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実績 PERFORMANCE

CASE 25

社員と家族の成長と幸せを実現するための一歩、次世代に繋ぐ資本提携

愛媛県今治市に本社、兵庫県神戸市に支社を置き、船舶分野におけるエンジニアリング力を活かし、船舶・陸上機器の企画・製造を展開し、事業を拡大してきたコンヒラ。「地域の産業や事業を元気にしたい」という想いをもとに、四国の4つの地域金融機関の連携から生まれた四国アライアンスキャピタル。社員とその家族の成長と幸せの実現を目指し、会社を次のステージを進めるため、それぞれの想いを繋ぎ、紡ぐ資本提携について、提携に至る経緯や想いを伺った。

  • 譲渡企業

    株式会社コンヒラ

    愛媛県 / 代表取締役社長 山本 太郎

    業種 舶用・陸上機器等企画・製造・販売等
    譲渡理由 事業成長
  • 譲受企業

    四国アライアンスキャピタル株式会社

    愛媛県 / 代表取締役社長 筒井 健一

    業種 投資業務等
    譲受理由 成長支援・事業承継

はじめに、譲渡側であるコンヒラ 山本様にお伺いします。
コンヒラの会社概要について教えてください。

山本

 コンヒラは、私の父が、長年タンカー船のエンジニアとして培ったスキル・ノウハウを活かし1973年に愛媛県今治市で創業しました。船乗りエンジニアの経験を活かし、今治地域の船主・造船所様に可愛がって頂きながら成長しました。
 現在の主要事業は、舶用装置の企画・開発・設計・製造・販売・アフターサービス、工場排水の減容化装置、および周辺装置の企画・開発・設計・製造・販売・アフターサービス、船舶機器の代理店業、主に中国、ベトナムからの輸入代理貿易事業です。舶用市場の成長の仕組みを陸上市場に転用することで領域を広げ、2024年10月期決算で、売上高約30億円の規模に至りました。
 会社としての一番の強みは、「失敗を恐れず可能性にチャレンジする風土・文化」です。私が社長に就任した後、管理会計・マネジメントの領域に特に注力してきました。従来のトップダウンではなく、営業現場とエンジニアが起点となるボトムアップ式の意思決定が可能な組織設計を実現し、部門長がその部門の社長として意思決定できる制度を整えてきました。
 近年では、カーボンニュートラルの実現を目指した温室効果ガス削減について、世界的な要請があり、自動車産業だけでなく船舶産業にも影響がきています。そういった新エネルギー対応に向けた装置マーケットの拡大を受けて、エンドユーザーとの関係が深い当社においても、たくさんの開発ニーズを頂いています。

M&Aを考えたきっかけや理由について教えてください。

山本

 コンヒラが次のステージへ成長するための大きな課題は「設計士の確保」「設計士集団の組織化」でした。拡大する新エネルギー市場の追い風を受け、船舶・陸上両方のお客様から装置開発のご依頼をたくさん頂く中、設計士不足が理由でお断りせざるを得ない状態が続きました。
 設計士については、絶対数が少ないこともさることながら、採用・育成まで相当時間が掛かります。そのため、市場が追い風のうちに組織を強化する必要がありました。第一歩として、優秀なエンジニアほど評価制度を質問する傾向があったので、人事評価制度の整備から取り組みました。最初はエンジニアの視点が欠けた制度を導入してしまい、意図に反して退職者が出た時もあります。評価制度をエンジニア目線にカスタマイズしつつ、「働きやすい職場」を実現するため、有給取得の推奨や残業削減の取組を行い、「働きがいのある職場」を実現するため、組織のエンゲージメントを可視化できる"Wevox(ウィボックス)"というツールを導入する等、様々な施策を通じて組織化を進めました。
 この時の経験がなければ、M&Aを手段として考えなかったかもしれません。受注残と会社のキャッシュが潤沢なうちに、設計士の組織化を完了しなければ、将来の不況期に淘汰される、逆にその体制ができれば次の不況期でも成長し、次のステージに進めることができる。このように考え、当社が買手として設計士を抱えている会社との資本提携も検討した時期もありました(当時のインタビュー記事はこちら)。そのうちに、当社より5倍以上の規模がある会社のグループに参画した方が、採用力や人的資源が強化されるのではと考えるようになり、当社が売手として資本提携を有力な選択肢の一つとしました。

山本

 もう一つ大きな理由は、経営者としての私自身です。設計士の組織化が完了したとしても、社長の役割、即ち、私の器が組織の成長に大きな影響を与える、組織はトップの私の器以上に大きくならないと感じたことです。特に私のキャラクターだと今後成長させることに無理があるとも感じていました。いわゆる「おやじ」と呼ばれるようなキャラクターというか、次の成長へのドライブをかけるには、不確かな未来に向かう必要があり、一緒にいて場を盛り上げ、一緒に働くことを楽しいと感じさせる、そういった能力に長けた人物の方がこれからのコンヒラの経営者には良いと思っていました。
 私は、どちらかというとデータに基づいた分析と仕組化、組織化が得意です。笑い話のようですが、私自身のプロファイリング分析では「共感力が極端に低い、データ好き」という結果が出ました。目の前の人の表情ではなく、データによってその人の状況・心情を知るという、少し遠回りなアプローチになっていました。そのため、組織化がある程度できあがったコンヒラが次のステージに進むために最適なデータだけではなく、パッション(情熱)で組織を巻き込める気持ちのわかる経営者に交代すべきという気持ちがありました。

M&Aが進んでいく様子や、
会社の引き受け先を選ばれた理由を教えてください。

山本

 コンヒラの特徴的な企業文化の一つが「経営が常にオープン」であることです。財務数値は常に社内に公開しています。今回の資本提携についても、構想段階から社内に伝えていました。2019年にはIPO(上場)の初期検討を、2020年にはコンヒラが設計士集団をかかえた会社を買収させていただくことを検討しつつ、社内にも常にそれぞれの取組の目的を開示していました。2023年12月末には、買収する立場ではなく、我々が資本を開く形で資本提携を行うことを選択肢にすることを考え始め、2024年1月には社内に資本提携の可能性を模索することを伝えていました。
 M&Aを進める上で、特に懸念した点は、一つ目は、当社のカルチャーや価値観がマッチする資本提携先が見つかるかということでした。コンヒラは創業者の考えとして、「失敗を恐れず挑戦し、挑戦による失敗は会社がカバーする」という、意思決定を現場に任せる風土が根強く残っていました。組織化を進める上で、この文化は障害かもしれないと考えた時もありましたが、現在では組織を支える強みになっています。いわゆるトップダウンではなく、ボトムアップの企業文化が浸透していたので、資本提携により、これが失われてしまうと本末転倒になってしまいます。
 もう一つの懸念は、社員がどう感じるかです。交渉の途中経過は、逐一社員に共有していました。その間、質問もなかったので、本当に理解・納得してくれているのだろうか、実行に移すことで社内に混乱(ハレーション)が起きるのではと、不安に感じていました。後で聞くと、ザワザワはしていたらしいのですが、当社はこれまでも次々に新しいチャレンジに取り組んでいたので、良い意味で慣れ症になり、今回もその一つと捉えていたようです。交渉が進むにつれて、副社長からは「山本さんにとっての資本提携のメリットは何か?」と質問が来たことは覚えています。
 最後の懸念は、創業者である父です。父とは、最初の段階から話し合い、多くの選択肢の中から資本提携が最も良い選択肢であるという合意のもと進めていました。ただ、当然、会社への思い入れもありますから、最後になって急に「反対」と気持ちが変わる可能性もありうると常に思っていました。途中経過を丁寧に報告しながら進めたので、最後まで反対されませんでした。

山本

 引き受け先を選ぶ際のポイントは、コンヒラのカルチャー・価値観を引き継いでくれるか、社員とその家族を幸せにしようと考えているかの2点でした。
 初めは事業会社にも打診しました。関心を示したのが大手ばかりだったということもあり、極端な言い方をすると、社員が総入れ替えになるかもしれないと危機感を感じました。大手には、マシンのように働く戦士のような人材がたくさんいます。コンヒラの事業は残るが、社員は残らないのではないか、そうなると社員を幸せにするための資本提携ではなく、私だけが幸せになる結果になってしまうことを恐れました。
 そのため、ファンドという選択肢も考えるようになりました。今回の引受先となる四国アライアンスキャピタルの第一印象は、「若手が活躍している」「意思決定を自分の言葉でハッキリしている」でした。本来であれば、競合となる四国内の地銀メンバーが集まっているのに、チームとして一体感が生まれる関係性ができていることも特徴的でした。
 ファンドとしての実績もあり、ハンズオン(出資者が、自ら社長や社外取締役などを投資先に派遣し、一緒に経営を行うスタイル)による支援も現場慣れしていました。これまで他の出資先で行ってきたハンズオン経験で良かった点を質問すると、即答で「胆力がつきました」と笑顔で回答されました。「頭でっかちのコンサルで、口だけ出すのではなく、本当にコンヒラのメンバーと同じ目線を持ち、現場で一緒に組織を成長させ、社員の成長と幸福の実現も実践して頂ける」と感じました。

酒井

 確かに、資本提携の候補に挙がった他の事業会社様から「船舶の事業だけが欲しい」「当社の仕事だけ請けてくれたらいい」という希望もあり、これはコンヒラ様が希望する資本提携の目的と違うなと議論したことを覚えています。四国アライアンスキャピタルさんは、スピード感も早く、素早く対応して頂いたのも好印象でした。

山本

 四国アライアンスキャピタルとの資本提携で見込んだシナジーとしては、四国の地銀が持つネットワークを活かして、西日本を中心に追加的な買収(ロールアップ)による規模拡大に取り組み、コンヒラを次の成長ステージにあげていって欲しいと思っています。
 いわゆる「ファンド」というと、色んなイメージが付きまといます。私自身、ファンドが投資回収を主な目的とするのであれば、成長させた後の出口は当然「一番高く買うところ」であり、社員と取引先に負担がかかるのではと懸念がありました。
 協議において、四国アライアンスキャピタルからは出口も含めて、投資方針をしっかりと説明して頂きました。既存企業と社員、取引先様も含めて、将来の出口として、どこと結婚すればよいかを一緒に考え、お見合い相手を探す段階から意見を出し合い、進めて頂ける方針だと理解しました。現在は、キャピタルゲインの追求のみが目的だという懸念は払しょくされました。恐らくですが、社員も気づき始めていると思います。現在も、様々なキーマンの面接は必ずコンヒラのキーマンにも同席を求め、一緒に選定を進めてくれています。将来的な出口を模索する際も、当社の社員の意見を吸い上げながら、また、時には同席を求めながら進めて頂けると考えています。

M&Aを終えた感想や今後の方向性について教えてください。

山本

 私が退いた後の経営体制を考えると、今でも「この判断はよかったのか」と不安になることもあります。ただ、考えに考えた上で、「皆が幸せになる選択」を実現したことは、自分なりにやりきったという誇りは持っています。
 コンヒラの経営理念(ミッション)の第1条に「全社員とその家族の物心両面の成長と幸福を追求します」と掲げています。私自身が考える社員にとっての「成長」とは、より高い報酬で仕事を依頼され、何かあったら相談したいと思われるような世の中で求められる人材になることです。社員の「幸福」とは、有給消化・残業・福利厚生・給与等からなる働きやすさ、と職場環境・人間関係・成長・やりがい等からなる働きがいの両方が実現することだと思っています。今回の資本提携を通じて、理念として掲げたコンヒラの社員とその家族、および取引先パートナーが更に成長と幸福を実現するための体制が、いよいよ動き出したという自信と安心感も持っています。

山本

 今回の資本提携を終えた周囲の反応として、取引先では大きく二つに別れました。一つは「オーナー企業として、経営方針が安定している方が好ましい。創業家がオーナーから外れることで方針がおかしくならないか」というご不安です。これは、実際に新経営陣にプロ経営者が加わり、プロチームとして活躍するまで続くと思います。ただ、当社は部門が自走しているため、カバーできると思っています。取引先各位から、1年後には「良かったね」と言って頂いていると確信しています。もう一つの反応は、「所有(株主)と経営(執行)の分離は、ガバナンスを効かせながら、実力者がマネジメント層に就任することで会社は更に強く大きくなるので歓迎だ」と言って頂ける取引先様もいらっしゃいました。一部、最後に「うらやましいですね」とボソって言われる方もいらっしゃいました。経営者の皆様はとても大きなプレッシャーの下、日々経営に一人取り組まれている方が圧倒的多数であり、かつ事業承継についても同じ悩みを持っているんだなと気づかされました。
 社内における反応は、先ずは「人事がどうなるのか」「ノルマに追いかけられる状況になるのか」「ホワイト企業が、ブラック企業にならないか」等、組織がどう変わるのかについて、次々と不安が浮かんできたと思います。こちらについては、四国アライアンスキャピタルからハンズオンで来て頂いた若い新取締役2名(36歳と35歳 ※2025年4月現在)が丁寧に社員との関係性やインタビューを進めており、かつ社内の20代の若手から見てもちょうど一回り上の世代かつ、50代以上から見ても経験値から話しやすい年齢なので、社内の雰囲気が徐々に良くなり、不安が期待に変わってきているという感触を得ています。
 次世代の経営陣として、四国アライアンスキャピタルを通じて、外部招聘によりプロ経営者の選定も進んでいます。面接には、私と当社のトップマネージメントメンバーも同席を求められ、意思決定の審議に参加しています。今まで、私は「創業家の息子だから社長になった」という状態でしたが、「自分たちの組織を成長させることができるトップを、自分たちが参加して意見を出す」という全く逆転したプロセスで社長を決められたことを嬉しく思います。
 加えて、経営課題だった設計士の採用は、募集していたルートで、1名採用が決定しました。追加で募集していますが、面接プロセスでも、今回の資本提携についても丁寧に説明し、新取締役も同席した上で、資本提携の効果としての、組織力強化や当社の将来像を伝えることで、応募頂く方にとっても納得度の高い状態で、ご入社頂けると感じています。
 私が社長の代は、基本的に単年度の短期目標を達成することが主眼でした。今後は、新経営層の元、中長期計画を策定し、規模の桁が変わるくらいの組織への成長と、全社員の更なる成長と幸福の実現を目指して欲しいと思います。

山本

 私の家族の反応として、妻はとても喜んでいましたね。ずっと仕事にかかりきりの生活だったので、前もって予定立て旅行に行くことが難しい状況でした。子供たちも、友人はInstagramにキラキラと映える写真が取れる宿に旅行しているのに、自分達は私が仕事ばかりで、行くギリギリ直前に予約した野暮ったい宿しか行けないと嘆いていました。今まで仕事でほったらかしになってきた分、妻との時間、そして子供たちの教育環境の整備に時間を割きたいと考えています。
 父は正直なところ、さみしさは感じていたと思いますが、「コンヒラという名前は残して欲しい。あとは何も言わない。」と見守ってくれました。私にかけてくれた言葉として、「体力があるうちに、家族サービスのため、あちこち旅行に行け」と言われました。父はそういうことはしっかりやっていたのですが、自分はできていなかったので、心配していたんだと思います。

次に、四国アライアンスキャピタル長谷川様、向居様にお伺いします。
貴社の概要やM&Aに関する取組について教えてください。

長谷川

 四国アライアンスキャピタルは、2018年に「四国アライアンス」という、四国の地銀4行(阿波銀行、百十四銀行、伊予銀行、四国銀行)による包括的な提携(アライアンス)に基づき設立されたファンド運営会社です。「地域の産業や事業を元気にしたい」という強い想いを形にし、事業承継・成長支援を中心に、事業者様が直面する様々な課題解決に向けて、ファンドを通して資本と経営の両面から支援しています。
 ミッションとしては、人口減少・少子高齢化等により、地域の経済・経営環境は厳しさを増し、事業者様にとって後継者不在や人手不足が深刻な問題となる中、四国アライアンス4行の経営資源を活用し、投資や事業支援を通じて地場産業や地域社会の持続的な成長と発展に貢献することを目指しています。
 ファンドとしての基本方針は、参画する4行が基盤を有する地域の中小・中堅企業に対し、事業承継や事業成長支援を目的に、経営陣や社員の方々と十分にコミュニケーションを取りながら、企業文化を維持しつつ、ハンズオンで経営支援を行うことです。4行が各々1個の議決権を持ち、投資に関する意思決定は全会一致を原則としています。これにより、健全な議論を通じた意思決定がなされる点が強みです。
 既に投資実績は、24件にのぼり、うち11件が出口に至りました(2025年1月30日時点)。出口としても事業会社への譲渡だけでなく、従業員への引き継ぎ(MBO)等、様々です。我々の役割について、よく「橋渡し役」という言葉でお伝えしています。一般的なファンドの場合、買収した会社をなるべく高く売るキャピタルゲインが主な目的ですが、我々の場合、利益だけではなく、地域金融機関のチャレンジとして、3~5年の投資期間の中で、いかに地域の事業承継の課題を解決し、同じように企業文化・従業員を大切に考えてくれる先へ、バトンタッチをするかが重要となります。

向居

 現在、四国内でも各金融機関が独自の自行ファンドを立ち上げてます。地域企業にはいずれもメインバンクというものが存在しますが、我々は4行連携のため、四国内であればメインバンクに縛られません。いい意味で色がないので、地域金融機関がカバーしきれていないごニーズに対応することができます。
 また、4行の人材育成と組織を超えた連携の場でもあるので、30代半ばの脂のった世代が集まり、競争ではなく、共創を意識し、連携できているところが強みです。

山本

 これまでのやり取りを通じて、四国アライアンスキャピタルは、現場で意思決定できる組織体制だと分かりました。いちいち本部に稟議をあげて、決定を待つようなことはしません。その点は、現場主義を大切にするコンヒラと似ているので、カルチャーとしてマッチするなと感じています。

今回のM&Aについて、きっかけや交渉の様子を教えてください。

長谷川

 最初にクレジオ・パートナーズからご紹介頂いた時、非常にオープンだという印象を受けました。通常、ご紹介頂き、トップ面談に至るまでには、慎重に検討・調整を重ねるオーナー様が多いと感じています。コンヒラさんの場合、我々が面談を希望したその日中に調整し、2日後にはお会いできるというスピード感でした。改めて振り返ると、コンヒラが日頃からボトムアップ式の組織体制を築いているからこその柔軟な対応だったのではと感じました。
 船舶業界は環境変化の影響を受けやすい業界です。コンヒラさんは祖業である船舶部門に加えて、陸上部門と貿易部門という3つの事業の柱を持ち、事業の安定性と成長性を兼ね備えている点に魅力を感じました。さらに、瀬戸内圏内にとって船舶業界は地元の経済や雇用を支える重要な産業です。そうした業界を支える同社の事業承継や、従業員が主体的に事業運営を行う企業文化の維持・発展に貢献することは、銀行系ファンドである我々の重要な使命であり、意義のある取組と判断しました。協議を進める中で、部門間のコミュニケーションを活性化できれば、更なる伸び代があると感じ、当社としてお役に立てる余地があると考えました。

向居

 私の第一印象は、財務内容が良く、社長のご年齢が若いのに、なぜこのタイミングで事業承継を検討することになったのかを疑問に思いました。率直に「何か理由があるのでは」と疑ってしまいました。
 会社としての評価は、財務内容が良好であり、事業課題も明確化しているので、伸び代が大きいと感じました。従業員50名という規模なので、地域の雇用維持という意味でも大切にすべき存在です。
 資本提携を目指す理由をお伺いしたところ、経営体制の変更により、過去退職した優秀な設計士が戻ってくるのではという仮説をご説明頂き、当社によるサポートを通じて、人事部門の強化による採用の加速や、新たな販路開拓の可能性も感じました。山本さんの想いや背景をお聞きするうちに、私の最初の疑問も晴れていきました。
会社を評価する際、事業だけでなく、経営者が大切であると持論を持っています。そのため、ここまで組織化を進めることができた経営者としての山本さんにも、とても魅力を感じました。一緒に経営をやっていきたいとオファーさせて頂いたことも覚えています。
 当社が資本提携という形で経営に参画し、「内部だけど外部」のような異質な存在として組織に介入すれば、より組織が活性化されるという期待もありました。設計士の採用も、純粋にマンパワーが足りていないことが要因の一つでもあり、我々がサポートできると考えました。

長谷川

 本提携を通じて、長谷川・向居の2名が社外取締役として関与します。外部の視点を活かし、経営や人事等に深く関与しつつ、四国4行のリソースを活用しながら企業価値向上に努めていく考えです。さらに、コンヒラの一員として身体を動かしながら様々な支援を行っていきます。

向居

 具体的な計画としては、1年目に経営者採用、設計士採用を行い、開発力と営業力を強化し、新経営者とチームリーダと協議しながら2年目以降に新エネルギーに対応する製品開発に注力、3~5年後の事業成長に向けて種まきを行い、10年先もコンヒラが持続的に成長できるビジネスモデルへ再構築していきます。人事面のサポートでは、別の投資先が伊予銀行のグループ会社である、いよぎん地域経済研究センター(IRC)のサポートで成長した実績があります。企業のデジタル化の推進についても、各行で力を入れているところです。こういったリソースを活用していく予定です。

山本様にお伺いします。
クレジオ・パートナーズを利用した感想を教えてください。

山本


 今回の資本提携を検討するため、合計14社のM&A会社と面談しました。インターネットで検索して面談を申し込むこともあれば、銀行にも相談しました。私宛に来ていたダイレクトメール経由でも面談を依頼しました。各社の提案を聞くことで、全体感をつかみたいという気持ちもありました。実際にM&A会社の方と会ってみた率直な感想は「早く終わらせたいという意図が見え隠れする」です。M&Aそのものが成約数を重要視するビジネスモデルなので回転率を上げて、少しでも多くのインセンティブを得ることがモチベーションになるのであれば、仕方ないのかもしれません。
 クレジオ・パートナーズとの出会いは、知り合いの上場を成し遂げた経営者からのご紹介でした。当時、コンヒラ自身が事業成長のためにIPOという選択肢を考えていたことから、クレジオに相談してみたらどうかと提案され、当社のIPOの可能性を分析・検討して頂きました。本格的にM&Aを検討する、ちょうどよいタイミングで、クローズドの組織に関する勉強会に誘っていただいたことが、クレジオさんからも資本提携を提案してもらうきっかけでした。

山本

 M&A支援には、売手・買手の間に立つ「仲介」という方法と、売手・買手のいずれかの型に立つ「FA(ファイナンシャル・アドバイザリー)」という方法があります。仲介の場合、双方から報酬が入り、FAの場合、片側からのみ報酬が入る仕組みです。一般的なM&A会社は、報酬を両取りできる仲介をおススメしがちです。
 本音を言うと、クレジオの提案を受ける前から、様々なM&A会社の面談を経て、自分の中では、仲介ではなくFAでの支援を選択すべきという結論は出ていました。仲介だと成約そのものが目的化しやすいので、当社の立場に立って、社員の将来や事業の成長を考えることの優先順位が下がってしまいます。
 クレジオは初回面談の時から、仲介とFAの両方について説明し、「コンヒラはFAで進めるべきだ」と提案してくれました。クレジオの利益が減ることについても説明があり、それを度外視してでも貴社の側に立ちますと言ってくれました。着手金なしでいいと言ってくれたのも大きかったです。成約しなければ報酬は発生しないということになりますが、そのリスクを取ってくれると言ってくれました。最近問題になっている、とにかく案件を終わらせてしまおうとする考えではなく、時間がかかっても丁寧に進め、顧客が納得してくれるかを第一に考えてくれる点は嬉しかったです。生き馬の目を抜くような集団ではないと感じました。営業スタイルも、他社はどんな手段を使っても契約を取ろうというガツガツしている一方で、クレジオは「もしかして当社のことを忘れているのでは?」と思うほど、控えめな対応でした。他のM&A会社とは明確に立ち位置が異なると感じました。

山本

 コンヒラとして今回のM&Aは決してゴールではなく、目標への手段であり、通過点です。クレジオへの期待として、引き続き関係性を継続しつつ、私自身の経験がクレジオ・パートナーズのネットワーク、はたまた四国アライアンスキャピタルの取組の中で、貢献できることがあれば力になりたいと考えています。

四国アライアンスキャピタル様にお伺いします。
クレジオ・パートナーズの感想を教えてください。

向居

 過去案件をご紹介して頂いた実績もあり、他の会社とは少し違うと聞いていました。今回担当して頂いた、眞崎様、山本(クレジオ)様、酒井様の間で情報共有がしっかりできている点は驚きました。交渉窓口が変わっても、一貫して話が通じており、属人化せず組織で対応されている点に安心感がありました。また、時間の融通が利き、緊急対応にも柔軟に応じて頂いた点は、タイトなスケジュールだったので助かりました。
 振り返って思うところは、案件をご紹介頂いたタイミングで、直接、貴社と対面でお会いしておけばよかったと反省しています。一度、対面でお会いしていれば、もっと早いタイミングから気兼ねなく情報共有ができ、円滑にコミュニケーションできたのではないかと思います。オンラインの画面越しだと、特に山本(クレジオ)様は目が鋭く怖い印象だったので…。実際にお会いするとそんなことはありませんでした。
 また、今回は、コンヒラ側のアドバイザーという立場だったことは理解していますが、デューデリジェンスの際の質問項目の上限はもう少し増やして欲しかったというのが正直なところです。事業理解を深める機会を増やして欲しいと感じました。
 大手の仲介会社と異なり、地域に根差したM&Aを手掛けられるのがクレジオさんだと思いますので、これは貫いて欲しいと思います。

山本(クレジオ)

 目が怖かったですか?他意はありませんが、案件を複数担当する中で、緊張が高まっていたのだと反省しています。質問項目はもう少し交渉があるかもしれないと思っていました。四国アライアンスキャピタル様には、コンヒラ様の事業を理解しようと真摯に対応して頂きました。

長谷川

 これまでの関係性もあり、四国アライアンスキャピタルの投資方針や投資後の経営関与について、しっかりと事前にご理解頂いていたことは嬉しかったです。交渉を進める上でも、我々のスタンスに対する理解と、それに基づいてご対応頂けたことで、大きな安心感がありました。一方で、双方のリソースが限られているため、より細やかな情報共有が必要だった局面もあったと反省しています。
 クレジオに期待する点として、向居と同じく、これからも地域密着のスタンスで、瀬戸内圏内の事業者様の課題解決に向けて、支援に臨んで欲しいと思います。他の仲介会社とは一線を画す、地域に根差した取組の中で、我々も共に歩みを進めていければと思います。また、コンヒラ様の成長のため、更なる案件のご紹介も期待しています。

最後に、事業承継・事業成長に課題を抱える経営者に向けて
メッセージをお願いします。

山本

 改めて今回の資本提携を振り返ると、上手く進めることができたのは「資本提携の構想段階から社員へオープンにして進めた」「会社の財務諸表をガラス張りにしていた」「部門別採算で、予実管理し、自走経営できる組織集団にしていた」ことが要因として大きかったです。ここまで組織化を進めると、次世代の社長を「社内から決める」「社外から招聘する」「資本提携する」等、様々な選択が可能になります。社内メンバーが経営の意思決定に参画するガバナンスを構築することで、社外から新しい経営層や、マネジメント層が加わったとしても、言いなりではなく、自分たちの意見を主張することで、カルチャーの擦り合わせがしやすくなります。
 ただ、その組織体制を作ることが難しいと思われる経営者も多いと思います。結局、社長一人だけで決定するのが一番楽です。社員にとっても同様で、自分達が責任を持たなくてよいので、安易な選択肢となります。ただ、その場合、規模を拡大することは不可能です。細胞の核がずっと一つなので、分裂して、新たな若い細胞を作り出し、大きくすることができません。
 組織化がどうしても難しいという場合、思い切って資本提携の相手先を探す決断をすることが中長期的には良いかもしれません。短期的には組織の体質変化で苦痛に感じる時期があるかもしれませんが、長い目で見ると、かなりの確率で組織化と成長が実現できると考えています。

山本

 資本を親族に閉じるのではなく、他者に開くことは、ジャングルに入り込むようなものです。会社を世間に開くことで、マーケットに揉まれ、結果、法人として強くなります。その選択肢がしんどいことは確かです。
 私が困難を乗り越えられた理由の一つは、経営理念を言語化していたからです。経営理念において「全社員とその家族の物心両面の成長と幸福を追求します」と明文化し、オーナー家のためではなく、全社員とその家族のために、と宣言しました。私として、この理念を実現するためには何が一番よい選択肢かを悩みました。自分達だけが幸せになる、この選択肢だけは選べない。
 その背景には、以前、「創業者の息子だから社長なんでしょ」と社員の方に言われたことが影響しています。私は、創業者の息子という遺伝子をもらったから社長になれただけです。社員にとって、私が社長で居続けることの意味はあるのだろうか。もっと社長が優秀なところにいけば、成長と幸せを実現できるのではないか。その社員も様々な会社で実績を積んでいた方なので、軽はずみで発言した訳ではなく、率直な気持ちを伝えてくれたんだと思います。私自身、その言葉を聞いて、「本当や」と素直に受け取ることができました。自分自身の成長が、会社としての成長限界になってしまっている。このジレンマを抜け出し、本当の意味で社員とその家族の成長と幸福の実現に向けて一歩踏み出せたことに安心しています。
 悩んでいる皆さまも、是非資本提携を「将来の選択肢の一つ」として考えて欲しい。クレジオ・パートナーズのインタビューを通じて、ぜひ皆さまにもお伝えしたいです。

向居

 事業承継に悩まれている経営者の方はたくさんいらっしゃいます。事業が成長している企業の経営者であるほど、ご自身が築きあげた企業を後継者や第三者に譲り渡すことに、ためらいや惜しさを感じると思います。一方で、事業承継について、気軽に相談できる相手は多くありません。そのような時は、客観的にアドバイスを頂ける第三者として、税理士の先生やクレジオさんのようなコンサルティング会社、金融機関に一度、相談して欲しいと思います。
 四国アライアンスキャピタルとしても、最近ステージが変わったと感じます。地域で一緒に成長すべき会社はどこかを我々自身が考え、エクイティを活用することで、魅力ある会社が更に成長するご支援をすることがこれからの役割だと認識しています。

長谷川

 地域には依然として、ファンドに対して「ハゲタカ」のような後ろ向きなイメージが根強く残っています。今回の事例を通じて、そうした誤解が少しでも解け、ファンドに対する心理的なハードルが下がるきっかけになればと願っています。私たちの想いは「四国を元気にすること」であり、「投資をして終わり」ではありません。経営者様・事業会社様はもちろん、従業員の皆様やそのご家族の想いも大切に引き継ぎ、雇用を守り、次の世代へと繋げる「橋渡し」として役割を果たしていきます。今後、ファンドを活用した事業承継が、地域の企業にとって「選択肢の1つ」と認識されるよう、引き続き真摯に取り組んで参ります。