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実績 PERFORMANCE

CASE 11

瀬戸内珍味産業の歴史を紡ぐM&A、
老舗珍味メーカーの新たなチャレンジ

「瀬戸内れもん味イカ天」等、ヒット商品を展開する瀬戸内地域を代表する老舗珍味メーカー、まるか食品。中国四国地域の珍味問屋として歴史を持ち、広島の名物である「せんじ肉」を商品展開してきた大黒屋食品。以前より取引関係にあった両社がM&Aを通じて提携することで、両社の強みを活かした事業展開を目指す。瀬戸内を代表する珍味業界老舗2社による歴史を紡ぐM&Aについて伺った。

  • 譲渡企業

    大黒屋食品株式会社

    広島県広島市 / 代表取締役 片岡 真一

    業種 食品卸
    M&Aの目的 事業継続・成長
  • 譲受企業

    まるか食品株式会社

    広島県尾道市 / 代表取締役社長 川原 一展

    業種 食品製造
    M&Aの目的 事業拡大

譲受側である川原様にお伺いします。事業概要を教えて頂けますでしょうか。

川原

 まるか食品は、1961年に父が尾道で創業しました。創業当初からスルメや海苔等の海産物のおつまみを製造販売しており、2006年に私が二代目として代表に就任しました。2013年に「瀬戸内れもん味イカ天」が大ヒットを記録し、2019年に現在の敷地内に第3工場を設立し、大きな設備投資を行いました。
 当社は「ワォ!!なおつまみスナックを瀬戸内・尾道から!」をミッションに掲げています。消費者の皆さまに「ワォ!!」と思って頂けるような、おいしい・楽しいと思って頂ける商品を創り出し、日常の中で幸せなひと時を提供することを理念としています。「地域」に根差した商品を生み出すことで、広島No1、瀬戸内No1のブランドを目指しています。

ヒット商品である「瀬戸内れもん味イカ天」の開発の経緯や御社の強み・目標を教えて頂けますでしょうか。

川原

 商品開発のきっかけは、「尾道のお土産品」を創ることでした。尾道の観光客を調べると、女性が中心となっており、当時「母娘旅行」が流行っていたこともあり、賑やかな旅よりは、ゆっくりと知的な旅を楽しむ層がターゲットとなりました。そのため女性を意識したパッケージとなりました。実際に商品開発を担当したのが女性だったこともあり、女性による、女性のための商品開発になりました。
 担当した女性社員から、イカ天のサイズを通常のサイズより小さい、女性向けの一口サイズが提案されました。従来、おつまみは、サイズを大きくして、内容量に嘘がないようパッケージは透明につくることが常であり、実は私自身は当初反対していました。過去に一口サイズの商品を出しても売れなかった経験も後を引いていました。

川原

 当時から商品開発ではお客様の声を聞くことを基本的なコンセプトにしていました。担当した女性は社内にアンケートを実施し、社内の女性が全員「一口サイズの方がいい」と回答しました。価格設定も含め、商品開発のステップを全てお客様のヒアリングを元に実施していたこともあり、「お客様の声に基づいたニーズ」として、自分も最終的には納得し、現在の「瀬戸内れもん味イカ天」が生まれました。
 当社の強みは、商品の企画力です。その企画力を支えているのは社員であり、社員の意見を通しやすい社風だと考えています。現在は140名の規模ですが、社長や部長に社員が直接意見をぶつけてもよい風土があり、若手社員と社長の距離が近く、声が通りやすいのが、当社の企画力に活きていると思います。
 今後は、売上50億円、200人の雇用を生み出すことを目標としています。「瀬戸内れもん味イカ天」の次なる商品の柱を育て、ECサイトも展開しつつ、地域でブランディングができる会社を目指して参ります。

事業戦略上のM&Aの位置づけについて教えて頂けますか。

川原

 M&Aについては、成長戦略における選択肢の一つではありましたが、具体的な方針はありませんでした。M&Aというよりは、販路を強化するために業務提携したいという想いはありました。「瀬戸内れもん味イカ天」のヒットにより、首都圏の市場を開拓しようとした時、マーケットも大きいが、ライバルも多いということを痛感しました。東京でまるか食品のコーナーを作ってもらうと、非常に受けがよくて、見栄えもよいのですが、ふと振り返ると地元にはそういったものがないことに気が付きました。地元でしっかりと売場をつくることから始める必要があると感じており、そのためには大黒屋食品さんとの連携はどのような形でも欠かせないと考えていました。

今回のM&Aの経緯について教えてください。

川原

 大黒屋食品さんは、古くから歴史のある西日本では最大の珍味問屋でした。当社とも創業当初からお付き合いがありました。当社が商標を持つ「郷の味するめフライ」は、大黒屋食品さんが一番取引して頂いた商品であり、当社は大黒屋食品さんに育てて頂いたと言っても過言ではありません。「瀬戸内れもん味イカ天」についても、一番初めに大きく取り扱って頂きました。
そういった経緯もあり、M&Aというよりは、「一緒にやったら何か面白いことができるのでは」と考えていました。

桑本

 ふり返ってみると、瀬戸内で歴史を有する2社による提携となり、地域の食品産業の歴史を紡ぐようなM&Aだったと思います。

川原

 ありがとうございます。大黒屋食品さんとのM&Aを検討する中で、特に魅力的だったのは、中国四国を中心に、特に広島県内では有力な小売事業者様との強いお取引を有している点でした。まるか食品はメーカーですので、小売事業者様との接点や提案機会は限られます。消費者のニーズを吸い上げ、当社の強みである商品企画力や提案力を最大化するためにも、そういったネットワークは魅力でした。
 加えて、問屋さんにも関わらず、広島の名物である「せんじ肉」という独自の商品を持っていました。当社の「瀬戸内れもん味イカ天」に加えて、卸問屋としての幅広い商品群と、「せんじ肉」という強いブランド商品があればもっと面白い提案ができるのではと考えました。

M&A後の関わり方について教えて頂けますか?

川原

 片岡社長を初め、現在の体制を維持しつつ、マーケティング・商品開発を共通化することで、より一体化した商品戦略を展開したいという想いがあります。現在は、当社から営業を派遣し、同行することで、販売面でのシナジーを強化しています。ゆくゆくは、「瀬戸内」のブランドを打ち出し、大黒屋食品の幅広い品揃えと、当社のデザイン力・企画力を活かして、一体的な売場全体の提案をすることを考えています。

M&Aの仲介会社の中からクレジオ・パートナーズを利用してみて、いかがでしたでしょうか。

川原

 当社はこれまでM&Aを実施したことがないので、比較対象がありません。ただ、感じたままをお伝えすると、クレジオさんからの情報提供は、スムーズで速かったと思います。M&Aが初めてということもあり、当時は不安しかありませんでしたが、タイミングよく必要な情報を整理してご提供頂きました。
 もう一つ大きかったのが、M&Aの検討の中で、金融機関へ一緒に説明して頂いたことです。M&A実行のためには融資が必要でしたが、シナジー効果について、数値的な部分も含めて整理して、資料を作成・提供頂きました。金融機関としても、専門家から説明を受けることで不安も減ったと思いますし、我々も資料作成の手間を省くことができ、非常に助かりました。当社の財務アドバイザーも「あそこまで資料を作成する仲介会社はない」と言っていました。
「事業承継・引継ぎ補助金」の事務サポートまでして頂き、寄り添ってご対応頂けた点について感謝しています。

最後に、今後M&Aを考えている方へメッセージをいただけますか。

川原

 実際にM&Aを体験してみて、会社の成長を目指す時には、有効な手段であると実感しました。よくM&Aは「時間を短縮する」と言われますが、時間もさることながら、売上と人材がセットでついてくるというのは非常に大きく感じます。
 もし、M&Aではなく、離れた土地で、新規で工場を立ち上げ、事業を開始するとなると、人材の採用・育成を含め、相当時間が必要であり、事業を開始するタイミングでは、前提として考えていた市場環境が既に変わっていることも容易に想像できます。その点、M&Aは売上・製造ノウハウ・人材といった経営基盤を引き継ぐことができるのが大きなメリットです。
 M&Aは、中小企業の経営戦略における選択肢として一般化しつつあると感じています。ただ、M&Aを実行した後のガバナンスの問題はあります。M&Aの拡大と共に、経営者に求められる質も変化していくのではないかと思います。