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M&A事業承継

運送・物流業界M&A徹底解説!市場規模・課題・成功事例まとめ

運送・物流業界M&A徹底解説!市場規模・課題・成功事例まとめ

運送・物流業界では、人材不足や輸送ニーズの多様化といった課題が深刻化しており、生産性向上が急務となっています。

その解決策の一つとして、M&Aの活用が広がり、地域においても拠点や人材、輸送エリアの確保を目的とした再編が進んでいます。本記事では、運送・物流業界の市場規模や課題を整理し、M&Aの背景や具体的な事例を解説します。

記事のポイント

  • 運送業界の市場規模は年間約24兆円。中でもトラック運送業界が約14兆円。
  • 業界における大きな課題は「人材不足」。課題解決のために生産性向上が必要。
  • 地域においてもM&Aを通じた運送・物流業界の再編が進む。

運送・物流業界の市場規模と課題

運送・物流業界の市場規模及び事業特性

日本国内のトラック・鉄道・外航海運・航空・倉庫などの物流事業全体の市場規模はおよそ24兆円(平成29年度)となっています。このうち、トラック運送事業の市場規模は、14兆4,578億円(平成28年度)となっており、物流市場全体の約6割を占めています。

(出典)公益社団法人全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業 現状と課題 JAPANESE TRUCKING INDUSTRY 2020」P.11

運送・物流業界の事業特性について

トラック運送業者全62,461社のうち、約99%以上が従業員数300名以下の中小企業です。これはトラック1台、ドライバー1名で事業を開始出来るため、新規参入が容易である事が要因として挙げられます。

また、業種上他社との差別化が難しく、価格競争に陥りやすいという特徴があります。加えて、燃料費の価格転嫁が難しい事や後述の人材不足が原因で業界として収益性を確保するのは難しいのが現状です。

出典:公益社団法人全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業現状と課題 JAPANESE TRUCKING INDUSTRY 2020」P.6

運送・物流業界の大きな課題「人材不足」

運送・物流業界は典型的な労働集約型産業であり、売上高に占める人件費率は39.7%(平成30年度)にのぼります。

下図の労働時間と年間賃金のグラフに示されている通り、他業種と比較して長時間労働低賃金になっているため、業界全体で「人材不足」に悩まされていると言われています。現況として有効求人倍率は3倍を超えており、安定した事業運営を行うために、人材の確保は業界全体の課題となっています。

(出典)国土交通省 自動車局貨物課 「一般貨物自動車運送事業に係る標準的な運賃の告示について」P.3

生産性向上に向けた取り組み

人材不足などの課題を解決する為、業界全体での生産性の向上が求められています。

収益性を上げていくために、いかに事業の効率化を図れるかが重要視されています。国土交通省は運送業の生産性向上方策として、①実働性の向上、②実車率(時間あたり)の向上、③実車率(距離あたり)の向上、④積載率の向上、⑤その他と5つのKPIを示しています。

具体的な方策としては、中継輸送ネットワークの形成による長距離輸送の防止や、ITを活用した貨物積み下ろし受付予約システムを導入する事でドライバーの待機時間の削減を図るなど、ドライバー1人あたりの労働生産性を高める取り組みが大手企業を中心に行われています。

(出典) 国土交通省 自動車局貨物課 「トラック運送における生産性向上方策に関する手引き」P.6

運送・物流業界で求められるM&A

M&Aの主な目的

運送・物流業界におけるM&Aの主な目的は以下のとおりです。

  • エリア・顧客の拡大
  • 輸送する商材の拡大
  • 人材の確保
  • 物流拠点の確保
  • 新事業展開

M&Aにより、他社のエリアや顧客を獲得し、自社の経営資源を活用することで、実働率や実車率の向上で収益力を向上させたり、規模の経済を活かして運営費用を下げることが可能です。

また、輸送で取り扱う商材が異なる場合、そのシステムやノウハウを獲得することも可能です。また、不足しているトラックドライバーの確保や、物流拠点の確保等、運送業に必要な要素を獲得するためにもM&Aは有効な手段となります。

その他、ITの活用が進展し、運送・物流業界においても様々な変革が進んでおり、新しい事業領域に展開するためのM&Aも考えられます。

M&Aのメリット・デメリット

運送・物流業界におけるM&Aには、多くのメリットがある一方で、注意すべきデメリットも存在します。

メリットとしては、まず人材確保が挙げられます。慢性的なドライバー不足の中で、M&Aによって人材をグループに取り込むことは大きな強みとなります。また、既存の顧客基盤や拠点を引き継ぐことで、短期間で事業規模を拡大できる点も特徴です。さらに、輸送する商材やサービスの幅を広げることができるため、新たな収益源の獲得や経営の安定化にもつながります。

一方で、デメリットも無視できません。異なる企業文化を持つ組織同士が統合することで、従業員の離職や現場の混乱を招く可能性があります。また、統合作業には時間やコストがかかり、当初期待していたシナジー効果がすぐには得られない場合もあります。特に運送・物流業界では、拠点や輸送システムの調整に手間がかかるため、統合後の運営計画が重要となります。

このように、M&Aは大きな成長機会であると同時にリスクを伴う手段です。事前に戦略を明確にし、統合後のシナリオまで見据えた検討が欠かせません。

運送・物流業界M&Aの事例

福山通運(広島県)がキタザワ(東京都)を買収

2018年4月に、広島県福山市に本社を置く福山通運は、東京都で引っ越し事業を行うキタザワと、引っ越し事業に関する業務提携を行い、福山通運がキタザワの発行済み株式の51%を取得することで合意しました。福山通運は貨物運送を主体とした企業であり、キタザワを子会社とすることで引っ越し事業へ、事業拡大を行った形になります。

参照:https://corp.fukutsu.co.jp/upload/save_pdf/1523434701756.pdf

トナミHD(富山県)による新生倉庫運輸子会社化

東証1部上場のトナミホールディングス(富山県高岡市)が2020年7月に広島県の新生倉庫運輸を連結子会社化しました。同社は中期経営計画にも「M&Aの積極的な展開」を掲げるなど、事業の継続的な成長のため、M&Aに取り組んでいます。

参照:新生倉庫運輸㈱の株式取得に伴う連結子会社化のお知らせ – トナミホールディングス株式会社

HINODE&SANS(岡山県)のグループ拡大

物流サービスを展開するHINODE&SANS(岡山県倉敷市)は、2011年にホールディング体制に移行後、積極的なM&Aによりグループを拡大し、2009年に日昭運輸倉庫、2013年に新開運輸倉庫、2014年には海上コンテナトレーラー輸送のスワロー海コン(現・日の出コンテナライン)、弥生運輸、2015年には野村交通、2016年には山陽運輸倉庫をグループに取り入れました。2019年にも北区小型運送(東京都)をグループ化しており、M&Aにより事業を大きく拡大しています。

参照:https://hinode-and-sons.com/

山本水産輸送(岡山県)が三島機帆船運送商会(愛媛県)を子会社化

関東から九州を中心に幅広く運送業を展開する山本水産輸送(岡山県岡山市)は、2020年12月に愛媛県の同業である三島機帆船運送商会をM&Aにより子会社化しました。M&Aにより拠点や人材、トラック等の資産を拡大させた形になります。

参照:https://yamasui.jp/1953/

運送・物流業界M&Aの今後の展望

今後の運送・物流業界は、少子高齢化による労働力不足や環境規制の強化、EC市場の拡大など、引き続き大きな変化に直面すると考えられます。特にドライバーの高齢化と若手人材の不足は深刻であり、単独の企業努力だけでは解決が難しい状況が続くでしょう。

こうした環境下で、M&Aは今後さらに重要性を増すと予想されます。エリアや顧客の拡大といった従来型のシナリオに加え、ITやAIを活用した配送システムの導入、トラック整備業やシステム開発会社とのグループ化など、事業領域を広げる目的でのM&Aが増えていくと見込まれます。また、カーボンニュートラルの実現に向け、燃費効率の高い車両導入や共同配送体制の構築など、環境対応を進めるための提携も進展するでしょう。

一方で、統合後の組織運営や従業員定着といった課題は残り続けます。そのため、今後のM&Aでは「規模拡大ありき」ではなく、どのようにシナジーを発揮し、持続的に利益を生み出す体制を整えるかがカギとなります。

運送・物流業界は今後も需要自体は堅調に推移すると見られるため、変化に対応する企業とそうでない企業の差が大きく広がる可能性があります。M&Aを戦略的に活用し、地域経済や社会インフラを支える持続可能な物流体制を築くことが、今後の展望として求められるでしょう。

おわりに

運送・物流業界では都市部・地方を問わずM&Aによる再編が進み、人材不足や価格競争といった課題解決の手段として注目が高まっています。今後も運送需要は堅調に推移すると見込まれますが、外部環境や顧客ニーズの変化に対応できなければ、事業の持続性が危うくなる可能性もあります。

だからこそ、M&Aを通じた人材確保や拠点拡大、グループシナジーの強化が経営戦略として欠かせません。当社では中国・四国地方を中心に、地域企業に寄り添ったM&A支援を行っています。事業承継や成長戦略に関するご相談は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

クレジオ・パートナーズ株式会社のご紹介代表者 :代表取締役 李 志翔
所在地 :広島市中区紙屋町1丁目1番17号 広島ミッドタウンビル3階
設立  :2018年4月
事業内容:
 ・M&Aに関するアドバイザリーサービス
 ・事業承継に関するアドバイザリーサービス
 ・資本政策、企業再編に関するアドバイザリーサービス 等
URL  :https://cregio.jp/

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