実績 PERFORMANCE

進化する地域課題解決型サッカークラブが挑む共創!
新時代を切り拓くスポーツビジネスにおける成長戦略型資本提携
広島県福山市を拠点に「地域課題解決型サッカークラブ」としてJリーグ参入を目指す一方で、スポーツビジネスを通じた地域活性化にも取り組む福山シティフットボールクラブ。岡山県内で有数のクリエイティブ力を有し、WEB制作・マーケティングを中心に事業を展開することで、実績・信頼を積み上げてきたスイッチ。地域の可能性を広げるため、全く異業種の両社が資本を通じてパートナーシップを組むに至る背景や、今後の成長戦略について伺った。
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譲渡企業
株式会社スイッチ
岡山県 / 代表取締役 恒次 明宏
業種 WEB制作・マーケティング等 提携理由 事業成長・地域課題解決 -
譲受企業
福山シティフットボールクラブ(剛毅ホールディングス株式会社、隆旗株式会社、一般社団法人福山シティクラブ)
広島県 / 代表取締役社長CEO 岡本 佳大
業種 サッカークラブを中心としたスポーツクラブ運営・施設運営等 提携理由 事業成長・地域課題解決
はじめに、資本提携を行った岡本様にお伺いします。
福山シティフットボールクラブの概要や沿革について教えてください。
福山シティフットボールクラブ(以下、福山シティFC)は、2015年に(一社)福山青年会議所に参画する地域の経営者が、まちづくりの一環として、地域活性化を真剣に議論し、「スポーツを通じたまちづくり」を目指したことから始まりました。最初はスポーツを通じた地域活動を行い、将来的に総合型地域スポーツクラブを目指すため、一般社団法人を設立し、2017年に前身となるサッカートップチーム「福山SCC」が発足、2020年に福山シティFCへと名称変更しました。
福山シティFCの目的は、スポーツを通じた活力ある備後福山の未来創生です。サッカーはあくまでその手段という位置づけです。我々は、自分達のことを「地域課題解決型サッカークラブ」と呼んでいます。Jリーグを目指すことはゴールではなく、サッカーやスポーツの力で地域課題を解決し、備後福山の地域活性化を目指しています。

サッカーチームとしての実績は、2022-2024年の3年間、リーグの上位には食い込むものの、カテゴリーが変わらない、苦しいシーズンの連続でした。一方、ビジネスとしての業績は、2022年度は売上1.45億円でしたが、2025年度の予算ベースでは売上5.2億円へと成長しています。これはJ3の中でも中位くらいの事業規模です。チームとしての勝ち・負けに大きな影響を受けることなく、事業としては成長できている。サッカークラブの中でも特徴的だと思います。
我々は、コロナ禍を経て「スポンサーに頼らない自走できるクラブ経営」へと舵をきり、今なお目指しています。その活動が着実に実を結び始めています。具体的には、サッカーチーム運営以外の様々な事業に取り組んでいます。府中市「上下運動公園」、神石高原町「油木スポーツ広場」といった地域の公園・施設を活用し、スポーツコミュニティを通じて利活用を促進するグラウンドの指定管理事業や、福山市の英数学館高等学校と連携し、「シン・ブカツ」プロジェクトとして、同校サッカー部の「運営・発掘・育成・強化」を我々が担う、部活動の民間運営事業に取り組んでいます。これら以外にもソサイチ(7人制サッカー)や自治体・スポーツ事業を展開するウェルネス事業者と連携した高齢者支援等に取り組んでおり、サッカー以外のスポーツの幅も広げ、文科省の「総合型地域健康スポーツクラブ」の認証を受けることで、順調に地域課題解決型サッカークラブとして成長しています。

福山シティFCとしての成長戦略と
資本提携の位置づけについて教えてください。
この度、福山シティFCは、抽象的だったMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を見直し、より具体化・可視化させました。これまでのミッションだった"すべての人に「生きる勇気」と「明日への活力」を。"を、FC MISSION として、FC VISION 2030を実現するためのクラブの理念であり、存在意義として位置づけを明確にしました。
加えて、2030年に実現すべき理想的な未来像として、FC VISION 2030を、クラブとしては"スポーツを通じたまちづくり・ひとづくり・コミュニティづくりに貢献する。独自の事業領域を確立させ、優れた業績を残し続ける"と定め、トップチーム・アカデミー・地域社会をそれぞれ、"J1の舞台で闘う""トップチーム昇格選手を3名輩出する""備後福山エリアが笑顔と活力も満ち溢れている豊かなまちへと深化している"と、より具体的に定め、デザインで可視化しました。
クラブの価値基準であり、勝利に向けて突き進むための行動指針であるFC VALUEは、基礎となるフィロソフィーを"FOR THIS CITY(このまちと、ともに)"とし、それが表現される形で、スピリット"GIVE YOUR ALL TO WIN(すべては勝利のために)"、プレーモデル"Ambitious Football(攻守において主導権を握る)"としました。更にスピリットは、知性・覚悟・結束の要素から成り立ちます。ここまで言語化・可視化することで、チームとしての一体感を高めています。

我々が目指す成長戦略は、サッカーチームとしてはJリーグ参入であり、ビジネスとしてはスタジアムの建設です。広島県福山市において、"日本初"官民連携型のスタジアムビジネスとなる「福山市スポーツ&ウェルネス構想」を立ち上げることを計画しています。スタジアム建設費として、約40億円超の資金調達を行い、投資家の皆さまからご納得いただけるような期待利回りを創出することを目指します。これまでの日本のスタジアムだと、数百億~1000億円規模の建設費が必要でしたが、フットボール先進地域である欧州を視察し、街の歴史やクラブの成長と共に歩むスタジアムをモデルとすることで、投資額を抑えつつ、持続可能な仕組みを取り入れ、これまでの日本のスタジアムの概念が変わる取組みを目指しています。
チームとしての我々の足下の課題は「JFL昇格」です。Jリーグに参入できていない現在は、チケット収入も、放映権料も獲得できない状態です。スポーツビジネスの一丁目一番地は、試合観戦を通じて価値を提供することです。そのため、まずは勝利し、1年でも早くJリーグに参入することが必須条件となります。
加えて、もう一つの軸として、サッカーチームをプラットフォームとして見立て、地域に新しい価値を提供することに取り組んでいます。今回の資本提携もその一環です。現在、我々は364社のパートナー企業様に支えられており、そのうち95%は地元企業です。この数はJ1のサッカーチームの平均スポンサー数である220社と比べると、驚異的な数字であり、地域に応援される市民クラブとなっています。このように応援して頂けるパートナー企業様に対して、福山シティFCは、単なるスポンサーの枠を超えた「ビジネスプラットフォーム」として機能し、スポーツ以外の価値提供を含めて、全方位からビジネスを展開するグループ戦略にチャレンジしたいと考えていました。
過去、サッカーチームが事業会社の関連会社に取り込まれるケースはありましたが、サッカーチームそのものが、事業会社をグループに迎え入れるケースはありません。資本提携は、このグループ戦略を進める上で重要な手段と位置づけており、今回のような相互にシナジーを創出する提携や、後継者不在に課題を持つ企業様を支えるような提携にもチャレンジしたいと考えています。
今回の資本提携について、きっかけや交渉の様子を教えてください。
最初にクレジオ・パートナーズ様からご相談いただいた時、「めちゃくちゃ相性いいな」と思いました。将来的には広告代理店のように、地域の様々なお困りごとに対して、何でも対応し、解決したいと考えていました。すごくいいタイミングでお声がけ頂き、直感的にいけるなと感じました。
今回の提携先であるスイッチは、会社としても既に実績があり、岡山の制作会社として地位を確立しています。私自身が大手広告代理店に勤めていた経験もあり、素晴らしい企業であることは理解していたことに加えて、私の過去の経験も活かせるかもしれないと考えました。
ただ、交渉を進める上で、組織としての課題も認識できました。恒次さんは、ご自身の世界観があり、やりたいこともたくさんある。その同じ世界観をメンバーと共有するのは大変です。この理想と現実のギャップを支える組織体制が構築できれば、更に成長の余地があるという期待がありました。加えて、岡山での成功モデルを広島等に展開することも視野に入れていたので、資本提携後、すぐに広島支店を立ち上げました。
続いて、同じく資本提携を行った恒次様にお伺いします。
スイッチの概要や沿革について教えてください。
スイッチは岡山県を中心にWEB制作、デジタルマーケティング、DX PROMOTION、グラフィック・動画等のクリエイティブ制作、システム開発に取り組む会社です。
私は、元々関西での社会人経験を経て、岡山県の印刷会社へ就職しました。そこから独立する形で、スイッチを創業しました。「デザイナーが報われない」ということに課題を感じていたので、デザイナーが報われる会社にしたいと考えていました。広告・印刷だけでなく、システム開発・マーケティング等も事業に取り入れることで事業は成長してきました。「押し売りをしないといけないサービスになったら辞めよう」と考えていたので、無理に事業を伸ばすことはありませんでしたが、社員がこれだけ増えて、規模を拡大できたのは、市場からの要求に対応できたからだと思います。

スイッチの特徴の一つ、WEB制作等のクリエイティブの質の高さです。ただ、そういった技術的なところではなく、何よりの強みは、岡山地域でご信頼を頂けていることだと思います。気に入ってくれたお客様は、会社のHPをご覧いただき、「素晴らしい、良いお仕事してますね!」と声を掛けてくれます。これまで取り組んできたこと、頑張ってきたことを、ご評価していただけるのは純粋に嬉しいです。信頼は積み上げることが大切ですので、例え規模が大きくなっても、変わらず誠実に対応することが重要だと考えています。
都内や他地域の同業の動きは、よく見るようにしていました。地域だと、わざわざ自社の領域の枠から出ることはしない会社が多い印象ですが、スイッチでは他地域の事例を参考に、コワーキングや教育・育成の事業等、新しい事業にチャレンジしてきました。何でも柔軟に対応してきたことも強みの一つだと思います。
資本提携を経て、現在新しく取り組んでいるのは、屋外大型ビジョン広告事業です。福山シティFCと連携し、グラウンドに大型ビジョン広告を設置し、都内でも同じような展開を企画しています。また、私のラーメン好きを活かして、岡山の食をテーマとしたTikTokもスタートしました。グローバルで勝負する展開も視野に入れています。WEB制作を中心とした事業が成長しない訳ではありませんが、生成AIの普及等により、先行きが不透明なところもあるので、常に新しい動きにチャレンジしています。

資本提携を考えたきっかけや理由について教えてください。
資本提携はあくまで成長のための手段です。福山シティFCとの資本提携がなければ、できなかった、繋がれなかったと感じることはたくさんあります。先ほどのグラウンドの広告ビジョンもその一例です。経営者が一人で挑戦できることには限界があります。
市場環境を見ても、人口減少により、市場がシュリンク(縮小)する中、「営業力で勝てる」という単純な構図ではなくなりました。どこかが成長すると、誰かを食いつぶす、正しく戦争のような競争社会です。私自身、そこまでして商売したいかというと、そうではありません。そんなことを考えると、どこかと資本で繋がり、共創を意識しないと、会社を継続・成長することは難しいのではと以前から考えていました。この考えは、岡本さんとお話した時も、お互い一致していたのは印象的でした。スイッチの成長を考えた時、「岡山以外へのエリア進出」「何か新しいことに取り組む」ことが課題でしたが、それを実現するための手段として資本提携を考えました。
交渉の様子や、事業の引き受け先を選ばれた理由を教えてください。
最初にクレジオ・パートナーズの齋藤さんから福山シティFCとの資本提携について提案があったとき、正直お伝えすると「この人何を言っているのかな」と思いました(笑)。
齋藤さんは、昔からお付き合いがあったので、何か考えや想いがあってのことなんだろうなとは感じました。今回の資本提携以前にも、資本提携にもチャレンジし、その時は色々と指摘されただけで、半ば諦めていたタイミングでもあり、当社のことを考えてくれた提案だったら、聞いてみたいと思いました。
本格的に福山シティFCとの資本提携を考えた時、知人の経営者がスポーツビジネスに参入したことも見ていたので、スポーツというスイッチにとって新しいフィールドに面白さを感じました。また、エリア拡大についても、東京・大阪といった都市圏ではなく、地方都市に展開を広げることが戦略に正しいとも考えていたので、岡山からもアクセス的に近い福山に根差した基盤を有していることも面白いと感じました。
岡本さんの第一印象は「真面目」ですね。この印象は今でも変わりません。事業が成長すると、崩れてしまう人をたくさん見てきた中で、岡本さんは、人への気遣いができ、真面目で、一本筋が通っています。
何か具体的な大きなきっかけがあって資本提携を決意した訳ではありません。話が進むにつれて、これはやるんだろうなという空気感を感じました。進んでいくことに違和感がなかったという感覚です。「一緒にやれば何かできるんじゃないか」という未来を感じることができました。
経営について、相談できるパートナーがいて、何かあった時は力を貸してくれ、弱みや見えていないところをカバーしてくれる。それぞれの強みを活かして連携できる。以前のスイッチは、経営は自分しか関わっていなかったので、「このままじゃ、まずい」という想いもありました。これまでのやり方であれば、現状維持から脱却できず、ただ落ちていくだけという危機感もありました。
資本提携を経た現在の様子について教えてください。
資本提携を行ったのが2023年の10月だったので、約1年半が経過しました。提携によるポジティブな側面が徐々に出始めています。2人の代表が知恵を絞り、人脈やネットワークも2倍になるので、資本提携にチャレンジする価値はあると当初から思っていました。これがなければ諦めていたことがたくさんあったと思います。
ただ、資本提携によるハレーションが起こることも覚悟していました。提携後に描く未来を共有できず辞めていくというメンバーもいました。1年半を経て、ようやく体制が整い始めてきたという状況です。
具体的なところは全く決まっていませんでしたが、資本提携後すぐにスイッチのエリア拡大のため、広島拠点開設を決定しました。現在、既に広島支店は10人弱のメンバーが在籍しています。スイッチ全体としても資本提携前は約30人だったのが、現在は約40人となり、着実に成長しています。
規模の拡大だけでなく、組織としての安定感も増しました。当初は恒次さんとメンバーが描く世界線にギャップがあると感じたので、月2~3回の部長ミーティングの定例化、事業部長の採用、経営管理本部の設置に取り組む等、組織強化に注力しました。スイッチの社長はあくまで恒次さんです。恒次さんがやりたいと思うことを実現できる組織を目指し、社内の体制整備を行いました。
今期はスイッチとしてもMVVやロゴを刷新することも計画しています。マネジメント層の研修制度も導入し、これまでの事業を強化し、新規事業にもどんどん取り組み、スイッチがプラットフォームとなることで、様々なソリューションや付加価値を提供できることを目指しています。スイッチは、人がつくる、人を大事にする、人が想い持って取り組む会社です。徐々に会社としての雰囲気もよくなっていったんじゃないかなと感じます。
一方で、恒次さんの数字の責任はしっかりと果たすところや、資金調達のノウハウ等、私や福山シティFCが学ぶところも多いです。現在、福山シティFCの選手の採用活動もスイッチが支援しており、事業単位でも連携が加速しています。
お二人にお伺いします。
クレジオ・パートナーズを利用した感想を教えてください。
自分とスイッチのことを、ちゃんと考えてくれていたと思います。それはむっちゃ感じましたね。クレジオ・パートナーズさんは、単純に繋ぐことだけを優先するような企業とは違うなと思います。齋藤さんとは付き合いが長いというのもあると思いますが、そういった信頼関係がある中で、変なことは考えないと思います。
ほぼ同じ印象ですね。クレジオ・パートナーズ様とは、資本提携が終わった今でも、お付き合いを継続しています。クレジオにいるメンバーの人間性や、担当してくれている再東さんを、人として好きだなと感じています。これはとても大事なことだと思っています。会社として目先の成長だけではなく、親身に伴走してくれる。M&A・事業承継に関わらず、気軽に連絡が取り合える、とてもいい距離間でいてくれることを嬉しく思います。
強いて悪いところを挙げるなら、「さいとう」が二人いるのは、分かりづらくて、よくないね(笑)。

最後に、事業の成長に課題を抱える経営者に向けてメッセージをお願いします。
それぞれのステージや立ち位置にもよると思いますが、不安があるなら、解消に向けて行動しないといけません。日本経済全体をみても、成長することの難易度が上がっている時代だと感じます。何社か集まって、持ちつ、持たれつ、弱みを補い、強みを活かすことも一つの方法だと思います。飛び込む覚悟は必要ですが、不安があるなら、資本提携を考えてみてもよいと思います。資本提携が絶対の正解と言うつもりはありませんが、時代を見据えた時、会社の力をただ伸ばしても潰れる時代において、淘汰されないように何をすべきか、どうやったら生き残れるかを考える必要に迫られていると思います。
コロナ禍が明け、時代の移り変わりがより一層、激しくなる中で、互いを蹴落として競い合う「競争」ではなく、共に創る「共創」の時代に突入したと感じます。自分たちの軸や強みを、どうレバレッジを効かせて伸ばすことができるか。ハードルは高いと思いますが、一歩を踏み出すことでしか見ることができない景色を、自分の中でどう捉えるかが、今からの時代を生きる経営者にとって必要だと考えています。資本を通じて、会社を単純に「売る」「買う」という関係性ではなく、変化を受け入れ、共に一歩踏み出すことが大事だと思っています。
