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アーンアウトとは?M&Aにおけるメリット・デメリットをまとめ


アーンアウトとは、M&Aにおいて買手企業が売手企業を買収する際に、売手企業が業績指標等の一定の目標を達成することを条件に、買手企業が売手企業に追加的に対価を支払う取り決めを指します。こちらのコラムではアーンアウトの概要や、M&Aにおける効力、売手・買手双方のメリット・デメリットや留意すべきポイントについて整理しました。

アーンアウトとは?買手・売手それぞれのメリット・デメリット

アーンアウトとは、M&Aにおける「対価」について、買手企業と売手企業が調整する方法の一つです。

具体的には、買手企業は、対価の一部をM&A実行時にまとめて支払い、M&A実行から数年後の期間において、売手企業側が設定された目標(売上、営業利益等)を達成した場合、業績に応じて残りの対価や追加的な利益に応じた報酬を支払うことを最終契約書に盛り込み、合意することとなります。

結果として、買手企業としてはM&A実行時のタイミングと、売手企業が一定の目標を達成したタイミングに分けて、分割で対価を支払うこととなる一方、売手企業の目標達成率に応じて報酬を支払う義務が発生します。

最終契約書にアーンアウト条項を盛り込むことで効力を発生しますが、アーンアウト条項には「期間」や「達成すべき目標」等を盛り込むこととなります。期間については、通常1~3年であり、達成すべき目標については、「売上」「粗利」「営業利益」「経常利益」等の財務的な業績に関する指標だけでなく、「知的財産」等の無形資産に関する内容を盛り込むことも可能です。どのような内容とするかは、買手・売手の双方で協議した上で決定します。

買手企業にとってのアーンアウトのメリット・デメリット

メリット

買手企業がアーンアウトを盛り込むことで得られるメリットの一つは、M&Aの対価を一度に支払うのではなく、一部を目標達成に応じて支払うこととなるため、M&Aの初期費用を抑えられる点にあります。

また、達成度合いに応じて支払うことにすることで、M&A後の売手企業の成長・業績が実現するかどうか疑わしい場合、費用を抑えることでリスクヘッジを行う意味合いもあります。

加えて、売手企業の株式オーナーが、M&A後も引き続き経営者として残任する場合、目標達成による対価の追加的な支払いが、売手企業にとってのインセンティブとして働くため、事業に取り組むモチベーション向上に繋がる可能性もあります。

デメリット

買手がアーンアウトを盛り込む際のデメリットは、案件が成立しないリスクが高まることです。売手企業の株式オーナーが引退を考えている場合や、目標達成に対して自信が持てない場合、ともすればアーンアウトが「買手企業優位の条件」として捉えられてしまうため、アーンアウト条項を盛り込む前提で交渉を進めることで、売手企業オーナーから断られてしまう可能性があります。そのため、単純に売手企業の株式オーナーの意向を充分踏まえた上で、アーンアウトを提案する必要があります。そういった条件交渉をする中で、交渉の時間が長引いてしまう可能性が生じることもデメリットの一つです。

売手企業にとってのアーンアウトのメリット・デメリット

メリット

アーンアウト条項が盛り込まれた場合、売手企業の株式オーナーは引き続き経営陣に残る場合が多く、その場合のメリットは、目標達成度合いに応じて、通常のM&Aの株価以上の対価を獲得できる可能性があることです。そのようなインセンティブがあることで、事業に取り組むモチベーションの向上にも繋がります。

デメリット

メリットの裏返しになりますが、デメリットとしては、仮に設定した目標が達成できなかった場合、アーンアウト条項を盛り込まない場合に得られる対価と比較して、得られる対価が減少してしまう可能性があります。そのため、目標設定の期間や項目については、実現可能性も含め、しっかりと検討することが必要です。



アーンアウトの活用事例

日本におけるアーンアウト条項が盛り込まれた事例はあまり多くありませんが、その一例をご紹介します。

マネックスグループによるコインチェック買収(2018年4月)

マネックスグループ(東京都)がコインチェック(東京都)を買収した際に、アーンアウト条項が盛り込まれています。当時、コインチェックは不正アクセスによる仮想通貨の不正送金で関東財務局から業務改善命令が出されていました。そのため、株価を36億円と評価しつつも、追加の訴訟リスクに備える形で、以下のとおり、2021年3月期までの3年間の純利益合計額に対して1/2を上限として追加で取得費用を支払うこととし、コインチェック買収のリスクを抑える形になりました。

コインチェックの現所有者との間で条件付対価に関する合意がなされています。今後3事業年度の当期純利益の合計額の二分の一を上限とし、一定の事業上のリスクを控除して算出される金額が追加で発生する可能性があります。

株式取得によるコインチェック株式会社の完全子会社化に関するお知らせ


コロプラによるMAGES.CHIYOMARU STUDIO子会社)の買収(2020年3月)

ゲーム開発を手掛けるコロプラ(東京都)が、CHIYOMARU STUDIO(東京都)の子会社であるMAGES.(東京都)を買収した際に、アーンアウト条項が盛り込まれています。株式価値を15億円(アドバイザリー費用除く)と評価しつつ、業績の達成度合いに応じて、5億円又は10億円の条件付追加対価が発生する可能性について公表しています。

当該取得価額に加え、業績の達成度合い等に応じて 500 百万円または1,000 百万円の条件付取得対価(アーンアウト対価)が発生する場合があります。

株式会社 MAGES.の株式の取得(完全子会社化)に関するお知らせ



ENECHANGEによる新電力コムの買収(2022年7月)

エネルギーベンチャーであるENECHANGE(東京都)が、電力会社切替による電気料金削減サポートサービスを展開する新電力コム(東京都)を買収した際に、株式価値を1億円(アドバイザリー費用除く)と評価しつつ、業績の達成割合に応じて、0~1億円の範囲内で追加的に対価を支払うこととしています。公表資料においては、買手であるENECHANGEのリスク軽減と、売手である新電力コムのインセンティブ効果を目的にアーンアウトを導入したことが明言されています。

当該取得対価に加えて、業績の達成割合に応じて条件付対価(以下「アーンアウト対価」といいます)を株式取得の相手先に支払う合意がなされています。アーンアウト対価は株式取得の相手方に追加的に支払われる対価であり、株式取得後新電力コム社の売上高が一定の金額を超えた場合、0 百万円~106 百万円の範囲内で支払われます。アーンアウト対価の導入により、本件買収に伴う当社のリスクを軽減するとともに、新電力コム側に対するインセンティブ効果が得られることになります。

新電力コム株式会社の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ



Chatworkによるミナジンの買収(2022年12月)

ビジネスチャット「Chatwork」を提供するChatwork(大阪府)は、人事労務領域で複数事業を展開するミナジン(大阪府)を買収しました。M&A時の株式価値を6億円(アドバイザリー費用除く)と評価しつつ、業績連動型のアーンアウト方式を採用したとして、株式価値の最大値を10億円に設定し、3年間の業績達成度合いに応じて、追加的に差分の4億円を支払う取り決めとなっています。

業績連動型のアーンアウト方式を採用しており、株式会社ミナジン社の今後3年間の業績達成度合に応じ
て総額最大1,000百万円が支払われる可能性があります。

株式会社ミナジンの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ



アーンアウトにおいて留意する点

アーンアウトとは、買手企業と売手企業間において、株式取得の対価の一部を業績等の目標を設定し、その達成度合いに応じて、残価又は追加的な対価を支払うことに合意する仕組みであり、買手企業としては初期的な費用やリスクヘッジの効果がある一方、売手にとっては設定された目標の達成度合いに応じて、受け取る対価が変動する可能性があり、買手優位の条件となってしまうリスクを孕んでいます。

アーンアウト条項は、一般的にベンチャー企業のM&A等、将来の成長において未確定要素が多いケースに導入される場合が多いです。アーンアウトを上手く活用するポイントは、買手企業・売手企業共に、共通したビジョンを持ち、その実現のための目標を設定し、両社共にWin-Winの関係を築けるかが一つのポイントです。コインチェックの事例のように、訴訟という大きなリスクが予見されるような特殊な例以外においては、買手企業の都合だけでなく、売手企業の株式オーナーにとっても、共にグループの成長を目指し、設定する目標に合意できるかが重要となります。


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