実績 PERFORMANCE

警備会社の将来を見据えた決断、後継者不在の苦悩
を乗り越えたM&A
愛知県一宮市に本社を構える警備会社エスオージェイ。交通誘導警備を中心に、地域に根ざしたサービスを展開。後継者不在という経営課題に直面し、M&Aという選択を決断。譲受先には建設・警備の両分野を持つ企業を選択した。M&Aを進める中での、その経緯とリアルな葛藤、家族や社員に向けた想いを振り返る。
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譲渡概要
株式会社エスオージェイ
愛知県 / 顧問 桐山 知巳
業種 警備業 譲渡理由 後継者不在 -
譲受概要
株式会社MAMORUホールディングス
愛知県 / 代表取締役 神之浦 政彦
業種 土木・建設業、警備業 提携理由 事業領域拡大
譲渡をされた桐山様にお伺いします。
エスオージェイの概要や創業の経緯について教えてください。
エスオージェイは、愛知県一宮市に本社を置く警備会社です。2006年6月に設立し、業務として、交通誘導警備を主とし、イベント警備や施設警備も行っています。
創業の経緯は、元々1989年から2006年3月まで、岐阜県のALSOKのグループ会社に勤務しており、その後独立して会社を設立しました。会社の看板に虎のマークがありますが、父が経営していた「タイガー商事」という会社名をイメージしています。警備業は届出が必要な事業なので、最初の数か月は売上・利益を作れない状態でしたが、9月5日に許可が下りました。奇しくも、その日は父の命日だったこともあり、父が応援してくれるような気がしました。そこからどんどん仕事が入り、翌年には数億円の規模まで拡大しました。そこからはある程度規模を維持して、事業を継続していました。

エスオージェイの特徴としては、日本の二大警備会社であるALSOKと強いリレーションを築いていたことです。人材の供給においても多数の協力会社と良好な関係を築いていました。警備はサービス業なので、警備する対象企業のイメージに合わせた警備員を派遣するように心掛けていました。例えば、ディズニーランドの警備で、まるで工事現場の警備員がいると場にそぐわないですよね。苦い経験として、宝石店の警備を依頼された時に、ヘルメットを被った土方のような警備員を派遣してしまい、お客様からクレームとなりました。それ以来、雰囲気に合わせる警備ができるよう、心掛けてきました。
M&Aを考えたきっかけや理由について教えてください。
事業における課題は警備員の人材不足でした。これは、警備業界はどこの会社も苦しんでいると思います。M&Aを考えたきっかけは後継者がいなかったことです。元々、長男を入社させ、後継者にしたいと育てていましたが、難しく、その他の従業員で後継者を任せられる人材もおらず、大きな問題意識を持っており、精神的なストレスも大きく、眠れない日が増えてきていました。

M&Aは金融機関からも勧められました。ただ、やはり金融機関は取引関係があるので、なかなか前に進める気にはなれませんでした。色々な方からアドバイスを頂き、M&Aを任せる先として5社程ご紹介を頂きました。いずれの方も少し頼りなく、本当に私の立場に立ち、真剣になってくれるのかと疑問を持つ中で、クレジオ・パートナーズの酒井さんとお会いしました。酒井さんは、真面目で、売却するオーナー経営者の気持ちに寄り添ってくれると思い、酒井さんにお任せすることを決めました。
桐山さんとお会いして、ご成約まで半年くらいでしたでしょうか。
そんなに短かったですか?もっと長いお付き合いだと思っていました。
当時は、桐山さんも相当悩まれていて、「1か月を1年に感じる」とおっしゃっていましたよね。

交渉の様子や、譲渡先を選ばれた理由を教えてください。
再東さんはどちらかというと柔らかい雰囲気。酒井さんは、表現が悪いですが、「バカ」がつく程、真面目でしたね。
譲受候補先として、三社ご面談させていただきました。私の希望としては、警備業のみの会社だけでなく、なるべく異業種の相手先を希望しました。もし譲受先が警備会社の場合、顧客だけ取られてしまい、エスオージェイの強みを活かすことができるか不安に思っていました。面談を重ねる中で、譲受先となる株式会社MAMORUホールディングスとお会いしました。MAMORUホールディングスは、道路工事業等を主軸としながら、東日本大震災の復興支援をきっかけに東北で警備業を開始していました。土木・建築分野でのリース事業や、人材派遣事業も手掛けており、多角経営の戦略の中で、エスオージェイが一緒になることで、お互い成長が見込めるのではと思い、決断しました。他にも会社をより高くご評価頂けるところもありましたが、お互いの長所を活かした将来的な発展を考え、MAMORUホールディングスへの譲渡を決断しました。
社内に対しての進め方も、酒井さんに上手くアドバイスを頂きました。他の株主との調整や、妻への説明等、色んな局面がありました。苦労したのは、様々な過去の資料を集めなければならなかったところです。顧問の税理士と協力して何とか進めました。情報のやり取りや、コミュニケーションのところは大変だったと思います。
一番の懸念は、M&Aを実施したことで、スタッフが残ってくれるかどうかでした。
その点はMAMORUホールディングス様も懸念していたので、最終契約前に、お取引先様と社内の主要な方々との面談を希望され、実際に行いました。お取引様にお願いしたところ、その場で快諾頂きました。社内の方々にとっても、事前のご面談を通じて不安解消に繋がったと感じています。それぞれの経営方針の違いもあると思っていたので、私も譲受企業様とのコミュニケーションのところは、円滑に進むよう気を付けていました。

M&Aを終えた感想や今後の方向性について教えてください。
感想は「疲れました」の一言に尽きます。後継者の課題や、家族・社内との調整、譲受先の経営方針、従業員の今後の条件等、頭を悩ませることが多かったです。M&Aが終わり、今はすっきりした気持ちです。今後は、まずは家族を第一に考えたいと思っています。妻や子供に何を残すことができるのかを大事にしていきたいです。
MAMORUホールディングスへのグループとなり、看板を新しくして頂きました。警備人材の採用も進んでおり、新しい警備の仕事を受注できて、お互いの強みを活かせていると感じています。
クレジオ・パートナーズを利用した感想を教えてください。
まずは、売却する側の気持ちに真剣に向き合って頂けたことに感謝を伝えたいです。強いて苦言を呈すのであれば、先ほどお伝えしたとおり、「バカ」がつく程、真面目だったことでしょうか(笑)。お伝えしたとおり、資料集めには苦労しました。M&Aの業界では当たり前かもしれませんが、私にとって不慣れなところも多く、石橋を叩くような感じでデータを出してくださいと言われるのは、大変でしたね。酒井さん、普段は柔らかいのですが、時々本音が漏れて「違う」と、ピシッと言っていました。逆に言うと、それだけ真剣に考えてくれていることは伝わりました。酒井さんは、交差点があれば直角90度で曲がるタイプですね(笑)。
資料の内容や、説明の仕方で、譲受先が受け取る印象も違ってくると思うので、なるべく、ストーリーが伝わるように気を付けていました。厳しかったところが多々あったのは申し訳ございませんでした。

最後に、事業承継・事業成長に課題を抱える経営者に向けて
メッセージをお願いします。
率直にM&Aという選択はお勧めします。経営者はアドバイスしてくれる人がいません。社内でスタッフの意見はあったとしても、最終的には自分で判断して、方向性を決めないといけない。社員全員が潤う形を追求しないといけない。日本の経済が先行き不透明な中、「うちの会社はどうなるか」と、不安ばかり考えている経営者が多いと思います。そんな状況の中で、もし譲受して頂ける会社があるなら、M&Aをきっかけに飛躍できる可能性もあると思います。
最近、経営者の友人から久しぶりに連絡があり、その友人も会社を売却したそうです。色んな共通点があり、お互い「次の未来が見えた」と盛り上がりました。ストレスを溜め込んで、病んでしまった経営者もいる中で、持っている悩みは一緒です。
やはり家族が大事です。最近では、妻に洗濯物や掃除をしろと言われるようになりました。社長をしている時は、仕事でそれどころではありません。夢を目指す娘が市内に通う送り迎えもしています。ストレス病と金欠病という懸念がなくなり、家族と共に歩めるようになったことが楽しいし、嬉しいです。
