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物流業界の2024年問題を解決するM&Aのポイントを解説

物流業界の2024年問題を解決するM&Aのポイント

物流業界で深刻化する「2024年問題」とは、働き方改革関連法の時間外労働規制により、人件費の増加やドライバー不足が一層進むことを指します。

さらに燃料価格の高騰も重なり、物流企業は価格転嫁やコスト削減の対応を迫られています。こうした課題を乗り越える手段として注目されているのが「M&A」です。

本記事では、物流業界の2024年問題の概要と影響を整理し、M&Aを活用して人件費・燃料費・車両費の負担を軽減し、競争力を高めるための具体的なポイントを解説します。

物流業界の2024年問題とは?

2024年問題の要因(時間外労働の上限規制)

物流業界で深刻化している「2024年問題」とは、働き方改革関連法の施行により、自動車運転業務に対して時間外労働の上限(年960時間)が適用されることで発生する一連の課題を指します

2024年4月1日から正式に規制が始まり、ドライバーの働き方に大きな影響が出ています。

この上限規制によって、

  • 1人のドライバーが走れる距離が短くなる
  • これまでと同じ走行量を維持するには追加人員の確保が必要になる
  • ドライバー不足が加速し、人件費の上昇につながる

といった課題が顕在化し、結果として 物流事業全体のコスト増加が避けられない状況 となりました。

燃料価格の高騰が追い打ちに

2024年問題による人件費の増加に加え、物流企業をさらに苦しめているのが燃料価格の高騰です。

軽油価格は数年単位で上昇傾向にあり、特に中小物流会社の経営に大きな圧迫を与えています。燃料費は物流業のコスト構造の中でも比重が高く、

  • 走行距離の増減
  • 車両台数
  • 積載率

によって直接的に利益を左右します。そのため、燃料価格が10円上がるだけでも、年間数百万円規模でコスト増になる企業も珍しくありません。

しかし燃料価格の高騰は企業努力だけではどうにもできない外部要因です。2024年問題による「人件費の上昇」と「燃料費の高騰」が同時に進行しているため、物流企業はこれまで以上に利益率の低下リスク に直面しています。

価格転嫁が難しい中小物流会社が直面する現実

物流業界では、コスト上昇分を荷主へ価格転嫁できるかどうかが、生き残りの分岐点になります。しかし実際には、大手と中小企業では価格転嫁の難易度に大きな差があります。

大手物流会社の場合

  • 荷主との取引量が大きく、交渉力が強い
  • 契約更新時に値上げを提示できる
  • システム化でコスト構造が強固

そのため、上昇したコストを比較的スムーズに価格へ反映できます。

一方の中小物流会社

  • 荷主側が取引先を容易に変更できる(代替が多い)
  • 値上げ交渉を切り出すと取引縮小リスクが高い
  • 個別交渉の負担が大きく、時間もかかる

という構造的ハンデがあり、上昇したコストを価格に反映できず、実質的に“値上げできない状態”に置かれている企業が多いのが現状です。

特に燃料価格は毎月変動するため、「燃料サーチャージの導入」や「契約内容の見直し」を進められる企業と、そうでない企業との格差はますます広がり続けています。

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働き方改革関連法のポイントと物流業への影響

働き方改革関連法は「他方な働き方を選択できる社会を実現する」ことを目的に、2018年に公布され、2019年以降順次施行されています。

「自動車運転の業務」については、「改正法施行5年後に、上限規制を適用する」こととなっており、2024年4月1日から適用が開始します。

同法の改革の内容は以下のとおりですが、その中でも大きく影響するのは、「残業時間の上限規制」「勤務間インターバル制度の導入」「月60時間超の残業の、割増賃金率引き上げ」となります。

物流企業に影響する主な改正内容

  • 残業時間の上限規制
  • 「勤務時間インターバル」制度の導入促進
  • 年5日間の年次有給休暇の取得
  • 月60時間超残業の割増賃金率引上げ
  • 労働時間の客観的な把握
  • 「フレックスタイム制」の拡充
  • 「高度プロフェッショナル制度」を創設
  • 産業医 ・ 産 業 保 健 機 能 の 強 化

(出典:厚生労働省「働き方改革~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~」)

人件費増加・労働時間管理の厳格化で何が起こるのか

物流業界でM&Aが注目される理由|コスト構造から解説

物流業は「規模の経済」が働きやすい

物流業のコスト構造のうち、大きく割合を占めるのは「人件費」「燃料費」「車両費」です。

働き方改革関連法により、人件費の増加が見込まれるため、価格転嫁を進めるだけでなく、燃料費・車両費をいかに抑えられるが、物流業界で強いポジションを築く要因となります。

単独企業ではコスト削減の限界に達しやすい背景とは?

物流業は、いわゆる「規模の経済」が働きやすい業界です。そのため、M&Aによりグループを形成することで、燃料の調達コストや車両に関するコストを削減する取組により、2024年問題を乗り越えることができる可能性があります。具体的な取組例は以下のとおりです。

M&Aを活用した2024年問題対策|効果的な取り組み事例

共同仕入れによる燃料費の低減

小規模に細かく燃料を仕入れるより、大量に燃料を仕入れることで、その価格は低減します。M&Aでグループを形成し、仕入を共同化することで1回の購入量を増大させ、燃料価格を下げ、燃料費用を低減することが可能です。

中堅・大手企業と、グループを持たない単体の中小企業とを比較した時に、10~20円/ℓの差があります。仕入値で優位性がある大手傘下に加わる、もしくは自らグループを形成し、燃料費の価格交渉を行う等、M&Aを活用することで費用の低減が実現できます。

インタンク化で燃料仕入れコストを大幅圧縮

通常、燃料を補給する場合は、一般のSSにおいて小売業者から購入しますが、大手物流会社の場合、自社内に燃料タンクを設置する「インタンク」という取組を展開している場合があります。

事業所の敷地内に軽油等の燃料タンクを設置することで、元売り業者から直接購入することで、燃料の仕入値を抑えることができます。

インタンク化そのものに係る経費が高額なため、1社で実施するにはコストが見合いませんが、複数社が連携することで、インタンク化によるコストメリットを享受することが可能です。

車両共同購入による車両費低減

物流業において、トラック等の車両費をいかに抑えるかも重要な要素です。グループを形成する等、大手物流会社であれば、共同仕入を行うことで仕入値を下げることが可能です。

一括購入ではなく、リースにより車両調達を選択する企業もありますが、リースの場合、年間に要する経費は大きくなるため、キャッシュフローに余力があることが前提条件となります。

働き方改革関連法による人件費増・近年の燃料高騰化によるコスト増により、キャッシュフローが十分に確保できなくなった場合、車両の更新ができなくなります。

この点も、既に大手グループを形成している物流会社であれば、短い車両更新頻度に耐えうるキャッシュフローを確保しているため、車両更新頻度を保つことができます。

共通システム導入による業務効率化と労務管理強化

働き方改革関連法施行に伴い、勤務時間を把握することが大きな要件となりますが、中小企業の場合、IT投資にまで手が回らない企業が多く、システム導入が遅れてしまい、正確に勤務時間を把握できていないケースも存在します。

システム導入は、ドライバーの業務フローの変更を伴うため、かなり大変な作業です。大手物流会社等は、既にシステム導入している場合も多く、そういった企業と一緒になることで、システム導入をスムーズに行うことも可能となります。

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物流業界のM&A事例一覧

フジトランスポート株式会社(旧富士運輸株式会社)

奈良県に本社を置くフジトランスポート株式会社は、2021年6-7月において、北陸トランスポート株式会社(富山県)サンコー運輸株式会社(神奈川県)日向商運株式会社(宮崎県)を立て続けにグループ化しています。

株式会社ハマキョーレックス

静岡県に本社を置き、3PLに強みを持つ株式会社ハマキョーレックスは、2021年以降、栄進急送株式会社(兵庫県)・マルコ物流有限会社(兵庫県)大一運送株式会社(神奈川県)中神運送株式会社(愛知県)東日本急行株式会社(東京都)を子会社しています。

まとめ|物流の2024年問題はM&Aで乗り越えられるのか

物流業界における2024年問題による人件費の増加、燃料の高騰化による燃料費の増加という業界の課題に対して、M&Aがどのように有効かを事例と共に整理しました。

上記以外にも様々な創意工夫により、この危機を乗り越えようとしていますが、企業単体できることには限りがあります。特に物流業界は、燃料費・車両費等において「規模の経済」が大きく効果を発揮する業界でもあり、M&Aが有効な手段の一つとなり、既に物流業界ではM&Aの流れが強まっています。

M&Aに限らず、地域企業の物流業の継続・成長に向けた経営戦略を検討される際は、ぜひ当社にご相談ください。物流業界のM&A経験豊富なコンサルタントが、最新の事例について情報提供を行い、共に経営戦略を立案します。

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クレジオ・パートナーズ株式会社広島を拠点に、中国・四国地方を中心とした地域企業のM&A・事業承継を専門に支援しています。資本政策や企業再編のアドバイザリーにも強みを持ち、地域金融機関や専門家と連携しながら、中小企業の持続的な成長をサポート。補助金や制度活用の知見を活かし、経営者に寄り添った実務的な支援を提供しています。
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