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ハンコ不要は本当?政府見解と契約効力・行政の動き・M&Aへの影響を解説

「ハンコ不要」について政府見解を徹底解説!

政府は「押印がなくても契約は有効」との見解を示し、従来のハンコ文化に大きな変化が訪れています。

コロナ禍でテレワークが進む中、行政や企業で押印不要の流れが広がり、契約実務やM&A・事業承継の手続きにも影響が及んでいます。

本記事では、政府が公表した押印不要の見解や行政の対応、そして実務における注意点を解説します。

ハンコ不要(押印不要)の議論の経緯

「押印不要」の議論の根拠は、内閣府の「規制改革推進会議」における「第10回 デジタルガバメント ワーキング・グループ」において、経済4団体(日本経済団体連合会、経済同友会、日本商工会議所、新経済連盟)からの要望に対し、内閣府・法務省・経済産業省が共同で「押印についてのQ&A」という文書で見解を示した形になります。

政府が示した『押印不要Q&A』の内容と契約効力の解釈

契約は「意思の合致」で成立するものであり、押印がなくても「契約の効力に影響力は生じない」とし、特段の定めがない限り、押印がなくても契約の効力に影響は生じないとの見解を示しています。

その上で、民事裁判における「押印」の効果を「文書の真正な成立が推定される」=「証明の負担が軽減される」ことであると解釈を示しています。

また、「文書の真正な成立」は、本人による押印の有無のみではなく、証拠全般に照らし、裁判所の自由心証により判断されるとしており、押印により必ずしも「文書の真正な成立」が成り立つ訳ではなく、その効果は限定的としています。

その上で、「文書の成立の真正が裁判上争われた場合」における、いわゆる「二段の推定」における解釈を示し、推定である以上、他人が印章を利用した等の反論があれば、その推定は破られうることと、実印は印鑑証明書により印鑑の作成名義人と印章の証明がある程度容易だが、認印の場合は難しいとしています。

※「二段の推定」

  1.  文書の作成名義人の印影が、当該名義人の印章によって顕出されたものであるときは、反証のない限り、その印影は本人の意思に基づいて顕出されたものと、事実上推定される。
  2.  さらに、上記1.の推定によって、「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」と定める民事訴訟法第228条4項の要件を充足し、文書全体の成立の真正が法律上推定される。

加えて「文書の成立の真正を証明する手段」について、①継続的な取引関係がある場合、②新規に取引関係がある場合に分け、例示列挙しています。①では、「取引先とのメールのメールアドレス・本文及び日時等、送受信記録の保存」、

②では、「契約締結前段階での本人確認情報の保存」、「本人確認情報の入手過程(郵送受付やメールでの PDF 送付)の記録・保存」「文書や契約の成立過程(メールや SNS 上のやり取り)の保存」が挙げられています。上記に加えて、③ 電子署名や電子認証サービスの活用も推奨されています。

また、文中において、「テレワーク推進の観点からは、必ずしも本人による押印を得ることにこだわらず、不要な押印を省略したり、「重要な文書だからハンコが必要」と考える場合であっても押印以外の手段で代替したりすることが有意義」と言及されており、押印以外の手段を推奨する姿勢が見て取れます。

行政手続きにおけるハンコ廃止の現状と今後の方向性

内閣府規制改革推進室による「「行政手続における書面主義、押印原則、対面主義の見直しについて(再検討依頼)」の結果概要」の一部を抜粋すると、全省庁横断的な取組について、以下の記載があります。

  • 見積書、請求書、領収書等については、押印不要とするとともに、e メール等での書類提出を認める。
  • 見積書について、押印が困難な正当な理由及び提出書類が正規な契約相手方からの発行であることの確認をもって押印の省略・原本の後日提出を認める。
  • 立会検査等について、可能な限りオンラインでの対応を検討する。
  • 契約書については、会計法の規定に基づき記名押印が必要。
  • 契約書等、会計法令に規定があるものについては、所管省庁の判断に従う。
  • 法令に根拠がないが押印を求めているものについては、慣習的なものであるが、真正性担保が必要であり、会計手続の統一的運用の観点から、全省庁統一的な対応が必要。
  • 契約書については、会計法令上、発注者・受注者双方の押印が求められており、押印をしないことより、訴訟等が発生する恐れも見込まれるため、押印不要とすることは適切ではないと思われるが、会計手続の統一的運用の観点からも全省庁統一的な判断・対応が必要と考える。

上記のとおり、「見積書、請求書、領収書等」については、押印不要としつつ、契約書については会計法に基づき記名押印が必要という方向性であることが見て取れます。

M&A・事業承継における影響

M&Aや事業承継の実務では、依然として基本合意書や最終契約書など押印を伴う文書が存在します。

慣例も踏まえて、どこまで「押印」がなくなるかは難しいところではありますが、上記解釈を受け、「押印」そのものの行為ではなく、将来的なトラブルリスクに備えるためには、その真正性を担保するための取組(経緯やメール等のやり取りの保存等)も重要になると感じています。

加えて、行政のスタンスを踏襲するのであれば、少なくとも「契約」に関する行為については、双方の意思を形にして残しておく意味でも、押印した文書を残しておく方向性になることが予測されます。

まとめ|押印不要の時代に企業が取るべき姿勢

政府は「押印がなくても契約は有効」との見解を示しましたが、将来的な紛争リスクを避けるためには、契約交渉の経緯記録や電子署名の活用といった真正性を担保する取り組みが重要です。行政でも契約書の押印は一部残されており、完全に「ハンコ不要」とは言い切れません。

コロナ禍を契機に進んだ押印廃止の流れは、事務効率化にとどまらず「新しいビジネス様式」への転換を促しています。自社の契約業務やM&A・事業承継にどう取り入れるかを見極め、変化をリスクではなくチャンスとして活かすことが、これからの企業成長に求められる姿勢です。

クレジオ・パートナーズ株式会社広島を拠点に、中国・四国地方を中心とした地域企業のM&A・事業承継を専門に支援しています。資本政策や企業再編のアドバイザリーにも強みを持ち、地域金融機関や専門家と連携しながら、中小企業の持続的な成長をサポートしてきました。補助金や制度活用の知見を活かし、経営者に寄り添った実務的な支援を提供しています。
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