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実績 PERFORMANCE

CASE 08

地域と家族のための事業承継、
地域にも広がるM&Aという選択肢

広島県・江田島で一般廃棄物収集運搬業を営む江能商事。地域を支える事業を営む一方、事業承継の課題を抱えていた。同社が選んだのはM&Aによる第三者への事業承継。M&Aによる事業承継がまだ一般的ではない地域において、どのように事業承継を進めていったのか、その経緯や当時の想いを、江能商事 会長 平井勝二氏に伺った。

  • 譲渡企業

    有限会社江能商事

    広島県江田島市 / 会長 平井 勝二

    業種 一般廃棄物収集運搬業
    M&Aの目的 後継者不在
  • 譲受企業

    A社

    山陽地方

    業種 一般廃棄物収集運搬業等
    譲受理由 事業拡大

「思い切ってやめる」も大事、家族・地域のための事業承継

江能商事 平井様にお伺いします。江能商事を立ち上げたきっかけや事業内容について教えて頂けますか。

平井

 私は江田島が出身で、呉でタクシードライバーをやった後に、今から約30年前の42歳くらいの時に一般廃棄物収集運搬業をやろうと思い、江能商事を設立しました。土建会社の社長にやりたいと相談しましたが、当時は様々な事業者がいたので、入札の値段を下げる価格競争が激しい時代でした。価格がどんどん下がり、周りが手を引いていく中、江能商事は、当時は自分一人で運営していたこともあり、生き残ることができました。
 事業で苦労したのは、定期収集という毎日の仕事を続けるのに、一人だったので、ケガをしたり、身体を壊して休むことができないところですね。

M&事業承継を考えたきっかけ、経緯を教えて頂けますか。

平井

 70歳になった頃から、「事業を辞めたい」と思っていました。それまで、孫に事業を継いでもらいたいと思っていましたが、なかなか任せられるだけの能力を身に付けさせることができませんでした。従業員にしても同じです。この事業を経営するためには、少し先を考えて、段取りよく進めないといけません。ゴミ収集をするのに何が必要か、どう分別するべきか、その場で判断する必要があります。親族内承継・従業員承継については諦めていたので、事業承継については悩んでいました。
 辞めたいと思っていたので、会社を畳む方向で、事業を縮小していましたが、市役所からは、「他にゴミ収集を分かっている会社が島内にない」ということで、事業を続けて欲しいと言われていました。辞めると言いつつ、新たな入札の仕事も受けてしまい、もう暫く事業をやることを考えていましたが、そんな様子を見かねた娘婿から「お義父さん、事業承継の専門の会社にも相談してみようか」と言われ、クレジオ・パートナーズの眞﨑さんを紹介してもらいました。

M&Aについて、当時の印象や、具体的にどのように進めていったかを教えてください。

平井

 M&Aというのは、テレビではそういうのを見たことあるくらいに思っていました。最初はあてにしていませんでしたが、娘婿の紹介ということもあり、どこか親しみやすい印象を受けました。
 すぐに相手先候補の紹介があり、M&Aの交渉を進めました。自分としては、最初は「気にいらんかったら、いつでも交渉を止めるけんな」くらいの気持ちでいました。クレジオ・パートナーズから紹介された相手先は、自分も名前は知っていたこともあり、同じ関連の仕事をしているのであれば任せられると思い、そちらに事業承継することを決断しました。
 今からの時代、こういう事業承継を支援してくれる取組は必要だと思います。黒字の企業であれば廃業もできますが、そうでないところは借金もあるので、簡単に辞められないですよ。

M&Aを終えた時の感想について、教えてください。

平井

 最初に出た言葉は「やっと肩の荷が降りた」。今も会長として、仕事に当たっていますが、M&A前と比べると責任の持ち方が違います。それでも、相手先のために新しい仕事も受けて、きれいに引継ぎたいと思います。引き継いだ先の企業が大きくなることで、「江能商事」も大きくなって欲しいと思います。

眞﨑

 M&Aが終わった後、奥さんから「普段は滅多に言わないけど、“お疲れ様、ありがとう”と伝えようと思うんよ」と聞き、これまでのお二人のご苦労を考えると自分も泣きそうになりました。最初から最後まで関わる中で、事業承継を終えた平井会長の表情の変化を思い返すと、少し緊張が解けた様子が窺えて、私も平井家の皆さまに少しはお役に立てたかもしれないと感じ、嬉しくなりました。

事業承継を終えて、今後はどのように過ごされますか。

平井

 後は長生きするだけだね。畑の手入れが好きで、草刈りもしないといけない。やらなくちゃいけないことはまだまだたくさんあるよ。

事業承継に悩む方や、M&Aに取り組む方へのメッセージを頂けますか。

平井

 思い切ってやめんと、つらい目に遭う。自分の会社はワンマンで続けてきた。年取ったら、手をひかんと。70歳でやめようと考えていたが、きっかけがないとなかなか前に進まない。引きずったら、家族が大変になる。娘婿に継いで欲しいとも思ったが、そういう時代でもない。自分が好きな仕事をすればいい。入札の仕事が終わる残りの2年続けるつもりでいましたが、いいタイミングだったと思います。

「廃業する前に相談して欲しい」、
過疎地域の事業承継にも様々な選択肢を

続いて、江能商事と関りのある、江田島市商工会 松本様にお伺いします。
江能商事とのご関係を教えてください。

松本

 商工会と江能商事さんとは、こちらの会社が始まったタイミングからのお付き合いです。主に仕訳のチェックや記帳業務、社会保険・雇用保険のところで関わっています。

江能商事の事業承継について感想を教えてください。

松本

 江能商事さんは、一般廃棄物収集運搬業という、地域の社会的なインフラを支えて頂いている、江田島市にとってはないと困る企業の一つです。実は、事業承継については毎年、確定申告の際に、ご相談がありました。「廃業しようと思っている。」と聞いた時、「本当に事業を手放す時は相談して欲しい。」と伝えていました。
 M&Aで事業承継を進めるお話を聞いた後に、すぐに話が決まって、驚いたのを覚えています。商工会でも、セミナーや確定申告の際のヒアリングや、事業承継・引継ぎ支援センターと連携した取組をしていますが、過疎が進む江田島という地域で、江能商事さんのような事業承継のケースは自分が聞く限り初めてでした。

地域における事業承継の現状と課題について教えてください。

松本

 切実な問題として、経営者が高齢化しており、後継ぎがいない企業が多くいらっしゃいます。息子さん・娘さんに借金を背負わすという決断はなかなか難しいです。財務と事業が安定しているいい会社は事業承継が進んでいる印象です。移住者に継ぐ試みもありますが、承継のミスマッチもあり、江能商事さんのようなよい会社でも、事業承継を進めるのが難しいというのが地域の課題です。
 正直、M&Aの仲介会社が地域の案件を取り扱うことが意外でした。もう少し規模の大きい案件を取り扱っている印象がありました。公的な支援機関もありますが、事業承継の選択肢を用意するためにも、民間企業ならではのネットワーク、機動力がある組織と連携していくことは大事だなと感じました。

事業承継に悩む皆さまへのメッセージを頂けますでしょうか。

松本

 廃業にも色んな理由はありますが、廃業する前に一言相談してもらえたらと思います。島という地域だと、なかなか情報が行き渡っていないこともあり、事業承継に選択肢があることすら認識されていない状態です。様々な支援施策もあるので、事業承継に悩んだら、早めにご相談して欲しいと思います。