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コラム COLUMN

M&A事業承継

社会福祉法人M&Aの論点


厚生労働省が社会福祉法人に関して「合併・事業譲渡等マニュアル」を発表する等、社会福祉法人においてもM&Aが注目されています。社会福祉法人のM&Aは、株式会社と異なり、独自の論点が存在します。日本の社会福祉サービスのインフラである社会福祉法人がどのようにM&Aを活用していくのか、その論点についてまとました。

記事のポイント

  • 社会福祉法人は「社会福祉法」に規定された特別法人。株式会社と異なり、株式を発行しない。
  • 社会福祉法人におけるM&Aのスキームは、原則として、「合併」又は「事業譲渡」。
  • 厚生労働省もマニュアルを発表。許認可等を行う行政庁との事前確認は必要。

社会福祉法人とは

社会福祉法人は、厚生労働省が所管する「社会福祉法」において設立認可を受けた公益法人です。社会福祉法第22条において、社会福祉法人とは「社会福祉事業を行うことを目的として、この法律の定めるところにより設立された法人」と定義されています。

「社会福祉事業」とは、社会福祉法第2条で定められている「第1種社会福祉事業」及び「第2種社会福祉事業」となり、第1種には、特別養護老人ホーム・児童養護施設・障がい者支援施設等があり、第2種には、保育所・訪問介護・デイサービス・ショートステイ等が含まれます。また、社会福祉法人は、社会福祉事業以外にも、「公益事業」と「収益事業」を行うことができます。

(出典)厚生労働省HP「社会福祉法人の概要

このように、高齢者や児童向けのサービスが中心となっており、全国における高齢化の進展、共働き家庭が増加した際の子供の保育等、社会インフラとしての機能が求められるサービスを社会福祉法人は担っています。



社会福祉法人のM&Aにおける論点

社会福祉法人のM&Aスキーム

社会福祉法人は、社会福祉法において認可された公益法人であるため、一般的な株式会社ではありません。通常、株式会社のM&Aでは、譲渡側が発行している株式又は、譲渡側の事業を対価としてM&Aを行います。しかし、社会福祉法人の場合は、株式を対価とした譲渡が行えないことに注意が必要です。

よって、社会福祉法人の経営権を譲渡する方法は、「合併(新設合併または吸収合併)」「(実質的な)事業譲渡」による2つの方法となります。なお、合併は社会福祉法人間で認められています。

厚生労働省による社会福祉法人「合併・事業譲渡等マニュアル」

2020年9月11日に厚生労働省は、社会福祉法人の合併や事業譲渡等の手続きや留意点等を整理する観点から「社会福祉法人の事業展開に係るガイドライン」を策定しました。合併と事業譲渡等については、社会福祉法等に定められた手続きを行う必要があることから、その手続きや法令等について記載し、実施におけるポイントと留意点をまとめた「合併・事業譲渡等マニュアル」を公開しています。

同マニュアルでは、合併・事業譲渡等の課題を、令和元年度厚生労働省社会福祉推進事業「社会福祉法人の事業拡大等に関する調査研究事業」におけるアンケート調査結果に基づきまとめた上で、「社会福祉法人における合併」「社会福祉法人における事業譲渡」について、それぞれポイントや留意事項をまとめています。

社会福祉法人の事業拡大等に関する調査研究事業報告書」のアンケート結果では、合併や事業譲渡等に対する考えについて、55.5%が「必要性を感じていない」と回答したのに対し、42.6%が何らか必要性があると回答しています(具体的な内訳は「今後は、必要性が出てくるのではないかと感じている(38.1%)」「必要性は感じていて検討したことがあるが、実現にいたらなかった(1.5%)」「必要性を感じているが方法がわからない(3.0%)」)。合併の経緯・理由については、「事業の多角化のため」の回答割合が47.1%と多く、次いで「事業規模の拡大のため」が35.3%であり、「後継者不足のため」の回答は23.5%となっています。事業譲渡の理由については、「事業の集中のため」が87.5%と圧倒的に高く、「後継者不足のため」は12.5%となっています。

(出典:みずほ情報総研株式会社「社会福祉法人の事業拡大等に関する調査研究事業報告書」)


論点になりやすいポイント

事業譲渡の対価について

社会福祉法人を譲渡を検討する場合、譲渡する対価をどのように受け取るかについては論点になりやすいポイントです。

「合併・事業譲渡等マニュアル」によると、社会福祉法人では、社会福祉事業の剰余金は一定の条件のもと法人本部会計又は公益事業に充てることができますが、法人外への対価性のない支出は認められていないことが明示されています。そのため、(事業譲渡等の場合、)譲渡側の留意する点として、「自法人における譲渡事業の価値を見積り、少なくともその価値以上の受取対価でなければ、法人外への資金流出に該当すると考えられる。」と記載されています。

(出典)厚生労働省「合併・事業譲渡等マニュアル」P.134

上記のように、事業の価値は、「資産及び負債だけでなく、事業計画(将来の損益予測や修繕計画など)を加味したものと考えられます。」と記載されており、事業の価値を算定するためには、過去の累計値だけでなく、将来の収益獲得能力も加味して算定していくことが必要となります。

許認可や財産処分等に関連した行政機関との調整

合併を行う場合、行政の許認可が必要となりますので、事前に行政への相談が必要となります。事業譲渡の場合でも、社会福祉法人の場合、補助金により財産を購入した場合もあり、財産処分を行う場合は事前に行政への相談が必要となります。厚生労働省「合併・事業譲渡等マニュアル」においても、許認可等を行う行政庁への事前相談が推奨されています(事業譲渡等の場合、許認可の観点から必須)。

事業体が異なる場合の会計・財務

事業譲渡先が株式会社である場合等、事業譲渡契約を結ぶ先が異なる場合は、会計科目が異なることとなり、事業を評価する際等において留意することが必要となります。


おわりに

厚生労働省からマニュアルが公表される等、社会福祉法人においても、合併・事業譲渡の議論が注目されています。社会福祉法人が事業譲渡等を行う場合は、通常の株式を対価とするM&Aにおける論点に加えて、譲渡スキームの慎重な検討、行政との事前調整、事業性の評価等、様々な視点が必要です。また、社会福祉法人の事業譲渡理由のアンケート結果にもあるとおり、「事業の集中のため」に譲渡されるケースが多いです。つまり、社会福祉法人そのものの事業譲渡ではなく、所有する施設や不動産、それに附随する事業等、一定の有形無形の資産及び負債を切り出してM&Aを行う事例が多いです。社会福祉法人が展開するサービスは、高齢者や児童向けが多く、日本の社会福祉を支えるインフラ的な側面があります。したがって、事業を維持・拡大するためにも、業界及び制度の事情をよく知っており、財務的な知見がある専門機関または担当者へ早めに相談することをお薦めします。


《参考》当社における社会福祉法人の事業譲渡等の事例
CASE04 介護・福祉施設の事業譲渡タイミングとスピード感が決め手



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クレジオ・パートナーズ株式会社のご紹介代表者 :代表取締役 李 志翔
所在地 :広島市中区紙屋町1丁目1番17号 広島ミッドタウンビル3階
設立  :2018年4月
事業内容:
 ・M&Aに関するアドバイザリーサービス
 ・事業承継に関するアドバイザリーサービス
 ・資本政策、企業再編に関するアドバイザリーサービス 等
URL  :https://cregio.jp/

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