fbpx

実績 PERFORMANCE

CASE 12

顧客・地域を想うからこその事業承継という選択肢、
広島銘菓の地域を超えた事業承継

広島銘菓として、地域に愛される洋菓子店『無花果』。顧客の幸せを考え、廃業ではなく事業承継という選択肢を検討し、広島県事業承継・引継ぎ支援センターを訪ね、クレジオ・パートナーズと出会う。譲渡先は、「ありがとうカンパニー」を経営理念に掲げ、山口県・広島県で「みほり峠」等の飲食事業を展開するMIHORI。コロナ禍を経て3年越しとなった事業承継の経緯や想い、地域企業のM&Aについて伺った。

  • 譲渡企業

    有限会社無花果

    (旧:有限会社イタリー亭)

    広島県広島市 / 会長 大門 洋三

    業種 洋菓子製造・販売
    譲渡理由 後継者不在
  • 譲受企業

    株式会社MIHORI

    (株式会社フジコーホールディングス子会社)

    山口県山口市 / 代表取締役会長 藤井 公、代表取締役社長 藤井 一正

    業種 外食業
    M&Aの目的 事業拡大

まずは譲渡側の大門様にお伺いします。これまでの創業の経緯を教えて下さい。

大門

 広島に生まれ、学生時代に上京し、飲食店でのアルバイトをきっかけに、東京でイタリア料理店に勤めました。母親が一人だったので、最初から2~3年で広島に帰る決意をしていました。
広島に戻り、イタリア料理店を開業しました。開業を目指したのは、自分の父親の血だと思います。父は12歳から鉄工所で勤務し、19歳の時に自ら工場を立ち上げました。父は幼少期に亡くなりましたが、母から父の話を聞かされていたので、私の開業も自然な流れでした。

大門

 イタリア料理店を営む傍ら、デザートをつくるために立ち上げたのが、今回承継した『無花果』です。店舗の土地に無花果の木が庭に植わっていたのですが、その実を子供たちが食べていました。開店のために切る必要があり、せめて名前だけでも残そうと、店名を『無花果』にしました。その土地も、父親が以前購入してくれた資産です。父親には感謝しています。
 『無花果』は、生菓子・焼菓子の店舗販売に加え、百貨店等でも販売しています。第26回全国菓子大博覧会で中小企業庁長官賞を受賞した「またきて四角」や、「廣島バターケーキ」、「廣島バウムクーヘン」等のブランド力のある商品を展開しています。

眞﨑

 事業承継を提案する中で、同業の方からも、レシピ数の豊富さは驚かれました。特に「チーズケーキ」は当社の中でも評判のおいしさでした。

大門

 実は、私自身はお菓子を作れません。商品開発のレシピは、これまで当店に関わってくれたシェフが残してくれた資産です。自分が作り手になってしまうと限界があるので、経営者として関わることで、シェフやメンバーの活躍を見守ってきました。店がよくなる/ダメになる要因は「外」ではなく「中」にあるというのが私の持論です。

事業承継を考えたきっかけや経緯について教えてください。

大門

 事業承継を考えたきっかけは妻でした。 子供は東京にいるので、事業を継がないことは分かっていました。『無花果』を開店してから約35年間、妻は正月三が日しか休んだことがなく、私はその姿を見続けていました。夜疲れて、倒れるように眠る姿に「なんとかしないとダメだ」と思いました。仕事より妻が大事と考え、地域経済誌を見た時に、広島県の事業承継・引継ぎ支援センターを初めて知りました。そこからご紹介頂いたのがクレジオ・パートナーズでした。当時、2019年の夏頃のお話ですね。

眞﨑

 当時、対応したのが代表の李でしたが、結構厳しいことをお伝えしたと聞いていました。

大門

 厳しいことを言われた記憶はないですね。ただ、最初はどういうものか分からなかったので、他地域の同業のM&A事例を参考にしながら、特に譲渡価格については、自分なりの考え方を持っていました。事業承継が進むにつれて、現実的な事業の評価を知ることができました。
 何社かお会いさせて頂く中で、徐々に価格面ではなく、自分の事業を一番理解してくれるところに継いでもらいたいと思うようになりました。
 幸いコロナ禍でも、当店の売上は伸び、利益も2倍になりました。もちろん、コロナ禍で特別対応はしましたが、結局は、これまでの積み重ねの結果だと思います。商売の面だけでなく、良心的に真面目に経営しているところを、お客様はきちんと理解しています。誠心誠意、経営に向き合うことが大事です。 コロナだからといって、事業承継のことは特段気にしませんでした。だって、商売やった方が面白いじゃないですか。

譲渡先の決め手について教えてください。

大門

 譲渡先のMIHORIさんは、飲食店の事業を展開していました。イートインとテイクアウトの違いはあれど、接客という意味では共通していました。また、既に息子さんへの事業承継を進めており、お二人に経営者としての感覚を感じたことが決め手でした。

クレジオ・パートナーズを利用した感想を教えてください。

大門

 嬉しかったのは、誠意をもって取り組んで頂いたことが私にも伝わったことです。仲介という立場上、MIHORIさんの意向があることも知っていますし、その意向を汲んで、クレジオ・パートナーズが話をしているのも知っています。そのためのテクニックを駆使しているのも分かります。ただ、それはゴールに進めるための道筋です。
私が気に入らないと思えば、その場で帰ることもできました。それでも、全体的な流れや、日々お話する中で、クレジオの誠実さが滲み出ていたので、交渉を続けました。

事業承継を終えた感想について教えていただけますか。

大門

 さみしいというのが本音のところです。
 特に、妻は辞めたくなかったと思います。30年以上育てた我が子が離れるのと同じ感覚で、自分が辞める時は、店もなくしたいというのが感情的なところです。ただ、そうなっては従業員が困るし、特にお客さんが困ってしまいます。広島でも、昔食べにいっていた飲食店がどんどん減っています。おいしいものが食べられるお店がなくなるのはさみしいですよね。当店の誕生日ケーキを楽しみにしていた子供達や家族も悲しむと思うと、事業承継という選択肢がよいと考えました。

続いて、大門様をご担当された広島県事業承継・引継ぎ支援センターの新居様にお伺いします。ご相談の経緯や事業承継を終えてメッセージを頂けますでしょうか。

新居

 当センターにご相談に来られる経営者の皆さまも、事業承継まで時間がかかるケースはよくあります。条件交渉が済み、前向きに進み出せば早いものの、第三者へ譲渡するという意思決定には時間を有します。
 大門さんの最初のご相談も、第三者承継が前提ではなく、「後継者がいないが、雇用・事業を継続したい」と相談に来られました。その中で、第三者承継(M&A)という方法についてご紹介させて頂きました。
 当時は、金融機関へのご紹介が多かったのですが、ご相談する中で、金融機関でない方がよいかもしれないということで、『無花果』はブランド力があったこともあり、M&Aの支援実績のあったクレジオ・パートナーズへお繋ぎしました。交渉が進む中で、徐々に第三者承継(M&A)が、大門さんにとって、経営者としての必然になってきたのではないかと感じます。

新居

 大門さんは、「地域のためになりたい」という夢を持っています。事業承継を終えて、背負っていた重荷を下ろされましたので、ご自身のセンス・アイデアを活かして、新しいステージで活躍して欲しいと思います。
 今後の無花果については、譲受側であるMIHORIさんの経営戦略の中で、新しい無花果として、これまでのブランドを活かしながら成長を期待しています。

続いて、譲受側である藤井社長にお伺いします。貴社が現在取り組まれている事業について教えて頂けますか。

藤井

 当社は、創業当時は、うどん屋から始まり、現在では、和食中心のファミリーレストラン、和食屋、焼肉屋、とんかつ屋、ハンバーグステーキ屋、唐揚げのテイクアウト専門店、高級食パン店といった外食を中心に、山口県内で22店舗、広島県内で2店舗を運営しています。エリアは山口・広島に限定しています。このエリアで成長するために、多様な業態を展開し、賃貸・農業・物販や野菜のペースト事業等も開始しました。

M&Aの活用を考えた経緯や今回のM&Aについて教えてください。

藤井

 エリアを山口県・広島県と限定しているがために、多様な業態を展開する戦略を採用しており、今回のM&Aもその一環でした。
 元々、M&Aについては、地域の中で大きく事業成長を目指すための手段として捉えていました。M&Aを通じて、これまでその会社が知識やアイデアを元に築き上げた地位を、従業員と共に引き継ぐことができます。

藤井

 今回の『無花果』の事業譲受については、勤務している社員の皆さまのサービスの質や、洋菓子製造の技術の高さ、地域でNo1の評価を得ていた点を魅力に感じました。単純にお店を引き継ぐだけではなく、現在当社が展開している珈紋(珈琲店)とのコラボレーションを期待しており、ネットも含めた物販を強化することで、外食と物販の新業態を地域の中で展開したいと考えています。
 M&A後の『無花果』との関わり方は、当社からも社員を出向させ、従業員の皆さまのニーズをくみ取り、特に労務環境を整備していきます。既に従業員の皆さまが自立しているので、環境整備をすることで、事業の伸びしろを広げていきます。

クレジオ・パートナーズを利用した感想とM&Aに対する考えを教えてください。

藤井

 クレジオ・パートナーズには、商談の中でクッション役を担って頂きました。直接言えない部分も間に入ってくれることで交渉が円滑に進むという意味で、親身に接してくれました。M&Aについては、もう少し相手側の従業員の情報等を理解する機会があって欲しいですね。そういった情報を得る機会があれば、M&A後の経営統合においても円滑に進めることができると思います。

最後に三者にお伺いします。事業承継に悩む経営者にメッセージを頂けますか。

大門

 ケースによって違うので一概には言えませんが、「ある時点で、清水の舞台から飛び降りる選択が必要」ということだけは言えます。決断するまでは長いと思いますが、どこかで決断しないといけない。それがいつかは本人しか分からないと思いますが、そういう時がありますよ、とお伝えしたいですね。

新居

 大門さんの例もそうですが、どの形の事業承継も、時間をかけることは無駄ではないと感じています。パっと決めてしまうのではなく、考えながら進めていくのが大事です。当センターは無料の専門機関なので、何年でも時間をかけながら寄り添って対応できます。ぜひ、事業承継に悩まれている経営者は、早めのご相談をお願い致します。

藤井

 M&Aは事業承継に対して、非常に有効な手段だと思います。ただ、結婚と一緒で相性も大事です。何らかの方法でM&Aの中で、相性を見極める期間があってもよいのかなと感じるところです。特に、従業員とはどこかのタイミングでしっかりと譲受先の様子を伝えておくことで、M&A後の事業展開がスムーズになるのかなと思います。