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実績 PERFORMANCE

CASE 16

地域企業の多角化を強化、
幸せを実現するための異業種M&A

鳥取県米子市に本社を置き、住宅・建築に関する総合商社として建材資材卸業を中心に事業を多角化し、M&Aを活用した成長戦略を描くミヨシ産業。同じく米子市に本社を置き、飲食料品を中心に地域で一般貨物運送業を営み、後継者不在の課題を抱えつつ、将来の経営に悩みを抱えていたトラビス。同じ山陰地域内で実現した地域における異業種のM&Aのそれぞれの背景や想いについて伺った。

  • 譲渡企業

    株式会社トラビス

    鳥取県米子市 / 代表取締役 山本 修二

    業種 一般貨物自動車運送業
    M&Aの目的 後継者不在
  • 譲受企業

    株式会社ミヨシ産業

    鳥取県米子市 / 代表取締役社長 谷野 利宏

    業種 建築資材卸業等
    M&Aの目的 事業拡大

はじめに、譲受側である谷野様にお伺いします。
現在取り組まれている事業について教えて頂けますか。

谷野

 ミヨシ産業は、元々「ミヨシ紙店」という、紙の卸問屋が母体で、事業の一部で、襖紙・障子紙等の紙製品を建具屋さんへ卸していました。当時、今後の流れはアルミサッシが主流になると見込んで立ち上げたのがミヨシ産業です。そこから建具屋ではなく、工務店に直接販売するスタイルに変え、建築資材全般を卸すようになりました。更に、仕入れて売るだけではなく、加工してから販売し、屋根瓦や外壁材は工事も一緒に請け負う等、取り扱う商品や提供するサービスを拡大してきました。エリアについても、鳥取県東部・岡山県北部・島根県・広島県へと広げ、現在は住宅・建設関係の総合商社として、建築資材卸・木材プレカット事業・工事・不動産・設計・保険等、住環境に関する事業を幅広く展開しています。

谷野

 私は厳密に言えば、三代目となります。創業はミヨシ紙店の社長であり、現在の会長である私の父が代表取締役に就任し、その翌年の2001年に私も入社しました。当時はサラリーマンの息子だったので、「会社を継ぐ」という考えは全く持っていませんでしたが、前職を辞めるタイミングで父に声をかけられ入社しました。松江支店で5年程営業を担当し、太陽光発電の新規事業を立ち上げ、取締役を経て、創立50周年のタイミングで社長に就任しました。

ミヨシ産業の強みや今後の事業展開について教えてください。

谷野

 当社の強みは、鳥取という地域市場で、現場の課題を捉えて、様々な新規事業を立ち上げ、成長してきたことです。地域では、一つの事業を伸ばすにも天井があるので、横に広がりながら事業を伸ばしてきました。計画的に展開してきたという訳ではありませんが、今では販売・加工・工事・不動産・設計・保険・住宅相談を、工務店様向けにワンストップで対応できるのは強みになっています。よく建材卸が住宅建築等、to Cのビジネスへ領域を広げることはありますが、当社では、会長も私もそのようなつもりはありません。とことん工務店様の支援に徹したいと考えています。
 強みの源泉は、時代と共に変化しています。会長が全盛の時代は、各部で独立採算制を追求していました。2000年頃には自社開発の基幹システムが完成し、各部門の数字を把握できるようにしていましたが、時が経つにつれて、自分達が所属する部署の利益追求が行きすぎてしまう状況でした。近年では、事業部間の連携を重視し、横串を刺す取組を強化することで、全体最適を図っています。

谷野

 我々は地域の住宅業界を活性化させていきたいと考えています。当社は新卒採用を始めてから育成カリキュラムをつくり、取り扱う建材等の商品や工事等の知識を身に着け、最後に「自分だったらどんな家を建てたいか」という家づくりプランを発表する取組を実施していました。一方、当時、工務店をはじめとした住宅業界も人材育成に困っているという声を聞いていたので、「よかったらうちの研修に一緒に参加しませんか」と声をかけたところ、たくさんの方にご参加頂きました。結果として、同じ地域・同じ業界で働く人材が、会社の垣根を超えて、繋がる機会をつくるような取組も実施しています。

M&Aの活用を考えたきっかけや経緯について教えてください。

谷野

 私が社長に就任した時に、5年間で売上高を20億円伸ばすことは、新規事業を立ち上げることで達成できると考えていました。更に20億円増やすためには、M&Aを活用しないと厳しいだろうと考え、特に運送会社・工事会社をグループに迎え入れたいと思っていました。事業を多角化する中で、「物流」「施工」に関しては、伸び代を感じつつ、自社で事業拡大するには人材が不足するだろうと感じていました。
 物流に関しては、我々の既存の事業の中でも物を運ぶ機会は多い一方、ドライバーを募集して採用・育成を行うことに限界を感じており、外注を始めたところでもありました。施工に関しては、地場の工務店が設計をしてどうしても手が足りない時に、我々が施工を請け負う形でお手伝いする機会があります。我々自身が住宅を売るつもりはないので、住宅を売る力ではなく、施工力がある会社と連携したいと思っています。

谷野

 トラビスさんをご紹介頂くまでも、色々とご案内はありましたが、「トラックはあるが倉庫はない」等、ニーズが合わないケースが続いていました。建築資材の配送はジャストインタイム方式なので、必ず倉庫が必要になります。トラビスさんの場合、倉庫を保有しており、社屋もきれいで、車もピカピカ、そういった点に魅力を感じました。加えて、これまで建築資材の配送は取り扱っていなかった点や、当社のお取引先のメーカー様の運送をお手伝いすることで、新しい仕事を創出できる等、トラビス側の新規事業を生むことができるのではという期待もありました。

眞﨑

 谷野社長とお会いしたのは2年前ですが、当時から運送会社をグループに迎え入れたいニーズは伺っていましたね。

谷野

 M&Aのお話を進める中で、基本合意に至る前に、当社の雰囲気を知って頂きたいと思い、当社が主催する総合展示会に、山本社長にお越し頂きました。当社の社員や、扱っている商品を見て、事業規模や事業内容を知って頂き、控室で「初めまして」のご挨拶をしました。今、振り返ると、当社とのM&Aを前向きに考えて頂けるよい機会になったのではと思います。

眞﨑

 事業承継を考える上で、決め手になったポイントの一つだったと思います。

続いて、譲渡側である山本様にお伺いします。
事業承継を考えたきっかけやM&Aの経緯を教えてください。

山本

 トラビスは、元々あさひ物流という会社の大型部門が2000年に分社化してできた会社でした。当時、私は専務でしたが、2013年に代表取締役となりました。トラビスは、スーパー向けの飲食料品や雑貨のコース配送を多く取り扱っています。
 事業承継は2年前頃から考え始めました。考えた大きな理由の1つは、後継者がいなかったことです。娘と甥っ子が入社していますが、甥っ子はまだ若く、後継者候補として志はあるのですが、借金を背負わせるのは難しいと考えていました。事業面でも、燃料費の高騰化の影響を強く受けていました。加えて、いわゆる物流業の2024年問題もあり、この問題を地域の中小企業が乗り越えることは難しく、資本力のある大手しか対応できないのではと感じており、会社の今後について不安を抱えていました。

山本

 眞﨑さんに相談する中で、具体的に承継先候補のリストを頂きました。当社と同じ地元の会社で、なるべく異業種の会社の方がいいと考えていました。ミヨシ産業さんは、実はこのお話が出る前から少しだけお取り引きをさせて頂いている関係でした。ミヨシ産業さんは、地元でも有名で、知らない人はいない会社です。業績を伸ばし、自社で加工も行い、新工場も保有している、こういう業態と一緒になれば、新しい仕事がついてくるのではと感じました。実際に、総合展示会で谷野社長にお会いし、社員の皆さまを見た時も、若い方が多く、手腕のある会社という印象を受けました。当社は、これまで、大手のお客様とも取引をしていました。M&Aした後も、同様に事業を継続して欲しいというのが希望でした。加えて、ミヨシ産業さんは物流のシステムを持っていないとのことでしたので、何かお力になれるかもしれないと思いました。
 私自身、70歳で引退することを考えていましたが、先方からは「70歳なんてまだ若いから、まだまだやって欲しい」とおっしゃって頂けました。現在、既に新規事業のお話も進めています。事業承継を終えたことで、経営面での不安が軽くなり、新しいことにも取り組めるようになりました。

眞﨑

 谷野社長からも、山本社長が前向きに取り組んで頂けるから助かると伺っています。

お二人にお伺いします。クレジオ・パートナーズを利用した感想を教えてください。

谷野

 一つは、タイミングぴったりの時に、よいご縁を持ってきて頂きました。これまでもいくつかお話を持ってきてくれるところはありましたが、担当者が変更になったり、ヒアリングしてそれっきりだったりと、あまり継続的にフォローして頂くことが難しかった様子もあり、我々も資金を投下してでもM&Aに本気で取り組まないといけないというタイミングでもありました。眞﨑さんは、米子出身でもあり、地域のことも分かってくれる、細かいことも対応してくれる、有益な情報くれる、M&Aに関して教えて頂けるというのは、ありがたいと感じています。ご縁を繋いで頂いたお互いの仲人役として、今後もその役割を続けて欲しいなと思っています。
 M&A後の対応を見据えて、眞﨑さん自身がトラビスの監査役を申し出て頂いたり、経営のコンサルタントをご紹介頂いた時は、「そこまでしてくれるの?」と驚きました。M&Aの経験が少ない当社にとって、M&A後も監査役として、目を光らせて頂き、経営のアドバイスにも力を貸してくれることは、当社のリソースでは難しいところでもあるので、非常に助かります。

山本

 M&A仲介会社に先入観はありませんでしたが、最後まで眞﨑さんに手取り足取り教えて頂きました。M&Aで事業承継を進めることに迷いはありませんでしたが、後継者問題や、経営面での不安もあり、早く決断した方がよいだろうなと考えていたので、スピード感をもって進めて頂いたことはよかったと思います。事業承継に課題がある中で、道標の役割を果たして頂いたことにはありがたさしかありません。
 もし、このお話が進んでいなかったら、今でも「明日はどうなるんだろうか」と、頭を抱えていたと思います。社員も私も、まだまだ発展していきたいという想いは変わっていません。最初に異業種を希望したのは、異業種であれば相互発展があると考えていたからです。同じ課題を抱える物流会社同士だと押しつけ合いが始まるのではと思うところもあり、異業種であれば、新しい仕事を生み、先方もメリットを感じて頂けると考えていました。

山本様にお伺いします。M&Aを終えた感想や今後の方向性を教えてください。

山本

 「ほっとした。安心した。」というのが、正直な感想です。「M&Aされると敗者」という見方がありますが、会社としてはまだまだ先があります。「未来を切り開いていける社員を育てていきたい」というのが、私の夢です。希望がなければ、老いていくだけですので。ミヨシ産業さんの良いところも吸収しつつ、少しでも業績を伸ばし、利益を出していきたいです。

眞﨑

 個人的な趣味はありますか。

山本

 私は無趣味ですよ(笑)。昔は、魚釣りが好きでした。船持っている友人がいて、朝から夜まで釣りをしていました。社長職になってからはできなくなりました。その友人に船買おうと言われていましたが、その友人も船も手放してしまった。友人というのは、実は社員で、長い付き合いですね。釣りにいきたいと思っても、今では身体がついていかない、年齢を感じますね。中小企業はすごく大変です。コンプライアンス遵守は理解しますが、キャッチアップするためには、知識もお金も必要です。今までのトラビスであれば将来はどうするのだろうと思われていたかもしれませんが、このM&Aを通じて世間の見方は変わったと感じますし、社員の安心感も変わったと思います。

眞﨑

 このM&Aを通じて、我々は山本さんの幸せに貢献できたのでしょうか。

山本

 幸せになれたし、幸せになれると思います。じたばたしていても、どうしようもなかったと思います。もしこのM&Aがなければ、社員も路頭に迷い、私にも何も残らなかったかもしれません。助け船を出して頂いたことに感謝しています。M&Aしてから、当社の社員も、今までになかった会議を自主的に行うようなりました。会社をよくしていきたいという気持ちを再認識できる機会にもなりました。

最後に、お二人にお伺いします。
今後、事業承継に悩んでいる方や、M&Aの活用を考えている経営者に向けて
メッセージを頂けますか。

谷野

 我々が思い描いてたM&Aが実現し、スタートの第一歩を踏み出したばかりで、助言はおこがましいと思っていますが、M&Aを活用したいという想いがあるのであれば、ご縁は大切にして、会う機会を多く持つべきだと思います。当社の場合は、長い目で考えられることができましたが、M&Aに取り組もうとする会社はリスクにフォーカスするのではなく、一緒になることでプラスになる要素を見出して、課題を乗り越えていくことが必要だと思います。

山本

 ドアをノックすべきだと思います。そこからじゃないと何も始まらないと思う。
 今でも大手の仲介会社からたくさんのDMはきますが、いずれも周りから攻めてこられる印象です。眞﨑さんは、ストレートでした。良いことも悪いことも、本音で真実で話をして頂き、スピード感を持って対応して頂けました。事業承継を望んでいる人間にとってはありがたいのではと思います。
 自分から相談するのは勇気が必要です。事業が順調な時は誰も悩まないと思いますが、悩みがあれば、まずはドアをノックすることが必要だと思います。取引先から、M&Aについてネガティブに反応されることは今のところありませんでした。同業者の知り合いからは「よかったね」と声を掛けられました。皆、考えているんですよ。「先が見えない」と、不安を抱えていると思います。