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実績 PERFORMANCE

CASE 19

信頼が歴史を紡ぐ食分野でのM&A、コングロマリット化で目指す100億円地域企業グループ

広島県広島市に本社を置き、祖業である醤油醸造から自動車・クレーン・船舶・ドローンの教習事業へと事業を多角化することで成長するロイヤルコーポレーション。広島県三原市で菓子製造業を営み、「ひとつぶのマスカット」「広島チョコラ」といった代表的商品を有する共楽堂。食というルーツを持ち、広島という地域で信頼と実績を有する両者のM&Aについて、その背景や想い、今後の可能性について伺った。

  • 譲渡企業

    有限会社共楽堂

    広島県三原市 / 代表取締役社長 芝伐 敏宏

    業種 菓子製造業
    譲渡理由 後継者不在
  • 譲受企業

    株式会社ロイヤルコーポレーション

    広島県広島市 / 代表取締役 寺岡 晋作、取締役副社長 寺岡 宏晃

    業種 自動車学校等教習事業・醤油醸造等
    譲受理由 事業多角化・拡大

はじめに、譲受側である寺岡様にお伺いします。
現在取り組まれている事業について教えて頂けますか。

寺岡副社長

 ロイヤルコーポレーションの現在の主な事業は、自動車・クレーン・船舶等の教習事業です。自動車学校の「ロイヤルドライビングスクール」、クレーンを取り扱う労働安全衛生教習の「ロイヤルパワーアップスクール」、小型船舶等の「マリンライセンスロイヤル」やドローン教習の「ロイヤルドローンスクール」を総合ライセンスカンパニーとして展開しています。
 ロイヤルドライビングスクールは、広島では広島市・福山市で開校しています。年間約8千人弱の卒業生がおり、広島県内では20%以上のシェアで、トップシェアとなっています。ロイヤルパワーアップスクールは広島市・福山市に加え、姫路市・岡山市、マリンライセンスロイヤルは、東京都・横浜市・名古屋市・大阪市・広島市で展開しています。それぞれ毎年の卒業生は約2万5千人、約9千7百人であり、日本国内でトップとなっています。

寺岡社長

 ロイヤルコーポレーションの祖業は、教習事業とは全く違う醤油醸造の会社です。広島県福山市で明治20年(1887年)に曽祖父が立ち上げました。現在グループの食分野では、「寺岡家のたまごにかけるお醤油」で有名となった醤油醸造の寺岡有機醸造(福山市)と、醤油に必要な大豆や小麦の生産のために設立した農業生産法人の寺岡有機農場(世羅町)があり、農場では有機JAS法の認定を取得した無農薬栽培にこだわった野菜を販売しています。

寺岡社長

 明治40年からは、醤油事業に加え、国の専売品であった塩田事業を手掛けていましたが、外国産の安価な岩塩が日本に入ってくると事業が成り立たなくなり、国から転業する指導がありました。その転業資金を元手に、所有していた福山市の塩田を自動車教習所にしました。父が車好きだったのと、自動車の運転を練習するところがなかったので教習事業を始めました。教習所に通う方は夜が中心なので、当時、私は4歳でしたが、父がいつも夜遅くに自宅へ帰ってくる姿を今も覚えています。
 最初は福山市に一校だけでしたが、ニーズが大きかったので、広島市で二輪専門校からスタートし普通車の指定にチャレンジしました。ちょうど父が亡くなったタイミングでもあり、相続税の資金負担を抱える中で、更に借入をするという大きなチャレンジでした。プロジェクトに取り掛かってから3年半、やっとの思いで広島校の普通車の指定を取得することができました。

ロイヤルコーポレーションとしての強みや、
今後の事業展開について教えてください。

寺岡社長

 学校という事業ですが「営業」の考えを大事にしてきました。学校という性質上、営業はふさわしくないという考えもありますが、企業として考えると営業活動は当然重要です。私が初代営業部長に着任し、何も分からない中、大学・高校に営業していきました。そこから「営業を科学する、標準化する」という考えに至り、営業を組織化することで事業を拡大していきました。現在もビラ配りや、学生寮への働きかけ等、営業活動を積極的に行っています。
 醤油・有機野菜といった食分野の事業も同時に展開していましたが、こちらは高度成長期の波に上手く乗ることができませんでした。教習事業が成長し、次第にメイン事業が教習事業に移る中で、気持ちとしては祖業である食分野も、もっとやりたいという気持ちはありました。

寺岡社長

 2025年4月を目標にホールディングス体制へ移行することを目指しています。一つの業種に絞るとアップダウンが激しく市場からの影響が大きいですが、異業種を取り込み、コングロマリットの企業グループとなれば、経営のリスクヘッジが可能です。
 グループの大きな課題は「人材不足」です。特に経営感覚を持った人材が不足しています。社内人材だと、どうしてもサラリーマン感覚が抜けきりません。コングロマリット化を進め、社長人材も育成していきたいと思います。M&Aで対象会社の社長が経営に関わるようになると、あまりの感覚の違いに「人種が違う」と皆驚くと思います。そういう点でもホールディングスを目指す意味は大きいです。
 専門性を持った人材も足りていません。新規事業は、専門性を持った人材がいるとスムーズです。M&Aは初めての経験ですが、現在展開している事業の範囲内だけでなく、多様な業種と、資本で連携していくことが重要だと考えています。

経営戦略におけるM&Aの位置づけと
今回のM&Aの経緯について教えてください。

寺岡社長

 我々は「2030年までにグループ売上高100億円」を目標として掲げています。目標達成には既存事業だけでは難しいと感じており、M&Aが有効な手段だと捉えています。M&Aを強化するために体制を整え、専任担当を配置しました。

寺岡副社長

 今回のM&Aについて、はじめにクレジオ・パートナーズからお電話をいただいた時、概要のみでしたが、「果物を取り扱う食の分野である」と聞き、我々の事業ともご縁を感じ、「ぜひ前向きに進めていただきたい」とお伝えしました。「醤油を活かしたお饅頭」といったアイデアもあり、お菓子に関連した事業は元々やりたいと思っていました。

寺岡社長

 共楽堂のこれまでの展開が我々とよく似ていたこともご縁を感じました。共楽堂が展開するお菓子は、品質にこだわる高級志向で、東京の催事場販売で評価を得て、地域でも広がったと聞きました。我々の有機醤油や有機無農薬野菜も同じです。高級路線で展開し、東京で評価を得ることで、地域でも評価されることに繋がりました。
 また、我々が取り扱う醤油や野菜は「旬」という引きがないのも課題でした。共楽堂のコンセプトである「旬果瞬菓(しゅんかしゅんか)」は、旬の果物や野菜などを使い、その瞬間を輝くお菓子を作りたいというこだわりから生まれた言葉と聞き、様々なシナジーのイメージが浮かび、企業文化も似ているんじゃないかなと思いました。

寺岡副社長

 我々の商品販売方法は問屋を通した卸だったので、エンドユーザーの生の声が聞けないことを課題に感じていました。共楽堂は、小売販売を通じて、直接お客様の声を活かし、商品を開発しているのではという期待もありました。学校という事業柄、厳格性が求められてしまうので、今後の展開に必要な「遊び心」をもたらしてくれると思いました。

続いて、譲渡側である芝伐様にお伺いします。
事業の概要やM&Aを考えたきっかけや経緯を教えてください。

芝伐社長

 今回譲渡したのは有限会社共楽堂と株式会社瞬菓三原の2社になります。共楽堂の歴史は、昭和8年(1933年)に私の祖父が三原市で菓子製造業を創業したところから始まります。元々は、手土産や贈り物に使われるような比較的高級なお菓子を、地元中心に事業を展開していました。
 私は東京にいましたが、父が会社を継がないと意思決定したとき、祖父が事業を辞めると言い出したので、それならばと、私が承継することを決意しました。帰ってきた時は、売上と同じくらい負債があり、必ずしも上手くいっているという状況ではありませんでした。

芝伐社長

 先ほど、寺岡社長からもお話がありましたが、共楽堂の新しい事業展開は東京で評価を得ることから始めました。当社の目玉商品の一つであり、アレキサンドリアという品種のマスカットを丸ごと使った「ひとつぶのマスカット」は、もともと「やっさ祭り」という商品名でした。東京のマーケットを意識し、リブランディングして商品名を変えて販売したところ、思った以上に大きくヒットしました。
 最初はマスカットの商品を東京の催事場で夏だけ販売していましたが、冬にはマスカット以外の商品を催事で販売するようになりました。常設販売に向けて百貨店に相談していたところ、「常設販売のためには、もっとしっかりとしたコンセプトが必要」というアドバイスをいただきました。
 私の中で「旬の果物を使って、その一瞬に輝く星をつくる」という想いがあり、そこから「旬果瞬菓」というコンセプトが生まれました。厳選されたあんぽ柿を使った「柿中柚香」、愛媛県産の「ほくほ栗」といったコンセプトに基づいた商品を増やし、恵比寿の三越に初めて常設店を開設することができました。

芝伐社長

 最近力を入れているのは、しっとりともちもちとした食感で、濃厚なチョコレートの焼き菓子「広島チョコラ」です。それまでは東京での販売が中心でしたが、2011年の東日本大震災が起こったとき、東北の方々が被災地となった地元復興のために活動しているのを見て、「自分は地元に対して、これまで何もやってない」と思うようになり、広島を代表するお土産をつくろうと決めました。
 共楽堂には元々「焼き上げショコラ」というチョコレートの焼き菓子がありました。ただ、これでは「旬果瞬菓」のコンセプトに合いません。そのため、牛乳を広島県産の砂谷牛乳に変更し、お土産用に日持ちがするよう工夫しました。販売面ではメディア戦略を積極的に展開し、地元のテレビ局に足しげく通って商品をPRしました。とあるテレビ局のディレクターの方に商品の説明をしていたところに、たまたま広島のタレントである西田篤史さんが通りがかり、ご自身の番組で広島チョコラを取り上げてくれました。それをきっかけに人気が広まり、JR広島駅からも取り扱いたいと直接ご連絡をいただき、どんどん広がっていきました。

芝伐社長

 M&Aは2016年頃から考えていました。社員から「芝伐社長には子供がいないのに、会社は今後どうなっていくの?」という声が聞こえてくるようになり、共楽堂と想いを一緒にしてくれる事業承継先を探そうと決意しました。従業員への承継も考えましたが、会社の規模も大きく、難しかったので、M&Aが有力な手段だと思いました。大手M&A仲介会社が開催する勉強会に参加し、実際にコンサルタントと面談する等、M&Aに向けて活動する中で、今回私のFA(ファイナンシャル・アドバイザー)をお願いした東京のアドバイザーにも出会いました。
 譲受先の候補については、最初はプロ経営者を多く抱えるファンドや、上場企業のグループ傘下へ入るということも憧れとしてありました。ただ、検討や協議を進める中で、自分の想いをしっかり汲み取り、これまでの戦略を活かしてくれるのはどういう企業だろうと悩んでいました。

芝伐社長

 そんな中で、ロイヤルコーポレーションさんとのご縁をいただきました。元々会社としては存じ上げてはいましたが、実際に寺岡社長とお会いしたとき、農業を含めた食分野の取組を伺い、醤油とお菓子のシナジー効果もあるなと感じました。「関東のマリンライセンスロイヤルの会員様に向けた特別なお菓子を作りたい」等、一緒に価値を創る具体的なご提案もあり、安く製造して、大量に売るような戦略ではないところに共感しました。

芝伐社長

 一番不安に感じたのは、M&Aを検討している最中にコロナ禍があり、会社の利益が下がっていった時ですね。M&Aどころではないという、会社の未来に対して恐怖を感じる時期もありました。
 M&Aを終えて一番感じるところは、これまでとは違う、新しい責任感です。自分がオーナー社長だったので、オーナー社長が一番大変だと思っていました。ただ、オーナーを交代し、経営者を職業としてコミットすると、しっかりと結果を出さないといけない。オーナー経営者であれば、従業員に給与を払っていればあとは自分の責任と割り切れますが、今では、これまでとは違う重圧と責任を感じています。
 一方で、ロイヤルコーポレーションという信頼できるパートナーを得たことの可能性も感じています。既に現場からは醤油とお菓子をコラボレーションさせた新商品開発の提案もあり、お互いのお客様にそれぞれの商品を販売していく戦略等、具体的な議論をしています。自分達のやり方を尊重してくれる先に譲渡できたのはありがたいと思います。

今回クレジオ・パートナーズは、
ロイヤルコーポレーション様の買手FAという立場でした。
クレジオ・パートナーズを利用してみて、いかがでしたでしょうか。

寺岡社長

 クレジオ・パートナーズの名前は、広島の別の経営者の方からもお聞きしていました。今回は売手・買手それぞれFAがつくという形で案件が進むので、情報にフィルターがかかることに対して不安がありました。我々としても、売手となる芝伐社長の気持ちを大事にしたいと考えて臨んでいましたが、どうしても接触する頻度は限られてしまいます。その点、担当していただいた見目さんは、東京支店にも関わらず、頻繁に広島へ足を運び、密にコミュニケーションして頂いたので助かりました。

見目

 アドバイザーとしても、買手・売手のアドバイザーを通すことで見にくい部分は多くあると感じていたので、細かい点もご相談・ご報告し、売手側のアドバイザーとも積極的に連携することを心掛けました。広島で信頼・実績のある両者のM&Aということで、地域にとってもインパクトが大きい案件でしたので、ご決断が上手く進むようにお手伝いしたいと思っていましたが、最終的には、お二人の判断の早さ、決断の強さに助けられました。
 皆さまが顔を合わせてお会いしたのは、マネジメントインタビューの機会だったと思います。その際に、共楽堂の現場の方も交えて、会食の機会を設けさせていただき、お互いが顔を見てコミュニケーションする機会を作ることができたのは、M&A後の展開も考えると、非常によかったのではと思います。

芝伐社長

 会食では非常にいいコミュニケーションができたと思います。ただ、最後に見目さんのプライベートのお話で全部持っていかれた感はありましたね(笑)。

寺岡副社長

 加えて、今回、クレジオ・パートナーズから買手側の負担が少なくなるような工夫されたスキームのご提案をいただいたことも大きかったと思います。

最後に、両社へお伺いします。
今後、事業承継に悩まれている方や、M&Aの活用を考えている方へ
メッセージをいただけますか。

寺岡社長

 グループの目標を達成し、地域で成長するコングロマリット企業となるため、M&Aは今後も積極的に展開します。今回、共楽堂のM&Aと同時に、山口県岩国市で岩国れんこんの加工製造業を営む有限会社弘中食品もグループに加わりました。今後は食分野だけでなく、主業である教習事業でも積極的に取り入れたいです。
 地域でよい人材を集めるには、その地域での「信用」が重要です。M&Aは信用を早く獲得するために有効な経営戦略だと感じています。

寺岡副社長

 ロイヤルコーポレーションにとって初めてのM&Aでしたが、実施する前と後では全く状況が違い、プラスとなる部分が多くありました。譲受する立場として、新しい事業体が加わることで、社内でも発想が広がることを実感しています。社員達が自主的にお菓子の写真を共有し、情報収集に動く姿に驚きました。こういう動きは、自社の新規事業だけでは起こりません。M&Aによるシナジー効果として、社員の能力開発の部分は大きいと感じています。違う切り口ができることでプラスとなる相乗効果を共楽堂さんと一緒に、楽しみながら進めていきたいと思っています。

芝伐社長

 自分達の想いを大事にしてくれるところと一緒に事業をできるようになったのがよかったなと思います。M&Aを社員に伝えるとパニックになり、辞める人も出てくると聞きますが、今回はそのようなことはありませんでした。会社の想いを共有し、共にブラッシュしてくれる相手先を見つけることが大事だと感じます。2030年にグループで100億円というビジョンがあるので、グループのシナジーを活かし、何か目標達成に繋がることができれば嬉しいなと思います。