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コラム COLUMN

M&A事業承継

事業承継のしくじり先生!上手くいかなかったM&A事例


様々なM&Aによる事業承継がある中で、必ずしも全てが上手くいく訳ではありません。今回は、「売り手企業の経営者が希望していたM&Aによる事業承継が中止になった又は実現しなかった」という事例をいくつかご紹介します。様々なケースがあり、それぞれの事情があるため、必ずしもこちらのコラムをご覧の皆さまに当てはまる訳ではありませんが、M&Aによる事業承継を検討する上での参考になれば幸いです。

記事のポイント

  • M&Aによる事業承継が上手くいかなかった事例には様々な理由が存在。
  • 創業者の利益確保と、企業の継続・発展とのバランスが必要。
  • 早めの相談・情報収集が事業承継を上手く活かせる鍵。

M&Aによる事業承継が上手くいかなかった事例

社員への説明タイミングが早すぎた!?伝えるタイミングには要注意

とある企業経営者からM&Aのご相談を受けた事例です。M&Aの検討を進める中で経営者から「うちの会社は家族経営で、社員は家族そのものだ。家族に内緒でM&Aを進める訳には行かない。」というご発言がありました。経営者の意思は固く、その経営者は全社会議で、「事業承継のために会社売却をすること」、「M&A仲介会社に依頼すること」を伝えました。

経営者の意思を聞いた従業員から「社長だからついてきたのに!」「社長と一緒に辞めます!!」という声があがりました。M&Aにおいて、M&Aそのものではなく、M&A後に事業を継続させることが重要であり、そのためには従業員の方に適切なタイミングで伝える必要があります。こちらの例では、結果として、経営者は仲介会社への依頼を断念することになりました。

社員への説明のタイミングについては、こちらのコラムをご参考ください。
コラム|社員にはいつ相談する?M&Aで会社を売却

壁に耳あり!情報漏洩には細心の注意を

ある経営者は近隣同業との資本提携を検討していました。市場環境は厳しく、今後の将来を考え、生き残るためには、お互いに鎬を削るよりも手を携えて規模の拡大・効率化を図ることが最善と考え、トップ同士で協議を継続していました。しかし、社長の机の上に置かれていたM&A検討資料(相手先の社名も入っていました)を見た社員から、M&A検討の情報が洩れてしまい、社内で噂が広がりました。

噂を聞きつけた部長数名から経営者に対して直談判があり、「競合のあの会社とM&Aするのは本当ですか」「あの会社とは社風も商売のやり方も全然違う。私たちは反対です。」との進言がなされました。M&A協議は道半ばであったため、経営者は市場環境や今後の見通しについて十分な反応・説明ができず、M&Aによる事業提携は断念せざるを得ない結果となりました。

味方は誰?株主による反対

父親から跡を継いだ2代目経営者の例です。60代半ばになり、一人娘は結婚し、県外に居住しており、親族の後継者が不在の状況でした。経営者の手腕により業績は好調で財務状況も良好であり、経営者としてはこのまま社長職を続けたい気持ちもありましたが、今後の会社の成長と永続を考えると、事業を早めに引き継ぐことが重要であり、親族後継者が不在、役職員への承継も難しい状況では、第三者へ事業を引き継ぐM&Aしか選択肢はないと考え、大変なM&Aの交渉を進めるのであれば、気力を失ってからではなく、自分が元気なうちに、また、会社の業績が良いときに判断をしておきたいとの思いで、M&Aの検討開始しました。

M&A仲介会社と共に買い手企業を見つけ、相手側とも条件も概ね固まったところで、30%の株式を持つ90歳の父(創業者)にM&Aにより第三者へ事業を引き継ぎたい旨を相談しました。ところが、父親からは「こんな良い会社を売るなんて何事か!言語道断!」と大反対を受けました。

親族後継者がおらず、社員後継者もいない中で、会社の成長と永続を考え、必死に出した結論ではありましたが、その想いや意思決定を、株主である父親に理解をして頂くことは難しく、何度か説得を試みましたが、このままM&Aの交渉を継続することは難しいと考え、買い手候補先には白紙撤回を通知しました。M&Aにおいて「もし」は存在しませんが、もう少し早い時期から、また、定期的に父親と会社の方向性について話し合う機会があれば、違う結果になっていたかも知れないという事例でした。

様々な関係者が存在、大口得意先の反対

とある特殊エレベーターのメンテナンス会社の事例です。こちらの会社は、特殊エレベーターのメーカーであるX社の修理の下請けを行っており、売上の90%以上はX社との取引によるものでした。そんな中、独立系エレベーターメンテナンス会社が、こちらの会社の株式取得を希望し、その条件として、M&A後もX社との取引が継続されることが伝えられました。独立系エレベーターメンテナンス会社としては、X社の取引を確保することで、自社の事業拡大を見込んでいました。

基本合意後、売り手企業の経営者は、意を決してX社社長にM&Aにより株式譲渡したい旨を説明しました。株式譲渡の理由として、経営者自身が高齢であること、体力・気力が落ちてきたこと、事業継続のためにM&Aをしたいことを、誠意を尽くして説明しました。ところが、X社社長からは「独立系に仕事を依頼することは未来永劫ない。独立系にM&Aするなら、取引は継続しない。」と明言されてしまいました。その結果、その経営者はM&Aを断念せざるを得ない結果となってしまいました。

重要なのはタイミング、高い株価にこだわり過ぎた

M&Aによる事業承継を希望する売り手企業の経営者は、M&A仲介会社に「株式売却した場合、いくらの価格になるか」を相談しました。これまでの経営状況と財務状況を踏まえ、M&A仲介会社は企業価値の相場を試算しました。経営者はその試算した企業価値の価格を見て、M&A仲介会社に試算結果を大幅に上回る株価を希望することを伝えました。経営者の想いとしては、「仲介会社の“計算式”に基づいた試算は理解はできるが、これまで身を粉にして育ててきた会社が培った「ブランド」や「歴史」は、その“計算式”では測れないものがある」と信念を持ち、試算価格を大幅に上回る「希望価格」で候補先を探索するようM&A仲介会社へ依頼しました。

M&A仲介会社は、希望価格をもとに買い手企業先候補に打診を続けました。結果として、すべての打診先に「価格が高すぎる」との理由で見送られることとなり、経営者はM&Aによる事業承継を実施することが難しいという結果になりました。

これまでの経験では、こういったケースは多く、「希望株価が相場よりも高すぎる」「(根拠を伴わない)高い株価にこだわり過ぎる」という事例が一番多いことも事実です。ただし、こだわり過ぎた結果として、何年かけてもM&Aが実現せず事業承継ができず、売り手企業の経営者の高齢化とともに、徐々に会社の成長力も鈍化し、事業の収益力が落ちていく、というパターンもあります。

M&Aにおいて難しいところは、必ずしも売手企業側の希望価格を満たすケースばかりではないというところです。企業価値には一定程度の「相場」が存在します。その「相場」は事業内容、財務諸表(BS、PL等)から、ある程度試算可能です。過去の経験からも、大抵はこの試算した「相場」の幅の中に収まります。。

もちろん相場の幅を超えて、売買が成立するケースもあります。以下のようなケースの場合、相場を超えてM&Aが行われる可能性があります。

  • 卸、小売、調剤薬局など、業界再編が盛んな業種(面取り合戦の業種)の場合
  • 事業規模、利益規模が大きい(年商20億円以上、営業利益1~2億円以上)場合
  • 独自のビジネスモデルで他社と差別化できており、業界内のシェアや利益率が高い場合
  • 売上・利益の成長性が高い場合

これまでの人生をかけた会社の事業について、しっかりとした評価を求めたいという経営者の気持ちは痛い程理解します。ただし、「事業承継」を目的とした場合、そのM&Aには以下の意義があると考えています。

①会社の存続、雇用の継続、取引先との取引の継続
②事業の発展
③売り手企業経営者の創業者利益の回収
④売り手企業経営者の引退と引継ぎ

思うに、事業承継型M&Aを上手に成功された方は、上記で挙げたM&Aが持つ意義や目的をバランスよく捉えられている方が多いと思います。他方、「希望株価が高すぎる」ことでM&Aに失敗された方は、上記の目的の中で「③創業者利益の回収」に重きを置きすぎている方が多いように感じます。これも経験に基づく感覚ではありますが、前者である事業承継型M&Aを上手く成功された経営者からは、M&Aの議論の際に「従業員」の話題がよく出てくる、後者の希望価格に重点を置く経営者からは「従業員」の話題があまり出てこない傾向があるように感じます。

おわりに

今回は事業承継におけるM&Aが上手くいかなかった事例を取り上げ、その中からM&Aで論点となりやすいポイントを説明しました。それぞれの事情があるため、全てを共通のポイントとして捉えることは難しいですが、事業承継を考える中での参考になれば嬉しく思います。

また、事業承継については、経営者だけで検討するには客観的な視点を持つという意味で限界があります。最後に挙げた希望価格に関する点についても、早めにM&Aの経験を持つ誰かに相談していれば、自社事業の相場価格を把握し、創業者利益も十分確保するための対策を考えなかがら事業展開を見据えることも可能です。「事業承継なんて、自分はまだまだ」ではなく、早めに相談して、情報収集しておくことが、結果として、経営者自身と、会社の成長と永続、従業員、取引先、地域、社会にとってよい方向となる可能性が高まります。経営者自身のライフプランを考えるためにも、早めに専門家や公的機関等に相談してみることも一案です。


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クレジオ・パートナーズ株式会社のご紹介代表者 :代表取締役 李 志翔
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設立  :2018年4月
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 ・M&Aに関するアドバイザリーサービス
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 ・資本政策、企業再編に関するアドバイザリーサービス 等
URL  :https://cregio.jp/

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