノベーションを起こすという意味でも、次世代の発展に繋がると思っています。子どもたちはよく「福山なんもないよ」と言いますが、決して嫌ってはいません。好きになりたい要素を欲しがっていますが、住みにくいとは感じていません。鞆の浦の近くの中学校に、高校生を連れていき、合同授業を行う「桃」がありました。中学生から「地元大好き」「ぶどうがおいしい」「人が優しい、人が自慢」という声が上がることにとても感動したことを覚えています。

社会における学びの機会は、実は大学受験においても求められています。受験生の学ぶ力を総合的に評価・判断し、大学が求める学生像に合う人材を選抜する「総合型選抜入試(旧AO入試)」を、全国の私立・国公立大学が導入を進めています。大学側も、インターンシップなどの社会と関わる体験をしている高校生を求めており、これまでの偏差値ベースでの試験のウェイトが下がり、当校の「桃」を通じた体験をしているような生徒を大学側がより重要視する流れが強くなっています。実際に、上智・慶応といった名だたる大学も積極的に導入しており、偏差値だけでは評価されづらい生徒にも、有名大学へ入学するチャンスが広がりました。

今後、教員は、地域と生徒を繋ぐ役割が一層求められるようになると考えています。教員の優れたスキルの一つに、「子ども達の心に通じる言葉を話せる」ことが挙げられます。大人社会の難しすぎる言葉と、生徒たちが理解する言葉を上手に使い分けることができますし、教員は、そのための努力もしています。欲張りかもしれませんが、子どもと社会の通訳のような役割ができる教員が増えるよう、先生方にはもっと社会で起きる様々な事象や仕事に興味を持って欲しいと思います。教員が異業種と触れ合うようになれば、教員という職業そのものがもっと魅力的な職業になると思います。



概要

学校名英数学館 小・中・高等学校
代表者名英数学館小学校長 永留 聡
英数学館中・高等学校長 土屋 俊之
創設年1980年
事業内容小・中・高等学校
所在地広島県福山市引野町980-1
HPhttps://www.eisu-ejs.ac.jp/



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クレジオ・パートナーズ株式会社のご紹介代表者 :代表取締役 李 志翔
所在地 :広島市中区紙屋町1丁目1番17号 広島ミッドタウンビル3階
設立  :2018年4月
事業内容:
 ・M&Aに関するアドバイザリーサービス
 ・事業承継に関するアドバイザリーサービス
 ・資本政策、企業再編に関するアドバイザリーサービス 等
URL  :https://cregio.jp/

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