株式がバラバラ!分散株式への対応策と解消ポイント
事業承継を進めるうえでまず重要なのは、自社の株式を「誰が」「どのくらい」持っているのかを正確に把握することです。
特に、業歴の長い老舗企業では、創業時の名義株や過去の支援者への譲渡などが積み重なり、株式が親族や元社員、地元関係者などに細かく分散しているケースが少なくありません。
このような状態を「分散株式」と呼びますが、放置しておくと事業承継やM&A、経営判断の妨げになるリスクがあります。本記事では、分散株式が生まれる原因と、その整理・対応のために経営者が知っておくべきポイントをわかりやすく解説します。
目次
記事のポイント
- 「分散株式」の原因は様々。通常の経営ではあまり議論されないが、分散株式によりトラブルも発生。
- 「分散株式」を集約する場合は、株式を買い取るための莫大な資金が必要。
- 集約する場合も、集約しない場合も含め、戦略的な資本政策が必要。
分散株式が発生する4つの主な原因
業歴が長い老舗の会社の中には、少ない株式を保有する、いわゆる「少数株主」が多数いる場合があります。いわゆる「分散株式」と呼ばれるものです。業歴が長ければ長いほど、会社規模が大きければ大きいほど分散株式が多くなるケースがあります。
通常の事業経営において、「分散株式」について議論されることは少ないですが、事業承継のタイミングでは、会社の株式を譲り渡すことが論点となりますので、株式の所有の状況について議論されることとなります。
なお、ここでいう「分散株式」とは、未上場株式且つ株主であることに戦略的意義が薄い株式を言うものとします。「分散株式」の発生原因は様々ですが、以下に考えられる発生原因を挙げていきます。
原因① 名義株による形式的な株主
1990年の商法改正以前までは、会社設立には「7人の発起人」が必要でした。そのため、発起人の人数を揃えるために「名義」を貸すことがありました。その名残として株主として名を連ねているというケースです。
「名義株主」である場合には、創業時の資金拠出者が「真の株主」となり株主名簿を書き換えることで問題は解決されます。しかし、業歴が長い老舗企業等の場合、長い時間の経過とともに名義株主に配当を支払ったり、株主総会で議決権の行使を認めていたりすると、「名義株主」ではなく「真の株主」として扱われてしまいます。
原因② 相続税対策としての株式分散
1990年初期頃までによく取られていた自社株の相続税対策として「オーナーが保有する自社株式を親族外の他者に安価で渡す」という方法がありました。この方法は、今でも実行可能です。
例えば、自社株式の時価総額(相続税評価上の原則的評価額)が10億円の場合、オーナーが100%保有していたら10億円と評価されますが、40%相当を他者に渡せばオーナー保有株式は6億円となり、相続税を抑える効果があります。
オーナー家が株式を他者に渡す際、相続税評価上の株価は非常に安価な金額(配当還元価額:特例的評価)となるので、単に渡すだけであれば簡単にできてしまいます。幽霊持株会(全く機能していない従業員持株会)などが顕著な例です。
原因③創業期の支援者・地元出資者
創業時、地元住民等、事業を応援する方々を中心に資金の支援を受け、株式を渡しているケースです。
このような場合、当時の株主に相続が発生していることもあり、相続人の間で株式がさらに分散して誰が株主かわからないこともあります。老舗かつ地元の有力企業の場合、その会社の株主であることを誇りに思っている株主もいます。
この場合、株主は会社に対して協力的であるものの、相続による世代交代が起こっていると株主であることの意義が薄れ、会社に対して株式を買い取ってほしいと迫る事例もあります。
原因④ 上場計画の頓挫による放置
過去に上場を目指し、他者の資本参加を受けたのは良いが、その後何かしらの理由で上場が頓挫してしまったケースです。
上場を断念した後、資本の払い戻し等の対応がなされていれば良いのですが、そのまま放置され続け、株主であることの意義が薄れていった場合に「分散株式」として認識するようになります。株主の属性としてはオーナーの知人が多いです。
分散株式が引き起こす3つの問題
一般に「分散株式」を分散させたままにしておくことは「良くない」とされています。その理由について、「分散株式の問題点」を挙げていきます。
問題点① 事務コストとトラブルリスクの増大
例え1株しか持っていない株主でも、「株主である」ことには変わりません。「株主である」ということは、会社は株主名簿上で管理し、株主総会の招集通知を出す等、株主への対応をしなければなりません。
加えて、少数株主であろうとも当然に株主としての権利は与えられます。議決権数に応じて、株主総会の議案提案権や帳簿閲覧権、取締役解任の訴えなども認められることとなります。もしそのような請求があった場合、会社としては対応しなければなりません。
本質的には、会社と少数株主との間の距離感が近く、協力的な株主であれば、大きな問題になることはありません。しかしながら、会社社長も創業オーナーから2代目、3代目に代替わりし、少数株主間でも代替わりが起こっていた場合、少数株主の当初の協力的姿勢はなくなり、配当などの金銭的要求が強くなっていきます。最悪のケースは少数株主が誰かから入れ知恵されて「モノ言う株主」に変化していくことです。
問題点②事業承継・M&A時の障害
平常時においては上記①のみの対応となります。そのため、会社によっては大きな障害と感じていないところもあります。
一方で、会社組織再編や定款変更など特別決議(=2/3以上の賛成で可決)が必要な、会社として重要な意思決定を行う必要がある有事の場合、オーナー家だけで2/3以上を保有していないと、少数株主の同意を取り付けるため、丁寧に説明する必要があります。
また、M&Aによる株式売却を考えた場合、オーナー家株式の売却だけであれば少数株主の賛同は必要ありませんが、買手企業は100%株式取得を目指す会社が多いです。そのため、少数株主から株式を買い取れないとなるとM&Aによる買収を断念せざるを得ないこともあります。
その場合、スクイーズアウトによる株式集約を図ることがありますが、買手としては余計なリスクを負いたくないため、慎重な判断をしていくこととなります。
問題③事業承継税制の適用制限
先代から後継者に株式を承継する際の相続税・贈与税の負担を軽減させるための制度として、事業承継税制という制度があり、納税猶予が認められる制度があります。この適用を受ける場合、同族内で50%超の議決権を有している必要があります。
株式を分散させた結果、同族内で50%超の議決権を保有しておらず、「納税猶予制度を受けられない」というケースもあります。
問題点④株式集約の際の価格と贈与課税
上記に挙げた①~③のトラブルを未然に防ぐため、株式の集約を図ろうと思った場合、金銭を対価に集約していくこととなります。その際、あまりに安価な株価で少数株主の株式を買い取った場合、税務上、オーナー家に対して贈与税等が課されるリスクがあります。
詳しくお伝えすると、オーナー個人が少数株主から安価な株価で直接買い取った場合、原則的評価額との差額について贈与税課税がされます。自己株買いにより安価で買い取った場合、自己株買い前後でオーナー家の持分価額が変動しますので、持分価額が上がった分だけ贈与税課税されます(みなし贈与)。
原則的評価額(高い株価)で買い取れば課税リスクはなくなりますが、その資金負担も重たくなります。バランスを見極めて買取価格を決定していくこととなります。
また、集約する際は株主間でその価格が知れてしまうことも大きな問題点となります。集約する場合のスキームにもよりますが、会社による自己株買いの場合、一株当たりの単価を株主に通知します。したがって、1回価格を決めてしまうと、2回目以降の自己株買いのときは価格を下げづらくなってしまいます。
また、自己株買いではなく、オーナー家に相対取引で買い取ってもらうこともありますが、地元住民が株主の場合など株主同士が繋がっている場合には、相対取引であろうとも価格の噂は株主間で広がっていくことがありますので、買取価格の決定は慎重に決めなければなりません。
分散株式を解消・抑止するための対応策
株式を買い取って集約する(コスト・税務対応を含めて)
分散株式を整理する最も直接的な方法は、株式を買い取って集約することです。しかし、そのためには多額の資金が必要になるだけでなく、贈与税や評価額の算定といった税務リスクへの配慮も欠かせません。以下では、集約方法ごとの特徴と注意点を解説します。
自己株買いとオーナー個人による買取の違い
分散株式を集約する際には、主に「会社による自己株買い」と「オーナー個人による買取」の2つの方法があります。それぞれにメリット・デメリットがあり、資金負担の主体や税務上の扱いが異なります。
- 自己株買い(会社による買取)
会社が自ら株式を買い取る方法で、会社資金を使うためオーナー個人の負担を抑えられます。ただし、買い取り価格を一度決定すると、以降の自己株買いでもその価格が基準と見なされやすく、価格を下げにくくなるという難点があります。
- オーナー個人による買取
オーナー自身が個人資金で株式を買い取る方法です。価格設定が自由な一方、あまりに安価な価格で取引すると贈与税の課税リスクが生じるため、適正な株価評価が不可欠です。
贈与税リスクと価格設定の注意点
株式を低価格で買い取った場合、税務上は「本来の評価額との差額分を贈与とみなす」扱いとなることがあります。特に以下のケースでは注意が必要です。
- オーナー個人が少数株主から低価格で買い取った場合 → 原則的評価額との差額に贈与税が課される可能性。
- 会社が自己株買いで安価に買い取った場合 → オーナー家の持分割合が上昇すると、その増加分にみなし贈与税が課される可能性。
そのため、「高すぎず、安すぎない」バランスの取れた買取価格の設定が重要です。
市場価格や相続税評価額、直近期の業績などを踏まえ、第三者的な株価算定を行うことで、税務上のリスクを最小限に抑えられます。
スキーム設計時の専門家関与の重要性
分散株式の集約は、単なる買い取り手続きではなく、資本政策・税務・法務の要素が複雑に絡み合う戦略的なプロセスです。特に老舗企業や同族会社の場合、長年の関係性や地元株主の感情面にも配慮が必要です。
- 税理士・公認会計士による株価評価
- 弁護士による少数株主対応・契約書整備
- M&Aアドバイザーによるスキーム設計支援
こうした専門家の関与により、贈与税リスクの回避や資金計画の最適化が可能になります。また、集約を一度に完了させるのではなく、複数年かけて段階的に実施する計画を立てることで、資金面・税務面の負担を軽減できるケースもあります。
集約せず安定株主として維持する
分散株式を集約しない場合、分散株主をいわゆる「モノ言う株主」にせず、有事の際も協力的な姿勢を取っていただく関係でいることが望ましいです。すなわち、分散株主ではなく「安定株主」になって頂く必要があります。
そのためには、少数株主に対して日頃から丁寧な対応をするとともに、オーナー家と少数株主との間における距離感を縮める対応が必要です。具体的には株主総会などの機会ごとにしっかりと顔を合わせて交流を深めていくこと等が挙げられます。
加えて、株主に一定の安心感を与えるため社長には強いリーダーシップと結果が求められることとなります。
一方で、少数株主から「株式を買い取ってほしい」と言われる場合もありますので、その際は資金的に無理のない範囲で買い取り、少しずつ集約していく場合もあります。いずれにしても分散株式への対応は莫大なコスト又はエネルギーが必要となりますので、戦略的意義を持たず株式を分散させることは避けた方が良いでしょう。
まとめ|分散株式問題は「早期対策」と「戦略的資本政策」が鍵
本記事では、「分散株式」の原因・問題点・対応策を解説しました。
老舗企業や同族会社では、名義株や相続、創業期の支援など、さまざまな要因で株式が分散しているケースが多く見られます。株式を保有している以上、すべての株主には権利があり、経営者はその関係性を軽視することはできません。
また、分散株式を集約する際には、多額の資金負担や税務リスク、株主との交渉など、慎重な判断が求められます。そのため、突発的な対応ではなく、事業承継やM&Aを見据えて中長期的に資本政策を立案することが重要です。
分散株式の対応は、法務・税務・承継の知見が求められる複雑な領域です。自社の株主構成や承継対策に不安がある方は、早めに専門家へ相談し、将来のトラブルを未然に防ぐ資本政策を検討しましょう。
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クレジオ・パートナーズ株式会社広島を拠点に、中国・四国地方を中心とした地域企業のM&A・事業承継を専門に支援しています。資本政策や企業再編のアドバイザリーにも強みを持ち、地域金融機関や専門家と連携しながら、中小企業の持続的な成長と後継者募集をサポート。補助金や制度活用の知見を活かし、経営者に寄り添った実務的な支援を提供しています。
URL :https://cregio.jp/
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