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実績 PERFORMANCE

CASE 14

意思・歴史・技術を引き継ぐ、
ものづくり企業の従業員承継

広島県東広島市に本社を置き、地域で確かな実績を有するものづくり企業である鉄南精機。自動車部品金型の設計・製作・メンテナンスの事業を代々展開し、今回の事業承継では、従業員へ社長を引き継いだ。従業員承継により、新しく社長を引き継ぐことになった経緯や、今後の想いについて伺った。

  • 企業概要

    有限会社鉄南精機

    広島県東広島市 / 代表取締役社長 内田 大補

    業種 プラスチック金型製作・各種機械加工
    事業承継の目的 事業継続

はじめに、貴社の創業の経緯や事業内容について教えてください。

内田

 成形屋に勤めていた前社長(黒木氏)の父が、旋盤・金型の技術を活かし、1972年に旋盤1台から事業を始めました。当時、この付近の地名が「河内町鉄南」だったこともあり、地名をとって「鉄南精機」が誕生しました。

内田

 現在の事業内容は、自動車部品に使用する樹脂等の金型の設計・製作・メンテナンスです。具体的には、エンジンカバー等、自動車に使用するプラスチック部品の金型を製造しています。小ロット且つ短納期にも対応できるといった小回りが利くところが、当社の強みです。
 2009年のリーマンショックまでは、初代社長も元気だったのですが、リーマンショックによって大きな影響を受け、体調を崩してしまいました。その後、息子であった前社長が社長を引継ぎました。最近は、地場の自動車メーカーの新規展開もあり、事業が大きく成長しました。更なる事業拡大のため、2019年には新工場を建設しました。

従業員から事業を引き継がれた内田様に伺います。
従業員承継の経緯について教えてください。

内田

 私自身は鉄南精機に2000年8月に、いち工員として入社しました。当時は、製造業と言えば、一人の職人が設計から加工までできることが一人前の証でした。1990年代後半から、短納期化・汎用化が進み、海外企業が価格競争力を持つようになりました。その状況に自分なりに危機感を持ち、会社に色々と提案していましたが、「提案した君がやってみなさい」と言われ、前社長と一緒に様々なことにチャレンジする機会を得ることができました。私は元々手先が器用じゃなかったので、企画や管理といったポジションに自然とおさまり、海外視察等、色んな経験をさせてもらいました。社長を引き継ぐ前は、部長職として、生産管理・品質管理・設計等、総合的に会社に関わる立場にいました。
 事業承継の話は2021年4月頃に、前社長から「君に社長をやってもらいたい」と言われました。正直、そう言われるまで、自分が社長になることは考えたことがありませんでした。一人の職業人として、より自分を評価してくれる会社に転職するというのは、誰もが考えると思いますが、「鉄南精機で社長になる」ということは想像していませんでした。
 相談された時、色んなことを考えました。 もちろん、お断わりする選択肢もありましたが、決断するために、まずは関係者に色々聞いてまわりました。代々続くオーナー家の会社でもあったので、前社長の親族や、これまで当社をご支援して頂いた取引先の皆さま、お世話になった方々に「私が社長を引き継ぐことになった場合、実際どう思うか?」と質問しました。色んな意見はありましたが、いずれも「あなたがやるべし」という意見でした。 周囲に前向きな意見を頂いたことに加えて、自分もお世話になった先代社長に恩返しがしたいという想いもあり、職業人として人生に二度とないチャンスとして受け止め、社長を引き継ぐことを決断しました。

社長を引き継ぐにあたり、ご家族の反応や不安だった点について教えてください。

内田

 妻も私と似ており、計画的に進めるよりは、チャレンジしていくことが好きな性格です。リスクと責任もあり、もちろん大変なことは分かっていましたが、「どうせやるんでしょ」と背中を押してくれました。妻も元々勤めていた会社を辞め、現在は当社の経理を覚えてくれるようになりました。新しい選択をしてくれたことに感謝しています。
 社長を継ぐことを決断するのに、一番不安だったのは、「社員の皆は受け入れてくれるか」という点です。私が社長を引継ぐことは、社員にアンケートをとって決定する訳ではありません。中小企業の事業承継は、株式を持っている人間が判断します。ただ、指名された側からすると、他の社員の皆はその決定をどう受け止めるか、「それなら辞めます」と言われるのが一番怖かったです。
 もちろん、経営についても不安はありました。社長を継ぐ前の自分を例えると、「一緒の車に乗っているけど、助手席に座っているようなイメージ」でした。私も社長と一緒にハンドルを持って、アクセルを踏む意識は持っていたつもりでしたが、それでも最後は「社長が決めたこと」とどこかで考えていました。

クレジオ・パートナーズを利用した感想を教えてください。

内田

 最初は、クレジオ・パートナーズをむちゃくちゃ警戒していました。 当時、全く様子が分からない中で、いきなり事業承継を切り出されました。前社長は騙されているんじゃないか、何かあるんじゃないかと思っていました。いきなりスーツできて、企業買収とか、おどろおどろしいこと言って、「お前ら誰やねん」というのが第一印象ですね(笑)。
 クレジオからの話だけでは判断できないと思ったので、知人から紹介を受けて、税理士・行政書士の先生にもセカンドオピニオンに入ってもらいました。そこで初めて、会社の決算書を見るような感じでした。

内田

 自分としては、前社長がクレジオに依頼したので、まずは前社長が満足する結果になって欲しいというスタンスでした。 話合いを進める中で、クレジオは、前社長に対して悪意を持って何かを考えている訳でないことも分かりました。価格面も、最初聞いた時は高額に感じましたが、一般的な相場からは手ごろな金額であると理解し、補助金申請もサポートして頂きました。
 振り返ると、最後まで、桑本さんのスタンスは素晴らしかったと思います。事業承継は、権利・お金が絡むデリケートな問題です。その間に入って、両方に寄り添うことは相当難しいことだと思います。
 今後は、事業承継に悩む会社も増え、親族内承継・従業員承継だけでなく、M&Aも一つの有効な選択肢となることは間違いないと思います。そんな中、クレジオ・パートナーズが地域にあるのは心強いですね。一方で、企業としてもM&Aを選択肢にできるような評価される企業を目指さなければならないとも感じます。

従業員承継を終えた感想や今後の方向性を教えてください。

内田

 決められたものを決められた価格で提供する、いわゆる「工場」という立場から、価値を提案できる「企業」を目指す必要があります。 重要なのは、社員の存在であり、社員は財産です。今回、私が従業員という立場から社長を継ぐことになりましたが、こんなことがあっても誰一人辞めていないのは本当に嬉しく思います。むしろ、承継後、従業員は増加しました。増えた従業員の中には前社長の甥っ子も入社してくれました。創業家のDNAが新たに加わることは、個人的にすごくよいことだと感じています。
 新しい体制になり、「こうすればよくなるのでは」と以前から持っていた想いが少しずつ形になりつつあります。最初は上手くいかないこともありましたが、個人の集団ではなく、組織として成長することを目指しています。 組織の雰囲気が徐々によくなってくる中、一方で、新規の受注も獲得しなければならないので、従業員とお客様、両方を大事にしていく企業になりたいです。

従業員承継を考える経営者に向けてメッセージをお願い致します。

内田

 それぞれの事情があるのでメッセージとして伝えるのは難しいですね。 従業員承継が必ずしもいいとも言えないし、だからといってM&Aがいいという訳でもない。会社の状況や、それぞれのパーソナリティもあるので、事業承継について、軽々しく希望を持ってやるべきとお伝えすることはできません。
 私から言えることがあるとすれば、「どんな状況も自分次第」ということですね。社長を受けるか受けないか、受けた後、会社を良くするか悪くするか、全ては自分の責任でやるということです。経営はやってみないと分かりません。面白いと思うこともあれば、こんなことまで考えないといけないのかと思うこともあります。
 ただ、一人では達成できないことを組織で達成できることが、その組織の代表として取り締まることの醍醐味だと感じています。製造業なので、経営の中でも、事故が起きるかもしれないといった様々なリスクを孕んでいますが、皆と協力して、お客様に喜んで頂いた時、従業員の立場では感じなかった、今までにない喜びはありましたね。