山口県山口市に本社を置き、建設事業・不動産事業の両軸を展開し、土地オーナーからの信頼を着実に築き上げることで事業を拡大させ、24年7月に東京証券取引所スタンダード市場への上場を果たしたカドス・コーポレーション。「100年存続企業」をビジョンに掲げ、世代を超えた持続可能な企業の実現に向けて、経営におけるIPOの位置づけと、同社の成長軌跡や企業に懸ける想いについて、代表取締役会長 杉田茂樹氏にインタビューしました。
CADOSの挑戦、建設・不動産で切り開いた成長の道
建設・不動産の両輪で築いた成長基盤
社名である「CADOS(カドス)」の意味は、”Construct(建設) Architect(建物) Design(設計) Of Survey(測量・調査)”の頭文字を取ったものです。創業時の「何でもやる」という意気込みを、この社名で表現しました。
カドス・コーポレーションは、「建設事業」「不動産事業」の大きく2つの事業で構成されています。建設事業は、土地オーナーとテナント企業とのマッチングを行い、建設工事を受注する事業であり、不動産事業は土地オーナーの土地活用をサポートする事業となります。この2つの事業を柱として、2024年7月18日に東京証券取引所スタンダード市場に上場しました。
創業当時から大事にしているのは「土地の有効活用」を起点に考えることです。流通店舗等を建設する場合、テナント側で出店ニーズが決まった後に、土地オーナーにアプローチするのが一般的ですが、当社は先に土地オーナーのニーズを把握し、遊休不動産の活用を提案することから始まります。”Land Application Network”の頭文字を取った、当社独自のビジネスモデルである「カドスLANシステム」を活用し、土地オーナーのニーズを基に流通店舗等に働きかけ、マッチングを行うことで、テナント建設の受注確率を上げ、価格競争のない特命受注に繋げることが建設事業における当社の強みの一つです。20~30年単位の長期で土地を保有するオーナーにとっては、土地の管理は煩雑になりがちです。不動産管理の課題をサポートするため、カドスLANシステムでは、土地オーナーに不動産管理カードをお渡しし、各不動産に管理番号を付与することで、当社が土地の履歴を管理しています。
カドスは土地オーナーと強い信頼関係を構築しているので、「他の方に貸すよりも、カドスさんに貸したい」という依頼をよく受けます。当社の不動産事業は、そういった不動産を転貸することがメインとなります。元々不動産管理事業は、アドレ・エステートという別会社で展開していました。次第に不動産事業が成長し、建設と不動産の両輪が揃ったこともあり、私は、当社が創業期から成長拡大期に入ったと感じたため、上場に向けて2社を合併し、事業基盤を整えました。
成長拡大期に入り、建設事業においては店舗だけではなく、工場・物流倉庫といった事業用の建築にも力を入れています。今後の建設業界の市場環境を考えると、担い手不足になることは明らかであり、一人当たりの生産性向上が求められます。そのため、比較的規模が大きい建築物にも事業を拡大させていきたいと考えています。
今後の成長ドライバーとして、「カドスタウン」という郊外型複合商業施設を展開していきます。土地オーナーのニーズと周囲のテナント情報を把握している当社だからこそ、街全体としてどういった機能が欠けているかを把握することが可能です。街のニーズとして欠けている機能や店舗を誘致することで、更なる相乗効果を生み出していきたいと思います。
42歳で創業、組織の成長と上場への決意
私が創業したのは、1998年で当時42歳でした。それまでは、大和ハウス工業に長年勤めさせていただきました。大和ハウス工業の当時の柱であった「戸建住宅」「集合住宅」「流通店舗」「建設事業」のうち、私は建設事業部に所属する営業畑の人間でした。私にとって、大和ハウス工業は今でも大好きな企業であり、育てていただいた恩のある企業です。一方で、会社の成長と共に方向性に違いを感じることが多くなり、創業する3年前頃からモヤモヤしていました。ちょうど代表が交代し、経営方針が大きく変わろうとする中、私自身が宅建士・建築士の資格を持っていたので、ここは自分の力を試してみたいと思い、独立を決意しました。当時は、バブルが弾け、景気は真っ暗なトンネルのど真ん中です。公共事業でも各社が単価を下げ、価格競争が過熱していた時代でした。
退職金を元手に創業したため、当時は目の前のことに必死で、いわゆるビジョンのように大きく目指したものはありませんでした。建設、建物、設計、測量も、何でもできます、やります、という意味を社名に込めて、事業を開始しました。最初は地固めが大事だと考え、周囲の顧客作りからスタートしました。大和ハウス工業の営業時代に、様々なニーズが多い法人向けの飛び込み営業を経験していたこともあり、個人向けの営業には全く躊躇はなく、毎日20件程度は訪問していました。当社の周辺の土地はほぼ全部訪問しましたね。
事業の転機の一つは、山口県防府市の植松という地域での、コンビニの店舗建設の受注です。この時、初めて従業員を募集しました。当時はまだかなり不景気だったので、ハローワークで募集をかけると、何十人も応募がありました。案件を受注したら、人材を募集する。このサイクルを繰り返し、徐々に皆で成長し、組織が拡大していきました。
私は経営において「人間一人にはそんなに力はない」「皆が協力しないといけない」ということを大事にしています。この考えを表現するため、社員が10名程度になった頃、初めて社是を定め、”社員の一致団結”を盛り込みました。
事業は順調に拡大し、創業後12-3年程経過したとき、大手ドラッグストアのテナント建設で他社と競合となることがありました。当時の当社はまだまだ規模も小さく、力はありませんでしたが、それでも大手ドラッグストアから「今後はうち専門でやって欲しい」とおっしゃって頂きました。お客様から評価されることは純粋に有り難い、嬉しいと思い、その気持ちを忘れないように、企業理念を定め、”お客様の発展は、我社の発展の鏡であること”を盛り込みました。
更に事業が成長し、従業員が40人規模になると、徐々に組織内で過信が始まりました。社員が失敗を隠すような事件も起こり、危機感を覚えました。従業員が真っすぐ仕事に取り組むためには、組織として「安全」であることが必要です。そのため、企業文化として「安全文化」を掲げ、情報を隠さず、失敗の経験を活かし、ガバナンスの取れた企業文化を作ることを明文化しました。
何事も諦めずに貫くことが肝要です。失敗も含め、様々な契約を経験することで、建築と不動産に対する理解力が高まります。理解が深まると、色々なビジネスアイデアが沸き出てきます。このように様々なチャレンジと共に組織は成長していました。一方で、当たり前のことですが、1年ごとに時間は確実に経過していきます。組織が60人の規模になり、自分が60歳になった時、事業承継を強く意識するようになりました。私が創業したのは42歳です。経営して約20年の中で、いかに社員育成に取り組んでも、後継の経営者を育てることは、非常に難しいと痛感していました。営業・設計・工事、各分野で技術・スキルは伸びるかもしれません。ただ、経営は、組織・社会を俯瞰し、数字としてきちんと見る必要があります。私にとっては、会社の承継と存続を進める選択肢の一つが上場であり、検討に検討を重ねた結果、63歳の時に、上場を目指すことを決断しました。
「100年存続企業」への道、IPOで築く持続可能な未来
目指すは「100年存続企業」、持続可能性を高めるためのIPO
当社が掲げるビジョンは「100年存続企業」です。当社は3つの”100”を掲げており「売上高100億円」「従業員100人」「100年存続企業」を目指しています。100年続くことそのものが目的ではなく、従業員100人が豊かな生活を送ることを第一に考えたとき、1人当たりの売上高が1億円程度必要だと考えると、自然と売上高100億円が必要となります。
このビジョンは誰に意見を聞くわけでもなく、自分一人で決めました。このビジョンを実現するために必要なプロセスがIPOでした。IPOの目的として念頭に置いたのが事業承継でした。私が退任したらカドス・コーポレーションは存続するのだろうかと思うようになりました。IPOによる目的は当社では資金調達ではありませんでした。上場することで、組織的にもガバナンスが取れ、取締役会が機能し、私ではない経営ができる人間が社長となり、社員皆が喜ぶ状況を作ることが第一の目的でした。加えて、お客様との信頼強化と未来の従業員への認知度向上もありました。
企業のライフサイクルとして、目の前のことに一生懸命になる創業期から、成長拡大期に入り、そのうち安定期に入ります。私自身は、そこから先を体験できませんが、更に再生期⇒再挑戦期が待っており、その時には、おそらく中興の祖のような、創業者ではないけれど、再び会社を拡大させる存在がいて、その繰り返しが永遠に続くのではないかと思います。そのサイクルを生み出す一つのステップがIPOだったという位置づけです。
乗り越えた難題、IPO実現までの道のり
IPOの準備は、全てが大変でした。皆にとっても初挑戦です。外部の力を借りる必要もあったので、想像以上に大変でした。組織でルールを決めることだけでなく、実際に手を動かすことも大変だったと思います。社員皆がよく頑張ってくれました。上場の準備期間が延びたことも大変だった要因の一つです。主幹事である証券会社へ相談し、最初は2年でIPOを実現することを目標にしていました。ただ、上場準備をしている中で、東京証券取引所の市場再編により基準が変更となったこともあり、上場まで3年が必要になりました。その間、コロナ禍に突入し、ロシア侵攻により資材が高騰化する等、景気・情勢が全く読めない時期となりましたが、辛抱を乗り越え、上場を果たしました。思い返すと当初の計画より2年は伸びたと思います。
管理部門の立ち上げや、CFO人材の採用は証券会社などの協力や、自分の人脈を使って整えていきました。上場準備前は管理系の部署はなく、経理が一人いたのみでしたが、現在は管理部門には14名が在籍しています。もう一つ、一般的なIPOの大きな課題は予実管理と言われています。ただ、予実管理への対応については自信がありました。建設事業単体では心許なかったのですが、不動産事業も成長していたので、両社の合併を経て事業基盤が整ったことは大きかったと思います。
上場を目指すかどうかは悩まなかったですね。社員を守らないといけないという一心でした。悩む方は、失敗したくないから悩むと思いますが、私はいけると確信に近いものがあったので、誰にも相談せず決めました。悩む方は、きっと悩む時点で何か課題を感じているのではと思います。加えて、数字に強い人でないとIPOを乗り越えるのは難しいですね。経営者独特の感覚だと思いますが、当社で言えば、上場を検討する前に、手持ち工事や物件の状況等を把握し、本当に上場可能かを数字でしっかりはじき出し、判断しました。また、当社の業界は建設業と不動産業です。世の中で、建築は絶対になくなりません。どんな状況になっても土地と施設はなくならない。急激な成長はしないかもしれませんが、人間の社会生活に必要不可欠なので、着実に仕事がある業界です。そのような業界としての強みと、当社に蓄積された経験から、上場を乗り越えられる自信はありました。
数字を制する者が経営を制す、人材育成が成長のカギ
改めて言わせてください。「経営者は数字に強くなければならない。」
当社を例に組織を分解すると、営業・設計・工事の3つの要素がありますが、全体を俯瞰した上で、数字として把握することが重要です。私も様々な企業を見てきましたが、経営者が数字に弱いと、自分達が置かれている状況を雰囲気でしか把握できないため、本当に置かれている状況を把握することができません。
もう一つは人材の育成です。私は経営において、それぞれの人材の「心」と「スキル」を観察して育成することを心掛けています。組織拡大に必要なのはチューター(指導者)の創出です。チューターになれる人材はチームワークを生み出すことができます。チームで取り組むと、一人で取り組むより、3倍も4倍も力が発揮できます。向上心を育み、スキルを伸ばし、チームを引っ張るリーダーを育成する。無理はさせたくないので、無理な仕事はやらせません。できるかどうかを聞いた上で、できると言った仕事を与えます。当社では、営業・設計・工事に分け、各分野に応じた目標を設定しており、実績を実感することが自信に繋がり、お客様のニーズを受け止め、より良い提案できるよう成長を促します。自信を持たせることが大事です。
上場による効果を実感するのはまだ先だと思いますが、それでも社員の姿勢は変わったと感じています。具体的には、業務において、コンプライアンスを意識した行動をするようになりました。ガバナンスが行き届いていると感じます。組織としての基盤がしっかりしてないと、従業員は安心して仕事に取り組めません。採用への効果もこれからですが、確実に認知度は増しています。山口県内に上場企業は決して多くないので、世間からの信頼や安心感は良くなると思います。お客様からの効果として、先月は当社の中でも案件あたり過去最高の請負金額で受注を獲得できました。上場がどこまで影響しているかは分かりませんが、少なからず上場会社としての信頼感も影響しているのではないかと思います。また、上場を経て、「自分の会社」という意識から、会社が「皆のものになった」という感覚も強く感じます。
建設業界は全国的にも人手不足です。地域に根差し、そこで雇用を生み出すことが、地域の会社ができる社会貢献ではないかと思います。現在、ビジョン実現に向けて、山陽道・福岡エリアへの展開の強化、設計・工事監督人員の採用と育成強化、カドスタウンの展開等、成長戦略を描いていますが、地域づくりや、環境配慮等、上場企業だからこそのメッセージを発信することで、上場の効果を活かしていきたいと思います。
IPOはゴールではない、経営者の役割は未来を描くこと
経営者の役割は、ただ責任を取って終わりではありません。社員がいるからこそ成り立ちます。社員が安心して仕事に打ち込める環境を作るには、会社として持続可能性を高める必要があります。経営者として避けて通れない世代交代を考えると、IPOも大きな選択肢の一つだと思います。ただ、IPOそのものは決してゴールではありません。持続可能な会社を実現するためにIPO以外に有力な手段があれば、そちらを選択すると良いと思いますが、カドスにとってはIPOが未来の成長を実現するための重要なミッションでした。
会社のトップである経営者に求められるのは、「未来を描くか描かないか」です。未来を描き、100年、200年存続することを考えるのであれば、IPOは欠かせないステップだと思いました。100年企業存続のロードマップは私の頭の中に既に存在していますが、それを後世に繋いでいくことが必要です。実際に企業を存続させるためには、時代に合わせて経営方針を見直したり、私が選択したIPOのように、社員やステークホルダーのために新たなステージに挑戦したりすることが大切なステップではないかと思います。
概要
会社名 | 株式会社カドス・コーポレーション |
代表者名 | 代表取締役会長 杉田 茂樹 代表取締役社長 工藤 博丈 |
創業年 | 1998年11月 |
資本金 | 119百万円 |
従業員数 | 99名(2024年7月31日現在) |
本社所在地 | 本社:山口県山口市小郡黄金町7-17 広島営業所:広島県広島市安佐南区八木5丁目5番16号 福山営業所:広島県福山市手城町4丁目33番27号 |
事業内容 | ・建築工事業 ・土木工事業 ・建築、土木の企画・設計及びコンサルティング ・不動産の売買、賃貸、仲介及び管理 |
HP | https://cados.jp/ |
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クレジオ・パートナーズ株式会社のご紹介代表者 :代表取締役 李 志翔
所在地 :広島市中区紙屋町1丁目1番17号 広島ミッドタウンビル3階
設立 :2018年4月
事業内容:
・M&Aに関するアドバイザリーサービス
・事業承継に関するアドバイザリーサービス
・資本政策、企業再編に関するアドバイザリーサービス 等
URL :https://cregio.jp/
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