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コラム COLUMN

広島大学発ゲノム編集プラットフォームで共創を加速させるスタートアップ、プラチナバイオ


広島県東広島市に本社を置き、広島大学ゲノム編集イノベーションセンター山本教授らの最先端ゲノム編集技術「Platinum TALEN」を核にして設立されたスタートアップ「プラチナバイオ」。第21回Japan Venture Awards「JVCA特別奨励賞」の受賞、プレシリーズAラウンドの資金調達の完了等、バイオ領域で快進撃を続ける同社の成長の歩みと、今後の展望について、プラチナバイオ株式会社 代表取締役CEO 奥原 啓輔氏にインタビューしました。

ゲノム編集を社会実装するために創出されたプラットフォーム

研究者志望から、研究を支援する仕事を選択

大阪生まれ、奈良育ちで、広島大学総合科学部に入学したことから、広島大学とのご縁は始まります。生物学者になることが目標で、広島大学博士課程まで進んだのですが、当時、政策的にポストドクターを増やす取組が展開された影響から、バイオ研究者が溢れていたこともあり、研究者で食べていくことに不安がありました。

そんな時に出会ったのが、「研究を支援する」という立場の仕事です。科学技術振興を目的に設立された“JST(国立研究開発法人科学技術振興機構)”に就職しました。最初の配属は産学連携を推進する部署で、企業と大学が連携したプロジェクトへ資金を提供する業務でした。IT、バイオ、環境・エネルギー、安心安全(防災)等、幅広い分野のテクノロジーに触れ、最終的には約70個のプロジェクトをマネジメントするようになり、研究開発資金を提供する側として、どういうプロジェクトが採択されるか、採択された後にどのようなプロジェクトが上手くいくのかを知ることができました。

その後、内閣官房知的財産戦略推進事務局に出向になりました。国の知財戦略を立て、推進する役割でしたが、様々な省庁・民間企業から優秀な人材が集められており、深夜までひたすら企画調整を行う業務を経験しました。業務は大変でしたが、調整能力、ビジネス文章、資料作成、交渉力といったあらゆるビジネススキルが鍛えられました。2年の修行の後、JSTに戻り、新たにバイオサイエンスデータベースセンター(NBDC)のプロジェクトに参画しました。私が初めてデータベースに触れたプロジェクトでした。

当時、私は単身赴任で、家族は広島にいました。2011年に東日本大震災もあり、東京にいては家族を呼べないと考え、「家族」を取って広島で暮らすか、「仕事」を取って東京で励むか、という選択が迫られました。最終的に「家族」を選択しましたが、広島に戻っても、私のキャリアでは転職先は限られます。運よく東広島市役所が民間等の経験者を募集したこともあり、そこに手を挙げました。元々の経験を活かし、産業振興に尽力したいと自己PRしていたのですが、最初に着任したのは福祉部こども家庭課でした。少し驚きましたが、市の子育て支援計画の策定に関わる中で、これまでの経験を活かすことができました。その次に、広島大学に出向したことが今のキャリアに繋がります。



産学連携プロジェクトから、ゲノム編集のプロダクトが生まれる

2016年4月に広島大学に出向しました。産学・地域連携センターに着任し、産学連携の推進を担当することになりました。古巣だったJSTが公募を開始したOPERA(産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム)に手を挙げ、そのプロジェクトをきっかけに現在の共同創業者・CTOであるゲノム編集の権威、山本先生に出会いました。産学連携を強力に推進するOPERAプロジェクトは、大学が企業から受ける共同研究費と同額を、最大1.5億円/年×5年間、補助する制度でした。山本先生と一緒に参画企業を募り、無事採択されました。企業にとっても、研究開発費が倍になるので、採択された後は、様々な企業と連携する機会を得ることができました。


本プロジェクトの成果として、卵アレルギーの人でも安心して食べられる卵加工食品を実現する「低アレルゲン卵」や、CO2を吸収する微生物を利用して製造するバイオ燃料の生産等、様々なゲノム編集技術を活用したプロダクトが生まれました。
ゲノム編集でしか実現できなかった新しい価値として分かりやすいのは「低アレルゲン卵」です。卵アレルギーを持つ人は、卵を利用したあらゆる食べ物が食べられず、厳しい食事制限を強いられます。「低アレルゲン卵」は、アレルギーを持つ人の課題を解決できる可能性があります。ただ、課題を解決することと、その商品が選択してもらえるかは別問題です。選ばれるためには、訴求力のある新しい価値を提供する必要があります。ゲノム編集の技術を活用してプロダクト生むだけではなく、社会とコミュニケーションしながら、問いかけていくことが必要です。「低アレルゲン卵」も、まだラボベースであり、生産量も月50-60個に限られます。これから本当にアレルギー患者さんが食べても大丈夫か安全性の検証を行い、生産規模を拡大して事業化へ進めていく必要があります。このようにゲノム編集を社会実装していくことを目的に立ち上がったのがプラチナバイオです。

低アレルゲン卵(左)と普通の卵(右)の比較
見た目は変わらない。

(広島大学での実験風景)


解析×編集、AIを活用した「バイオDX」で新しいステージを目指す

2019年にプラチナバイオを立ち上げる前、様々な支援プログラムに応募しました。JSTの社会還元加速プログラム(SCORE)、東京都が支援する創薬・医療系ベンチャー育成支援プログラム Blockbuster TOKYO、ひろしまベンチャー助成金等に採択されました。

新しくJSTが開始した「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」では、新たに「バイオDX」というコンセプトを先駆けて打ち出しました。次世代シークエンサーの登場により、大量にデータが生み出される時代となり、バイオインフォマティクスという分野が注目されています。これまでのバイオインフォマティクスは、人間やマウスといった既にゲノム情報が明らかな生物(モデル生物)が中心でした。まだゲノム情報わかっていない生物(非モデル生物)に応用するには、ゲノム解析の技術開発が必要になります。そのため、新たに当社に加わったのが、広島大学の坊農先生(大学院統合生命科学研究科 特任教授)です。



坊農先生は、バイオDXのトップランナーで、非モデル生物のゲノム解析を得意としています。共同創業者である広島大学の山本先生(ゲノム編集イノベーションセンター センター長・教授)と、当社の科学技術顧問である広島大学の佐久間先生(大学院統合生命科学研究科 准教授)はゲノム編集のスペシャリストであり、そこに解析のプロが加わることで新たなプロジェクトを展開しています。

例えば、食品メーカーさんは、たくさんの生物資源を保有しています。農作物の場合、色や味といった特徴が品種によって異なりますが、それらをゲノム情報から解析し、特定の機能を発現する遺伝子を特定します。そうすることで、特定機能を伸ばす育種・品種改良が可能になります。また、ゲノム編集だけではなく、生育環境を変えることで、目的の物質を高生産する等の効果も期待できます。また、AIを活用して、ゲノム情報を解析することで、バイオDXを推進していきます。次世代シーケンサー等の技術性能の向上により、既に中国等の諸外国では、農作物の遺伝子解析が進められています。バイオ産業でも、国際的な競争力をつけるための研究開発が求められています。地域においても、ゲノム編集やバイオDXを活用した品種改良を通じて、地域産品をブランディングして、新しい産業が生まれる流れを期待しています。




戦略的な資本提携、事業会社との共創で取組を加速化

プラチナバイオは、ゲノム編集の社会実装を推進するプラットフォーマーであり、サービスプロバイダーではないので、B to Cのサービスやプロダクトは展開していません。ビジネスモデルとして、事業会社との連携、共創事業を通じて、ゲノム編集の社会実装を進めていきます。

魚の領域では、「スシロー」、「京樽」等の外食関連事業を傘下に持つ株式会社FOOD & LIFE COMPANIES(大阪府)と、ゲノム編集技術を活用した水産物の品種改良を進めるリージョナルフィッシュ株式会社(京都府)と3社共同研究を開始しました。FOOD & LIFE COMPANIES社との出会いのきっかけは、同社から当社のHPのお問い合わせフォームからご連絡を頂いたことでした。彼らは、海水温の上昇による漁獲高の減少と、人口が増加し、経済成長を遂げた中国が高値で魚を仕入れるため、魚を仕入れたくても「取れない」「買えない」という状況に直面していて、このままでは現在の価格帯で、同じクオリティの商品を提供することが困難な状況になってしまう、という危機感を抱いていました。その課題を解決するために「養殖現場の高効率」を実現する必要がありました。グローバルなゲノム・スタートアップの中でも、プラチナバイオを評価して頂き、水産物に強いリージョナルフィッシュ社と共に共同開発を開始しました。



加えて、FOOD & LIFE COMPANIES社からは資本提携も実現しました。同社に加え、世界を変えるテクノロジーを持つスタートアップに投資を行いヤンマーグループとの共創を推進する、ヤンマーベンチャーズ株式会社(大阪府)も加わり、プレシリーズAラウンドで総額約2.8億円の資金調達を2021年12月に実施しました。当社の事業戦略としては、1領域につき1社と連携していく方針です。「養殖」であればFOOD & LIFE COMPANIES社、「農」であればヤンマーベンチャーズ社といったように、各分野で事業を推進してくれるパートナー企業との提携は、資本政策的にも大きな意味があります。バイオベンチャーは、創薬分野が大きく注目されていますが、当社はゲノム編集の社会実装を実現するための姿勢から産業にアプローチしています。

広島大学発バイオスタートアップの創り出す未来、共創企業と共に活用する人材を募集

JVCA特別奨励賞を受賞、医療分野での応用、グローバルな展開を目指す

我々が目指す世界観は、ゲノム編集が社会に実装され、社会の役に立つことです。低アレルゲン卵のような、社会課題を解決するプロダクトを世に出し、社会に受け入れられるため、価値を創出するムーブメントも生み出す必要があります。既存製品のリプレイスではなく、課題を持つ人のために選択肢を用意したいと願っています。今後も、各分野における課題を解決するようなプロダクトを、共同プロジェクトを通じて生み出していきたいと思います。

こういった取組が評価され、2021年12月には、中小企業基盤整備機構が主催となって、革新的で潜在成長力の高い事業や社会課題解決を目指す志の高いベンチャー起業家を表彰する「第21回Japan Venture Awards(略称:JVA)」で「JVCA特別奨励賞」を受けることができました。


共同創業者の山本先生としては、最後は人の医療に役立つ形にしたい、医療応用できる技術にしていきたいという思いも持っています。グローバルなゲノム編集領域において、現在よく利用されているCRISPR-Cas9という技術は、ライセンス上の権利関係の問題から、産業利用しにくいという課題を抱えています。私達は、独自技術の開発に取り組んでおり、将来的には医療分野でも活用しやすい技術を提供することを目指していきます。

研究開発人材を募集、事業推進人材の採用も

資金調達、JVCA特別奨励賞のリリースと共に求人活動も強化し、現在は12名のメンバーで構成されています。実はメンバーのほとんどがフルリモートです。研究員は現場で活躍する必要があるので、東広島の本社(研究開発拠点)にいる必要がありますが、それ以外のメンバーであれば、日本全国どこからでもジョインできる、というスタンスです。正直、スタートアップで広島に来てくれることを前提に採用活動をすることは無理があります。メンバーは、写真家や元教員等、多様なメンバーに参画して頂いています。アドバイザリーボードにも、法務・知財・資本政策・グローバル展開等、各分野の第一人者が加わっています。

引き続き、研究開発人材の採用はしたいと考えていますが、今後はバックオフィス系や、事業推進を担う人材の採用にも力を入れていきます。

バイオDXの共創企業を募集、ゲノムを活用した課題解決を図る

提携して頂く事業会社は広く募集しています。バイオDXに関心がある企業、生物資源を利用して何かできないかと考える企業があれば、ぜひ声をかけて欲しいです。様々な分野で生物資源は利用されていますが、ゲノム解析や活用はまだまだ進んでいません。当社では、ゲノム解析したからといって、必ずしもゲノム編集を勧める訳ではなく、現在のそれぞれの会社で利用されている生物資源の価値を最大化するためには何が必要かを考え、ゲノム編集に取り組んだ方がいいのかどうかも含めて、アドバイスが可能です。資本提携・共同研究からスタートする以外にも、企業が保有する生物資源を活用して一緒に国のプロジェクトを取りにいこうといった提案もできます。

地域で言えば、食品分野が分かりやすいと思いますが、付加価値の高い地域産品があったとして、何故その産地の質がよいのかといった理由は十分に明らかにされていません。生産者や企業のこれまでのノウハウに加え、ゲノムを活用するという生物学的なアプローチで、一緒に明らかにしていきたいと思います。


スタートアップで働くことが当たり前のキャリアパスへ

スタートアップを目指す方へのメッセージとして、「むちゃくちゃ大変なので、覚悟して飛び込んでおいで」と伝えたいですね。だけど、むちゃくちゃやりがいはあります。スタートアップは様々な可能性を秘めています。自分も応援したいと思いますし、スタートアップで働くことが、当たり前のキャリアパスになって欲しいと思います。



企業情報(2022年2月末時点)

会社名プラチナバイオ株式会社
代表者名代表取締役CEO 奥原 啓輔
創立年2019年8月
従業員数12名
資本金15,362万円
事業内容ゲノム編集・コンサルティング
本社所在地広島県東広島市鏡山三丁目10番23号
HPhttps://www.pt-bio.com/





クレジオ・パートナーズ株式会社のご紹介代表者 :代表取締役 李 志翔
所在地 :広島市中区紙屋町1丁目1番17号 広島ミッドタウンビル3階
設立  :2018年4月
事業内容:
 ・M&Aに関するアドバイザリーサービス
 ・事業承継に関するアドバイザリーサービス
 ・資本政策、企業再編に関するアドバイザリーサービス 等
URL  :https://cregio.jp/

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