PMIとは?中小M&AにおけるPMIの議論
PMI(Post Merger Integration)は、「合併後の統合」を意味する言葉であり、M&A後にシナジーを実現するための経営統合プロセスを指します。中小企業でM&Aが増えるなか、PMIを適切に進められないことが事業停滞や人材流出の原因になることも少なくありません。
特に中小企業では、経営管理、人事労務、財務体制、組織文化といった基盤が企業ごとに大きく異なるため、統合をどこから進めるべきか判断しづらく、計画不在のままM&A後の事業が停滞してしまうケースも見られます。
本記事では、PMIの基本知識から、中小M&Aで起きやすい課題、統合を成功させるためのポイントまでをわかりやすく解説します。
目次
記事のポイント
- PMIとは「M&A後の経営統合」。中小M&Aが拡大する中で今後ますます重要になる領域。
- PMIの範囲は多岐に渡る。一般的には「経営管理」「経理・財務」「組織体制・企業文化」「業務(生産・営業等)」が論点。
- M&A交渉中からPMIを見据えた議論をすることがベスト。M&Aの目的=シナジー効果をしっかり定めることが必要。
PMIとは?
PMIとは「Post Merger Integration」の頭文字をとったもので、日本語での意味は「合併後の統合」となります。M&Aを行い、2つの組織が一つになった後の経営統合を指します。
PMIを行う目的として、M&A前に見込んでいたシナジー効果を十分発揮することや、企業文化が異なる組織同士を上手く連携することが挙げられます。あくまでM&Aはゴールではなく、M&Aした後に譲渡企業・譲受企業の経営資源を活かすことがゴールとなるので、適切にPMIを実行する必要があります。
M&Aが中小企業においても経営戦略の一つとして広がると、M&Aで初めて企業買収を行う会社も増加します。そのため、適切なPMIの実行は、M&Aの積極的な活用を目指す経営者にとっても大きな課題となっています。
行政においても、中小企業のM&Aを推進する上で、適切なPMIについて課題意識を持っており、2021年9月には「中小PMIガイドライン(仮称)」を策定すべく、小委員会が開催されました。このように中小企業においても、今後PMIに関する議論が注目されています。
PMIの定義とは?その範囲は?
PMIの意味は、上記に記載したとおり、「M&A後の経営統合」となります。ただし、PMIが指す範囲については、経営・業務・企業文化・労務等、多岐に渡ります。
PMIの範囲の捉え方として、“経営者が交代し、譲受側企業の事業が軌道にのるまで”といった比較的広範囲の統合を指す「広義のPMI」の場合もあれば、経営統合に伴う、経理・財務面での統合作業や、人事労務に関する規則(就業規則、賃金規程、退職金規程、人事評価制度等)の擦り合わせ等、より具体的なPMIの作業を指す「狭義のPMI」の場合もあります。
投資ファンド等によるM&Aでは、いわゆるPMIの「100日プラン」を策定し、M&A実施後(クロージング後)から100日の期間で、より具体的なPMIを実現させるためのto do(やらなければならないこと)を定めて実行していく例等もあります。一般的な中小M&Aでは、M&A実施前から、詳細にPMIの進め方をスケジューリングする例はあまり多くないのが現実です。
そのような状況の中でも、M&Aの交渉を進める中で、シナジーをしっかりと議論し、M&A後の経営統合を見据えて、買収監査(デューデリジェンス)において、PMIを意識した項目を洗い出して、監査・確認を進める等、PMIの準備を意識してM&Aを進めることもできます。
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PMIで整理すべき主要領域
PMIでは統合すべき領域が多岐にわたり、どこから着手すべきか迷うケースが少なくありません。
一般的には「経営管理」「人事労務」「経理財務」「組織文化」「業務プロセス」といった五つのテーマに整理して検討を進めることで、統合の抜け漏れを防ぎ、シナジー創出に向けた優先順位を明確にできます。

経営管理の統合
経営管理の体制です。M&A後、誰が社長に着任し、経営権を持ち、役員陣の意識合わせや業績管理をどのように行うか等、経営管理体制を構築する必要があります。
- 経営権の承継・社長交代のタイミング
- 役員体制・ガバナンスの再構築
- 業績管理の仕組み(KPI/モニタリング)の整備
人事・労務制度の統一
人事・労務についても重要な論点となります。通常、組織が異なる場合、給与・賞与に関する規程や人事評価のポイント、退職金規程、年金制度等、様々な部分で違いがあります。
無理に買手企業の制度に合わせる必要はありませんが、組織を構成する大事な要素となるので、M&A直後に変えなければならない部分は変更し、その他はゆっくりと統合を進める等、必要性に応じて異なります。特に退職金に関する事項は、将来的な支出に繋がっていくため、しっかりと把握しておくことが重要です。
- 給与・賞与・退職金などの待遇差の整理
- 評価制度・等級制度の擦り合わせ
- 社員の不安を解消するコミュニケーション設計
経理・財務体制の統合
経理・財務に関しても月次で管理している企業もあれば、年次でしか管理していない等、管理の方法や計上ルールが異なる場合があります。
会計ソフトを導入している会社もあれば、未だに紙で管理している、といった企業まで様々です。M&Aを実施して、経営統合を図るためには、それぞれの経理・財務面での違いを理解して、どのように統合を図るのが重要かを理解する必要があります。
- 会計基準・計上ルールの統一
- 月次管理レベルの平準化
- 会計ソフト・管理ツールの移行方針
組織体制・企業文化の融合
会社の組織体制や企業文化についても、会社によって異なります。組織体制については、事業を成長させるために適切な人員配置となっているかを見極め、必要に応じて見直しを行う必要があります。
企業文化については、挨拶やコミュニケーション等の細かい部分はありますが、社員の業務に対するモチベーションにも繋がりますので、十分な配慮が必要です。
特にM&A実施直後は、売手企業の社員は経営がどのように変化するのか不安が募っており、ともすれば重要な経営資源である人材が退職してしまうということも想定されます。シナジーも含め、人材が活躍する企業を目指すためには、組織体制・企業文化についても取り組む必要があります。
- 適材配置・組織再設計の判断基準
- 企業文化の違いによる摩擦の最小化
- M&A直後の離職防止対策(オンボーディング設計)
業務プロセス(生産・営業等)の統合
シナジーを直接的に発揮する業務部分についても取組が必要です。生産におけるコストシナジーを見込んでいる場合、どのような生産体制を構築するかを検討する必要があり、販売シナジーを見込んでいる場合、営業社員を買手企業から送り込む等、シナジーを発揮するための具体的な方法論を議論しておく必要があります。
- 生産工程の統一とコストシナジーの実現
- 営業プロセス統合と販売シナジーの創出
- 業務標準化・マニュアル整備の優先順位
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中小M&AにおけるPMIの実態
PMIに向けて、前もってプランニングし、M&A後に着実にプランを実行することがベストですが、M&Aの交渉を進めていくと、M&A実行が目の前のゴールとなってしまい、M&A後まで十分に気を回して取り組むのが難しいのが実情です。
実際にPMIを上手く進めるためには、何を目的にPMIを行うかでやり方は千差万別となります。以下は、そのような難しい中でも、実際にM&A前後に、PMIのためにどのような取組みを行っているかの実例を挙げます。
M&A交渉中にシナジー効果創出に向けた具体的な方法論まで議論する
基本的な点ですが、M&A交渉中からM&A後について検討を進めておくことは重要です。交渉の初期段階では、シナジー効果についてもイメージでしか掴むことができません。
実際に交渉を進めていく中で、M&Aをした後、具体的にどのようなシナジーが見込めるのかを特定し、それを実現するためにはどのような手法を取るのがよいのかを交渉中に経営者同士で意思疎通を行うことで、あらかじめ議論を進めておくことが重要となります。
譲渡企業の社員と面談を実施して課題を抽出
M&Aでは、異なる企業文化の統合が必要となります。買手企業では当然のように行っていた行為も、売手企業ではそうではありません。経営戦略といった高いレベルだけではなく、社員の挨拶の仕方や、社内のコミュニケーション等、細かい点においても異なっています。
PMIの目的は売手企業が買手企業の文化に合わせることではなく、それぞれの強みを活かし、シナジーを創出することです。売手企業の現状の課題を把握するため、社員一人一人と面談し、それぞれが感じる会社の課題を抽出し、シナジー創出・事業成長のために何が必要かを洗い出し、中期的な経営戦略を立案し、実行に移していきます。
買手企業経営者が売手企業社長として経営を管理
特に事業承継型のM&Aでは、売手企業の社長は後継者不在が課題でM&Aを決断していることもあり、近い将来(半年~3年後)には後継者に事業を引き継ぎたいと考えています。
中小企業において、経営管理人材が少ないという課題があり、中小M&AではM&Aした後のグループ会社を管理する人材が不足するという課題があります。
M&Aによる買手企業の効果の一つは経営管理人材の育成にはなりますが、そういった人材が不在である場合、買手企業の経営者が直接売手企業の経営を管理していくようになります。このように買手企業の経営者自らが売手企業の社長となるケースがあります。
買手企業から売手企業へ人材を派遣
こちらは買手企業に経営人材がいる場合です。通常、M&Aでは社長の引継ぎ期間があります。買手企業にとって、M&Aは経営人材を育てるチャンスであり、引継ぎ期間のうちに社長から経営管理の方法を承継し、経営人材として成長を見込むことができます。
PMI専門のコンサルティング会社を利用
自社内のリソースでPMIの実行が難しい場合、PMI専門のコンサルティング会社を利用するケースがあります。PMI専門のコンサルティング会社の中でもスタイルと料金は様々であり、実際に手を動かして現場に入っていくケースもあれば、戦略策定や導入部分を支援する会社もあります。
ファンドを活用する場合、ファンド側からPMIや経営人材を派遣されるケースが多いですが、ファンドを活用しない場合でも、こういった専門のコンサルティング会社を活用することでPMIを円滑に進めることが可能です。
ただし、上記のとおり、外部=コンサル会社に、何を、どこまでお任せするかによって、料金も進め方も異なりますので、事前にしっかりと擦り合わせをしておくことが必要となります。
PMIとDX(デジタル・トランスフォーメーション)

DXはデジタル・トランスフォーメーションの略で「デジタル技術によるビジネスの変革」を指します。
一見、PMIとDXは領域が異なるように思われますが、例えば買手企業が最新のITシステムやクラウドサービスを活用して経営を行っており、かたや売手企業は未だに紙を利用し、アナログな手法で経営を行っている場合、それぞれの企業文化や、基本的にビジネスで利用している言語まで異なってしまいます(逆に売手企業のIT活用が進んでいるケースもあります)。
このようにM&Aにおいても、今後は、買手企業と売手企業のITに関する情報格差から、DXについても論点になる可能性が存在します。PMIを外部コンサルへ依頼する場合、合わせてDXに関する対応も求めるケースも想定され、PMIの範囲が更に広がることが想定されます。
まとめ
PMIは「M&Aの後始末」ではなく、企業価値を最大化するための最重要プロセスです。経営管理・人事労務・財務・組織文化・DXなど統合すべき領域は広く、特に中小M&Aではリソース不足や経験不足から、計画不在のまま統合が進まないケースが少なくありません。
しかし、PMIの本質は「シナジー創出に必要な打ち手を、M&A前から準備し、M&A後に着実に実行すること」です。目的を明確にし、シナジーの源泉を定義し、初期100日で何を優先すべきかを決めて動けるかどうかが成功を分けます。
中小企業のM&Aが一般化した今、PMIの知識はすべての経営者に必須となっています。もしPMIに不安がある場合は、中小企業の経営・財務に精通したM&A専門コンサルタントに早い段階から相談しておくことで、統合作業をスムーズに進めることができます。
クレジオ・パートナーズでは、中国・四国地域を中心に、事業承継・後継者問題・経営統合作業まで一貫支援を行っています。PMIや事業承継でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
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クレジオ・パートナーズ株式会社広島を拠点に、中国・四国地方を中心とした地域企業のM&A・事業承継を専門に支援しています。資本政策や企業再編のアドバイザリーにも強みを持ち、地域金融機関や専門家と連携しながら、中小企業の持続的な成長と後継者募集をサポート。補助金や制度活用の知見を活かし、経営者に寄り添った実務的な支援を提供しています。
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